大集合、幸せ者とは?
「これは見たことがない!」
「あたいの時代にはなかった食い物ニャア!」
さらなる訪問者に騒がしくなった夢の空間。ワンちゃんとニャーちゃんの食事映像に群がる犬と猫の仲間たち。おかげでそこら中に涎の川が形成されそうな勢いであった。
「ほんとに美味そうだな。へへ」
「やっぱりお前もそう思うか?」
「てことはあんたも同じ気持ちかい?」
「そりゃもう!」
生きている時代がまるで違う大型犬とサーベルタイガーが意気投合していた。かと思えば、
「あれがサバンナにあればなあ……」
「無理だよ。あんなのが落ちてたら、別の奴に食われちまうさ」
「でも、もしかしたらおこぼれに与れるかも……。君も食べたいでしょう?」
「そ、そりゃ僕だってチャンスがあれば口にしたいよ」
人間たちから良い印象をもたれていないハイエナとジャッカルも、2匹の映像に引っ張りだこ。会話も自然にずる賢い調子になりながら、どうにか食べられる方法を模索していた。
「へ、何が美味そうなんだか」
「俺も同感だ」
「野生の動物を喰ってた方がいいってもんよ」
「だよねえ、ライオンの旦那!」
対照的に興味なさそうな態度を見せていたのはライオンとオオカミ。ただしそれは表面的な態度で、実は腔内に溢れる涎を見せまいと必死だった。
唯一、チュール以外の部分に注目していたのは黒猫だった。彼女だけは目に涙を浮かべていたため、気になったバステトが尋ねた。
「あの映像に何か感動的な光景があるの?」
「……楽しそう」
「え?」
困惑するバステト。黒猫は涙をボロボロと流しながらこう言った。
「2匹とも女の子に優しくされてて、とても羨ましいニャア!」
彼女の言葉を聞き、心配そうな顔をして番犬が優しい調子で――それでも見る者を震え上がらせるものだったが――語り掛けた。
「何か怖い思い出でも」
「あるのかい?」
「話してみな。慰めてやれるかもしれねえからよ」
すると黒猫は泣くのを堪えながら自身の体験を映像にした。それは魔女狩りの一環で命を奪われる黒猫仲間の姿で、容赦なく攻撃される様子は視聴する者を間違いなく不快にさせるものだった。
皆が悲しい気持ちになった。ワンちゃんとニャーちゃんも浮かない顔をしたが、それ以上に周りの仲間たちがより悲痛な面持ちをしていた。
「そういえば俺も人間体にたくさんの槍を投げられたことがあったなあ」
とサーベルタイガーがしみじみとした風に言えば、
「僕も人間の残した肉を喰おうとしたら、棍棒で叩かれそうになったよ」
「僕も……」
とハイエナ、ジャッカルが相槌を打った。すると強いはずのライオンが深く溜息をついた。
「俺の仲間も人間にやられてたな。毛皮だけ持ってかえてさ」
今度は強い動物仲間のオオカミが同感して言った。
「ああ、それは俺も同じのを見たよ。血だらけになった仲間に牙を入れてたな……」
夢の空間に黒い帳が降りたかのように、重苦しい空気が皆に覆い被さった。2匹は自分たちが如何に幸せ者であるのかを悟った。
愛してくれる者がごく身近にいて、しかも毎日欠かすことなく会えるのだから。
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