第五話「人の形」

 人形や人間の形をしたぬいぐるみには子供の玩具というほかに、何かを宿す憑代という側面を持っています。神道の祭礼において人間の形を模した形代に神霊をおろしたり、人形に厄災や穢れを封じ川に流すような風習があったり、あるいは恨みや妬みを込め人を呪う道具になったり。ぬいぐるみに魂が宿って動き出したという内容の怪談が多く存在していたり。このような人形たち、特に祭礼で用いられるものは「ひとがた」と呼ばれることもあるのだそうです。私はこのことを知って、不思議な……そして少し不気味な感覚をおぼえたのです。






 なぜ人の形をかたどった人形やぬいぐるみが、そのような超常的なものを封じたり宿したりできると信じられるに至ったのでしょうか?




 なぜ人智を越えたものたちを扱うことができるのが、人の形なのでしょうか?




 そして、本当にそのような力が人の形にあるのだとしたら。











 その形の元になった私たち人間にも、同様の力があるのでしょうか?


 あるいは私たちは知らぬ間に、もしかすると生まれながらにして、私たち自身で理解できないものを宿しているのでしょうか?






 そう考えると、怖いのです。



 私の中にあるのは、私の命だけではないのでしょうか?


 私が気づいていないだけで、別の何かが潜んでいるのでしょうか?


 私の身体は、私だけのものではないのでしょうか?




 私の意識の及ばない……私の中の奥深くで、得体の知れないものが蠢いている。そんな気色の悪い感覚に襲われるのです。そして、僅かなほころびから中身が飛び出したぬいぐるみのように。いつか、その得体の知れないものたちが私を喰い破って出てくるのではないか。そんな気がして、ならないのです。


 もしも叶うのなら……今日まで続くこのような儀式や風習を見出し、信じ続けた大昔のご先祖様に私は問いたいのです。
















 ──なぜ、人の形なのかと。

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ひとくち怪談─人形編─ 双町マチノスケ @machi52310

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