白い綿毛の記憶
ショーファー
白い綿毛の記憶
わたしは遠くの村から飛んできた。
記憶があるのはお母さんにしがみついた兄弟姉妹でいっぱいだったことくらい。
突然の強い風に飛ばされ空高く飛ばされてからの事ははっきり覚えている。
空を飛んで初めて生まれた場所がこんなに大きいことを知った。
空には私と同じように元気よく飛ぶ綿毛の友達でいっぱいでした。
空はとても気持ちが良くずっと飛んでいたいと思った。
どのくらい飛んできたのだろう。
わたしは全く知らない土地に飛んできた。
暫くすると降り立った土に根付いた。
寒い日をいくつか乗り越えて徐々に太陽の暖かさが増してゆくことを感じた。
白かった綿毛はすっかり無くなり緑の葉が大きく育ち始めた。
しばらくすると緑の葉はのこぎりのようにギザギザになった。
多くのギザギザの葉が増えてたくさん太陽の光を浴びるようになり周りの友達も多くのギザギザの葉を付け出した。
お隣は兄弟かな? 同じように風に乗ってやってきたことは確かだけどよく解らない。
どんどん背が高くなり景色も少しづつ変わって来た。
周りの友達も同じように背が高くなり始めた。
そしていつからか頭が大きく膨らんできた。
少し頭が重い。
頭が下がらない様に頑張った。
ある日わたしと同じようにお隣さんの頭も大きく膨らんでいた。
次の日お隣さんの頭の先端が黄色く色づいて来た。
自分も黄色く色づいている様な気がした。
幾度が激しい雨を経験したがそのたびに頭がドンドン重くなっている気がした。
お隣さんを見ていると黄色い帽子をかぶっている様に見えた。
足元を見ると自分の影も大きな帽子になっていることが見て分かったが黄色かどうかは分からない。
暑い日をいくつも数え 少し涼しく感じ始めた頃 大きな帽子が小さく折りたたまれた。
わたしは以前より眠くなる時間が徐々に増えている事を感じ始めていた。
眠る時間も徐々に長くなってきていることも感じていた。
そんなある日頭がまた開き始めた。
今度は以前のような帽子では無く何か涼しく感じた。
お隣さんを見ると白い綿の帽子に変わって来ていた。
私の頭もきっと白い綿みたいになっているのだろうと思った。
数日すると頭全体がとても軽くすっきりし始めた。
たくさんの白い綿毛が頭を覆っている事を自分の影を見て知った。
時々話し声が頭から聞こえてくる。
何を言っているのかは分からない。
でも何か懐かしい響きを感じていた。
とても気持ちが良い響きであり歌声のように聞こえ眠りを誘った。
突然秋を感じる風が吹き始めるとあたり一面綿毛が飛び始めた。
それを見て昔わたしが風に飛ばされた記憶が蘇りました。
私の頭には私の子供たちがいるんだと気づいた。
一人二人と風に乗って子供たちがまた別の土地を目指して飛んで行くのを感じた。
子供たちが飛び立つたびに徐々に意識が薄れてゆく感じがした。
気持ち良い意識の薄れ方のように感じた。
大部分の子供が風で旅立ったとき最も幸せな気分になっていた。
その後意識がどんどん薄れていった。
わたしの子供たちは空を楽しんだかな。
最も自由な時間は空を飛んでいた時間であった事を思い出した。
また空を飛びたいな。周りはどんな世界なのか見たいな。
そう思いながら再び記憶が遠ざかるのを感じた。
何故か空を飛んで周りを見渡すことが出来ました。
でも以前とは違い上空に舞い上がり続け意識を失いました。
次に目が覚めた時には周りに綿毛の兄弟姉妹がたくさん居ました。
何か懐かしい感じが蘇りました。
すると強い風が吹き周りの綿毛の兄弟姉妹と一緒に空へ舞い上がりました。
空を漂う気持ちのよさは中々味わう事が出来ない感覚でした。
こうして私はまたある土地に降り立ち新しい時間を過ごすことになりました。
何度も何度もそれは繰り返されました。それでも空での自由な時間は毎回心の記憶に美しい景色を植え付けました。
そのたびに心の中で「私は本当に幸せなタンポポ」だと太陽と風、それに大空と大地に感謝するのでした。
そしてまた次に空に飛び立つ日が来ることを信じて。
白い綿毛の記憶 ショーファー @hiro_create
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。白い綿毛の記憶の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます