再会と引っ越し

 2匹が夢が醒めると、そこにはどうしたことか愛するご主人様がいた。彼女の幼くて小さな手は2匹の前足を掴み、そしてすうすうと寝息をたてていた。


(これじゃ)


(動けないニャ……)


 2匹とも彼女を起こしたくないので、沈黙を守り、足を動かそうともしなかった。彼女は可愛い寝顔を右に左に動かして、2匹に「起こさないで」とアピール。


 すると、2匹は先日まで抱いていた「自分こそご主人様第一の愛され者」という気持ちを捨て、


「ワンワン」


「ニャーニャ」


と互いに謝った「つもり」で鳴いた。夢空間のように人語を話すことは出来なくなっていたようで、2匹は相手が何を言っているのか最初は分からないでいた。


 だけど、彼らは少し考えてから意味を解することが出来たようだ。ワンちゃんもニャーちゃんも満面の笑みを見せていたのだから。


「うーん……、あ!」


 鳴き声に反応して目を開けるご主人様。目をこすりつつ意識がはっきりしてくると、2匹をぎゅうっと抱きしめて、


「ワンちゃん、ニャーちゃん。おはよう!」


と言ってから、2匹と遊ぶために道具箱へと向かった。おそらくボールと猫じゃらしを持ち出すつもりなのだろう。


 小さな空間の小さな幸せ。ご主人様と2匹だけの貸し切り空間は、彼らが成長、老いるまで続けられた。


◇ ◇ ◇


 十数年が過ぎた。ご主人様は愛する人を見つけ、新たな人生を歩むこととなった。すっかり老いたワンちゃんとニャーちゃんは彼女の新居に行くことは出来ず、それが2匹にとっては悲しいことだった。


 ご主人様は大人になり、2匹よりずっと大きくなっていた。話すことの出来ない2匹は気持ちを伝えたくても出来ない。それでも渾身の力で、


「ワーン!!」


「ニャー!!」


と鳴いた。それを耳にしたご主人様はボロボロと泣きながら言った。


「ワンちゃん、ニャーちゃん……バイバイ」


 これがご主人様と2匹の最後の顔合わせとなった。


◇ ◇ ◇


「……おい、起きろ!」


「起きて。ほら」


 2匹は無理矢理に起こされた。重たい目を開けてみると、だいぶ昔に見た仲間がそこにいた。


 番犬ケルベロスと女神バステトであった。一体何が起こったのだろうか。


「何だワン?」


「何だか、意識が遠のいていったようニャ」


 2匹は人間が定義するところの「死」を認識できなかった。ご主人様の住む世界から遥か遠くの場所に引っ越してしまったことなど考え付くはずもない。


 死後の世界を訪れ、そこで人智を超えた存在の番犬、女神と再会したのだろう。彼らはかつて集まった仲間たちを呼び出すと、楽しみにしていたように言った。


「ねえ、あなた達を愛してくれたご主人様とのお話。全部聞かせてよ!」


「俺たちも聞きてえなあ!」


 ワンちゃんとニャーちゃんは皆に笑顔を向けた。さて、何から話そうかしら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イヌとネコの頂上決戦 どちらが人に愛されてるの? 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ