この世には二種類の人間がいる。
一つ目は、普通に生きていける人間。
もう一つ目は、普通には生きていけない人間。
後者である才は、小学校からの付き合いがある宝に養われていた。
宝はいわゆる天才で、才の唯一の取り柄だったものすら奪っていく。
宝が目の前にある限り、才の劣等感は続いていく。
それなのに、宝は才に近づいてくる。
才はすごいと、友達だと、嫌味なく、無遠慮に彼の心へ踏み入ってくる。
才に理解ができないほど献身的な宝。それは友情なのか、それとも…
「宝に勝とう」
自分を助け、自分を傷つける宝。
この息苦しさを打破するため、才は決意する。
果たして、才は宝に勝てるのか。
才に理解されないほど恵まれた宝にも、歴史があった。
一般的に受け入れられる正解しか出せない宝は、多くの人に認められながら、埋められないなにかがあった。それを埋めるのが、才だった。
罪悪と贖罪と崇敬と嫉妬。
二つの視点が交互し、最後にはどこへたどり着くのか。
才と宝は陰と陽の二人。陰から見る宝は環境も人柄も何もかも恵まれていて、陽から見た才は言葉少なに静かにその才能を研ぎ澄ましているようだった。
お互いがお互いを意識しつつも幼い頃はけして溶け合うことがなかった境界線が、時を経て大人になったある日、再び巡り逢う。社会不適合者の烙印を自分で押して人生のどん底にいた才は、ひょんなことから宝の持ち家で居候を始めた。そして二人は小説を書きながら互いに傷つき、傷つけ合う――。
たしかに最悪な再会だったし、こうして会わなければお互い感じる必要のなかった苦しみもたくさんあった。宝の行き過ぎた献身は、底なし沼でもがいていた才からしてみれば理解の範疇を越えた宇宙人のようである。そして才の精神疾患の泥沼に沈んでいく様子が痛々しく、その描写が生々しいからこそ、読者は宝のアガペーに爪を立てる才を見放すことができない。それはきっと、宝も同じ気持ちだったのではないだろうか。
そうして次のページへどんどん進み、行きつく所まで傷つけ合った二人の勝負の結末に、正反対な二人が衝突しながら同じ目標へ向かって成長するバディ・ブロマンス作品が大好きな私は、心の底から満足したし、安堵した。そこまで夢中にさせてくれた作者様に、改めて感謝を。息苦しくなるほどの暗闇と目を開けられないほどの光を見事に書ききった現代ヒューマンドラマ、おすすめの一作です。