Ⅴ 二問目の答え
「それは見てすぐわかるものですか?」
「あまり目に見えてわかるというものではなさそうですね。まあ、怪談にはいくつかベタなオチというのがありますが、これもその一つと言えるでしょう……では、お書きください」
場面が切り替わると野々宮の質問に、マッチョな司会者はそんなヒントを与え、早々、解答を書くよう皆を促す……三人が電子ペンを持つ手を止め、残った赤い衣姿の〝超ふひとくん人形〟をベットすると、また司会者がそれぞれの答えを順々に見てゆく。
「全員、ポイント三倍の超ふひとくんを残しています。まずは黒羊さんからいきましょう……〝歳月が過ぎていた〟?」
「ええ。浦島太郎も竜宮城から帰ってきたら長い年月が過ぎてましたでしょう? あんな感じでじつはもう何十年も過ぎてたんじゃないかと。ええ、ええ」
相変わらずのポーカーフェイスで尋ねる司会者に、こちらも相変わらずの早口で黒羊が説明する。
「まこと君は〝両親が別人〟……というのはどういうことですか?」
「迎えに来てくれていたお父さんお母さんが実は別人に変わってたんですよ。はすみさんは知らない人なのに、二人は両親だと言い張るような……そんな怪談、聞いたことあるような気がするんです」
「なるほど……墓田さんは〝もう死んでた〟?」
不安げな表情で答える野々宮に、まるで気持ちの籠ってない口調で司会者は相槌を打つと、速攻、最後の墓田に話を移す。
「ベタなオチといえばやっぱりこれでしょう? もとの世界だと思いきや、なんとそこは霊界だったんですよ。じつはもうはすみさんは亡くなっていて、それを両親に聞かされてワオ! ワオ! ってなるんです。これで間違いないでしょう?」
「全員、オチとしてはありそうですが……さあ、正解はどうだったんでしょうか?」
自信満々にギャグも絡めて答える墓田だが、今回も司会者は完全スルーしてカメラ目線で合図を送る。
「えっと、今年は2011年4月……え? 2011年!?」
また画面が駅前に戻ると、竹内がガラケーのカレンダーを見ながら何か呟いている。
「電車に乗ったのは確か2004年の1月……え!? あれから7年も経ってる! そう。正解は〝7年経っていた〟でした」
竹内の正解発表に一瞬だけ画面はスタジオへと戻り、はずれた野々宮と墓田は残念そうに頭を抱えている。
「それで7年後に再び書き込みがあったんですね。つまり7年間、はすみさんはこちらの世界から消えていたことになるんですが、不思議と両親は何事もなかったかのように彼女を連れて帰ったんだそうです」
画面がまた戻ると、今度は再び夜の電車内で、独り座席に腰掛けた竹内がエピローグを語っている。
「この後、きさらぎ駅へ行ったという人物が他にも現れ、また別の異界にある駅の話も次第に語られ始めます。例えば、かたす駅ややみ駅、はいじま駅など、その数、なんと20以上……そんな〝異界駅〟のはじまりが、この〝きさらぎ駅〟だったんですね」
語りながら竹内は、コートのポケットからガラケーを取り出す。
「7年後、はすみさんが文末に書いた本当に最後の書き込みは次のようなものでした…… みんなありがとう…。おかげで戻れました ; ; 皆さんもお気をつけて^^」
彼女の手元がアップされ、そう打ち込む画面が映し出されると、映像は夜の線路の俯瞰へと切り替り、暗い田園風景の中を二両編成の電車が走ってゆく……そして、プァ〜…という、うらさびしい汽笛とともに、列車は「伊佐貫」と書かれたトンネルの中へと消えていった……。
直後、チャチャチャーン…!という軽快な効果音が鳴り響き、画面と視聴者の意識は明るいスタジオへと引き戻される。
「ということで、黒羊さんはおまけの正解。まこも君、墓田さんは没収刑です」
司会者の言葉に、お馴染みのチャラッチャラッチャ〜…をBGMにして、蒼白い手が野々宮と墓田の超ふひとくん人形を台の下へと引きづり込む。
「さあ、今晩はまこも君が全問不正解のパーフェクト残念賞を出したので、ご本人と視聴者の中から抽選で一名様に、八大地獄周遊四十九日間の旅をプレゼントいたします。それではまた、不思議な異界でお会いいたしましょう」
「え!? あ、ちょ、ちょっと待ってください! うわっ! た、助けてぇっ…!」
司会者がお別れの挨拶をする背後では、牛頭と馬頭の筋肉隆々な大男が二人、裾から現れ、野々宮の両脇を抱えて強引に連行してゆく……だが、そんな獄卒に連れてゆかれる彼のことは無視して、今回も無事、番組は終了となった……次回、あるんだろうか?
(異界ふしぎ発見! 了)
異界ふしぎ発見! 平中なごん @HiranakaNagon
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