第28話

「ハッハー!やっぱりお前が一番面白いな!」


「くっ!この!死ねぇ!」


 今はサワが一人で戦っていたというより戦う状況になっていた。

 極限まで集中しているサワは正常時と違って、連携が苦手になり味方を傷つけるような荒さが表面化する癖があった。

 その為、他の人達は二人の戦いに参加せず、サイの隙を見ながら力を溜めていた。

 サワの最速剣技をサイは見て避けていた。

 今まで勘や察知など視覚に頼らないもしくは併用した方法で工夫して破られたことはあったが、純粋な動体視力で刀を認識して避けられる経験はサワにとって初めてだった。

 しかし、動体視力が良い以上にまるでコチラの技を事前に知っているような動きが混ざっている事にサワは違和感を持っていた。

 自分の出身国は鎖国から開国したばかりで自身の剣術が漏れているとは考えられなかったが、そこでサワはある事を思い出して、怒りに満ちた表情を浮かべた。


「まさか・・・貴方達ですか?!私のお祖父様を誘拐したという人たちは!!!」


「・・・あぁ、やはりお前、和の国大和やまと出身か。それも母様が襲った異国の剣士の孫だと、奇妙の運命もあったものだな。」


「・・・認めるんですね。」


「改めて昔の資料を見なければ本当にお前の祖父を襲ったのが、私の母様かは分からないが、そこに残っていた剣術はお前が使っているものだな。間違いない。」


 アマゾネスは一度戦った相手の資料は詳しく残しておく習慣があった。

 後世に同じか、似た者がいた場合、対処法の参考になるように資料は何よりも大切に原本と複製を用意して、それを研究する施設があるくらいである。

 サイもサワを見た時から過去に母を含む団体が襲ったという異国の団体の話を思い出していた。

 性欲旺盛かつ当時最強だったサイの母が酒の肴に面白そうに話していた事から余程強い一団だったんだなと思いながらその当時はもういない団体に思いを馳せていた。

 その孫が目の前にいて娘の友達とは愉快な縁もあるものだとカラカラ笑っていた。

 そんなサイを見てサワは殺さんとばかりに睨んでいた。


「私のお祖父様はそれはそれは強いお人だったそうです。・・・でも、この大陸の国と融和を結ぼうと訪問した際、一団が何者かに襲われてお祖父様を含めた何人もの人が数ヶ月も行方不明になりました。その後、一団が帰国しないといけない時にいつの間にかお祖父様達が裸で倒れているのを街で発見されたと知らせを受けたそうです。その時には既に心神喪失した状態だった。」


「まぁ、私達アマゾネスに襲われたらそうなるわよね。」


 サワの話す昔話を聞きながらミシスは申し訳なそうにアマゾネスに襲われた集団は昔から心身共に衰弱した状態で帰ってくるか、一生帰って来ないかの二択なのである。

 そう意味ではサワのお爺さんは生きて母国に帰れただけ運が良かったと言うべきだが、そんな火に油を注ぐ真似を友に出来るほどミシスは図太くなかった。


「国に帰って治療が完了したお祖父様は以前の厳格な強い人ではなくなっていた。今の妻でおるお婆様にすら女性に怯える臆病な人へと変わってしまったのです!そんなお祖父様を見て来たお祖母様の悲しみを!恨みを!此処で晒して見せる!諸悪の元凶である人は何処ですか?!此処で切る!」


「・・・まぁ、そう焦るな。後で母様には合わせてやる。今頃、ドラゴン狩りでもして帰って来てる所だろうからな。」


 どっちにしてもすぐには会えないというサイの話を知るか!と怒っているサワはイラつきながら怒鳴っていた。


「そう言うな。お詫びに面白いものを見せてやる。」


「・・・・・・は?」


 サイが上空に手をあげると観客席からメイが投げた刀が丁度落ちて来たのである。

 そこから滑らかに抜かれた刀の刀身は清水のように澄んだ綺麗な色をしていた。

 そんな業物がある事にはさして驚かなかったが、そこから流れるようにとったサイの構えにサワは驚きすぎて唖然としていた。


災冠さいかん剣術 竹。」


「!祭神さいかん剣術 梅!・・・ぐっ!がぁぁぁ!!」


 サイから放たれた突きの砲撃がサワに向かって一直線に飛んできたが、それを防御技である梅で咄嗟に直撃を防いだサワだったが、あまりの貫通力に刀が折れそうになったが、なんとか逸らす事が出来た。

 逸らした突きは壁に綺麗な丸い穴を深々を作った事からその貫通力を皆が実感した。


「なんで?お前がその技を?!!」


「アマゾネスは一回戦った相手の技を徹底的に研究して、それがアマゾネス私達でも使えるものなら独自の型にカスタマイズする。これもその成果の一つだ。」


 サイが放った突きは所々自分の竹とは違っていたが、明らかに自身の流派を元に作られた剣術である事を受けた事で理解した。

 サワ達が使う剣術は既に研究済みだった。

 その研究によって生まれたのがこの剣術だった。サイは母の話に出て来た剣士が気になっていたので、その研究資料を漁って剣術を己のものにしていた。

 人相手に使うのはこれが初めてだったが、どうやら上手くいっているようで満足そうな笑みをサイは浮かべた。


「もう満足した。目新しいものがないのならお前はこれにて終わりだ。竹!・・・・・・ほう。」


 さっきの突きとは比べ物にならない程の威力の砲撃がサワに襲いかかろうとした瞬間、その突きが反転してサイに襲いかかった。

 それを興味深そうに見たサイは突きを素手で受け止めてその威力を皮膚で感じた。


「凄いな。まんま私の威力が返ってきているな。それがお前の魔眼か。」


「待たせたな。後は任せてくれ。」


 両目を青く輝かせたヤタがサワの前に立っていた。

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