異界ふしぎ発見!

平中なごん

Ⅰ オープニング

 夜の闇を走る、誰もいない静かな電車の車両内……ただ一人座席に腰掛けたオカルトハンター竹内巨江たけのうちのきよえが口を開く。


「気のせいかも知れませんがよろしいですか? 先程から某私鉄に乗車しているのですが様子がおかしいのです……すべては、そんな書き込みから始まりました」


 真っ暗な車窓の外を覗う竹内を映し出しながら、今度は男性のナレーションが入る。


「2004年1月8日の深夜23時18分、掲示板〝2ちゃんねる〟の〝身のまわりで変なことが起こったら実況するスレ26〟に、〝はすみ〟と名乗る人物がそんな書き込みを行った…… 普段、通勤に使っているその電車、いつもは5分から7、8分で次の駅に停車するはずなのだが、すでに20分は走り続けているというのだ」 


「この書き込みに2ちゃんねらー達はすぐさま反応。でも、最初は乗り間違えの可能性や、特急や快速に乗ったのでは? と、あまり深刻には受け止めていませんでした」


 ナレーションの言葉を受け、振り返った竹内が再び口を開く。


「ところが、続くはすみの投稿を見ていく内に2ちゃんねらー達は俄かに騒然とし始める……」


「はすみさんの他に5人くらいの乗客がいましたが、彼女以外は全員寝ていました。また、車掌室や運転席はブラインドが下りていて中が見えません」


 またもナレーションを引き継ぎ、立ち上がった竹内がブラインドのしまった運転席の窓を視聴者に見せつける


「そして、いつもは通らないはずのトンネルを抜けるとようやく速度が落ちはじめ、ついに列車はあの駅に停車します」


 映像の中でも電車が停車し、開いたドアからホームへと降り立った竹内は、そこにある駅名の書かれた看板へと歩み寄る……そこには「きさらぎ駅」と記されている。


「そう! きさらぎ駅です! 今夜は異界駅系都市伝説の金字塔、〝きさらぎ駅〟についてお送りしまーす!」


 他には誰もいない、閑散とした真っ暗な駅のホーム。カメラ目線でそう竹内が宣言すると、チャラララ、チャラララ、チャラララ、チャラララララ〜…と馴染みのBGMが流れ、画面がスタジオへと切り替わる……とともに。


界ふしぎ発見!」


 と、タイトルがデカデカと画面に映し出された。


「皆様、こんばんは。司会の草薙不比等くさなぎふひとです。今夜の異界ふしぎ発見はあの有名な異界駅〝きさらぎ駅〟を取り上げてみたいと思います」


 タイトルが消えた後、なぜかレスリングのユニフォームも着たマッチョな司会者が、今回のテーマについて改めて説明をする。


「まこも君、きさらぎ駅の話は知っていますか?」


「名前ぐらいは聞いたことあるんですが、細かい筋となるとよく知らないですね」


 そして、解答者席に並ぶ三人の内の一人、真ん中の神官らしき白い束帯姿の男性に尋ねると、彼は困ったような顔をしてそう答える。


「確かに。有名ではありますが、そういう方はけっこう多いのかもしれませんね。そんな方のためにも、今回は詳しく〝きさらぎ駅〟の内容について見ていきたいと思います……それでは異界ふしぎ発見!」


 神官の言葉にそう返した司会者は、カメラの方へ右手を掲げて、お決まりの文句をその口にした。

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