第29話

「ほう。それがお前の魔眼か。見た所、力の反射、もしくはそれに類似した力だな。強力だが、惜しいな。身の丈に合っていない力だ。」


 サイは一度技を喰らっただけでそれがどういうものなのか、看破出来るだけの経験と洞察力があった。

 魔眼所持者とも戦った事はあるが、ここまで強力かつな魔眼所持者も珍しいと思っていた。

 大体の魔眼所持者は本能的にある程度は産まれながら制御出来ているものであるが、稀にあまりに強力な魔眼が暴走して制御の仕方を欠如してしまう症状があるとサイは聞いた事があった。

 サイとしてもそんな奴と戦った事はなかった。

 大抵の魔眼制御不能者は赤ん坊の時に自身の魔眼の結果によって事故死したり、気味悪がった親によって殺されたりなど、成人どころか子供になるまで生きて残れる人は少ないのである。

 ヤタは優しい両親とサリアの家族によってなんとか生きていく事が出来た経緯があった。

 だからこそ、サリアに対して忠義と忠誠を友情にミックスした様な感情を持っているのである。

 10年ほどの修行によって封印せずともオンオフのコントロールを出来るようになったが、過去のトラウマから魔眼の抑える事は出来ていても、出力を上げすぎると暴走する危険性はまだある。

 その為、出力を上げるのは細心の注意と極限の集中力で上げていかないといけないのである。


「ミシスが惚れるのも納得がいく能力だ・・・が、それだけだ。お前自身はまだまだ未熟。超至近距離での徒手空拳会得して、更にさっきからそれを多用しているのを見るにお前は自身の力すら反射する危険性を持っている。その為の接近戦による武器を使わない素手での戦闘。違うか?」


「・・・その通りだ。」


 ヤタが剣も銃も使わない理由は無意識に反射して己を傷つけない為の予防処置だった。

 それに反射の魔眼を単独戦でしか使わない理由は味方と敵との攻撃を取捨選択して反射する事が実践レベルに到達していないからだった。


「でも、未熟でも、俺自身が弱くても、貴方に通じるならそれでいい!」


「その威勢はよし!だが、弱者が強者の力を使ったところで、真の強者には通じない!」


「がはっ!・・・な、なんで。」


 ヤタの猛攻に対して完璧に避けて完璧なタイミングのカウンターを放ったサイの拳をしっかり視認して反射した筈なのに、無理矢理殴られた事にヤタは混乱していた。

 何故なら反射は成功したという手応えがあり、反射したならサイには自身の破壊力が跳ね返ってくる筈だからだ。

 それがまるで無かったかのように殴られたことにびっくりしていた。


「そうか!マルチだ!ヤタ、気をつけろ!母さんは一撃に複数の衝撃を乗せる事ができるんだ!それを反射した一撃を相殺してお前を殴ったのよ!」


「・・・マルチ。だが、おかしい。それは前にもあったが、俺はそれから魔眼を鍛えて克服した。ただのマルチで対策できるはずがない。」


「お前がくらった事のあるマルチは同タイミングに二撃、もしくは三撃を加えるものだろう。わたしアマゾネスのマルチは一撃一撃のタイミングをずらす事が出来る。だから、お前の反射を相殺する事が出来た。やはり、宝の持ち腐れだな。」


 サイはガッカリした様な残念な表情でヤタに説明してくれた。

 もし、ヤタが魔眼を完璧に扱えるならずらした一撃一撃全てを反射させる事が出来る筈なのである。その程度のことが出来るポテンシャルをヤタから感じているサイとしてはこの結果は悲しみすら覚えるものだった。


「さぁ、ミシス。今度はお前だ。」


「まだ!俺は終わっていないぞ!オバさん!」


「あ?何つった、雑魚。」


 さぁ、かかってこいと目の前にいるヤタを無視してヤタの後ろにいるミシスに向かって言っていたサイにムカついたヤタは絶対見返してやるとサイを挑発して怒らせた。

 今日一番のパワーで殴ろうとしたサイの一撃を指の骨をバキバキと折られながらサイの拳を掴んだヤタにサイは驚いていた。

 さっきの一撃は受け止めた手を腕ごと吹き飛ばすほどの威力を含んでいたのである。

 それが指の骨が粉々になる程度で済んでいる状況に疑問に思いながらヤタの目の色が変わっている事に気がついた。


「さあ、第二ラウンドだ。正真正銘、己の肉体のみでお前に殴り勝つ!!」


「正気とは思えないが、乗った!」


 魔封の魔眼

 魔力に関する技術を全て封じる魔眼である。

 これによって相手は魔力なしの肉弾戦を強制されるものだが、アマゾネス相手には意味もなく逆に自身の肉体強化すら解除してしまうこの魔眼は悪手でしかないのだが、それでも魔力ありの対戦よりマシだとヤタ覚悟を決めたのである。

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後方腕組み従者に絶対になる!!! 栗頭羆の海豹さん @killerwhale

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