夢の終わり

 重苦しい空気を嫌ったのだろう。重い口を開いたのは三つ首の番犬ケルベロスであった。


「どうしたんだ」


「お前たち!」


「俺たちはこんなの、こんなの……」


 そこまで言ってから、三つ首の一つがボロボロと泣き出した。本心を隠せなくなったようだ。


「羨ましいぜ!」


「おい、隠してたことを言うな!」


「お前もそう思うだろ?」


「そ、そりゃ……羨ましいぞ!」


 他の首二つももらい泣き。そして、そこにいた皆ももらい泣きをした。ワンちゃんとニャーちゃん以外の皆が「愛される」という感覚を始めて知った瞬間だった。


 当たり前に受け取っていた「愛される」という経験。ワンちゃんとニャーちゃんは、そして他の家庭で適切に買われている仲間たちはなんと幸せな時代を生きているのであろう。


 じめじめした感じの夢空間はだが、不意に終わりを告げた。ゴゴゴゴと何かが崩れるような音が聞こえたかと思えば、ワンちゃんとニャーちゃん以外の仲間たちの姿が薄れていくのがはっきりした。


「な、何が起こってるワン?」


 ぶるぶると震えるワンちゃん。そんな彼に優しく仲間たち――ケルベロスがイヌ科(?)を代表して語った。


「残念だがもう」


「お別れだぜ」


「でも、良いものを見られてよかったぜ!」


 別れを惜しんでいるような素振りを見せず、番犬はべろべろとワンちゃんを舐めてやった。彼なりの「さよなら」だったのかもしれない。


「さあ、あなたも。お別れの時間ね」


 バステトもネコ科(?)を代表して、ニャーちゃんに別れを告げた。


「え……、もう会えないニャ?」


「きっとどこかで会えるわよ。ひょっとして寂しい?」


「当然ニャ!もっと楽しくお話したいニャ!」


 その言葉に耐えられなくなったのだろう。バステトは思わず本心をぶちまけた。


「そりゃ……、私だってたくさんあなたとお話ししたかったわよ!」


 中学卒業後、別の進路を進む同級生が感極まって泣き出すようだった。もう二度と会えないような気がしたのだろう。女神とニャーちゃんは人間のように抱き合い、別れを惜しんだ。


 番犬とワンちゃんは男友達、女神とニャーちゃんは女友達のように振る舞いながら、奇跡的な夢の空間を終えることとなった。それを眺めていたジャッカルやサーベルタイガーらも加わり、夢の主催者たる2匹は温かな気持ちで起床を迎えることとなった。


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