魅惑のおやつ 群れる仲間たち

 女神と番犬の興味はチュールへと向けられた。ワンちゃんとニャーちゃんはチュールを食べる映像を映してあげた。番犬は三者三様に首を傾げるが、バステトは目を大きく見開いて口からはついよだれが垂れていた。


「すごくおいしそうじゃない!」


「そ、そうかあ」


「ええ、間違いないわ。だって、ここまで、匂いが感じられるもの!」


 匂いが感じられる?そんな馬鹿な、とは思われるかもしれない。だが読者の皆さん、ここは夢の中。不可思議な現象も生じるのです。


 少なくともバステトは匂いに惹かれ、ニャーちゃんが見せた映像に近づき舌なめずりを始めた。若干引き気味の番犬。


「そんなに旨そうなもんなのか?」


「うーん……」


「そうは思えねえんだがなあ」


 そうは言いつつも、番犬はワンちゃんの映像に目を近づけていく。するとどうしたことだろう。彼らの口からは涎が溢れていった。


「これはとても」


「上手そうな匂いだ!」


「おい、これはどこに置いてあるんだ!」


「確か、お店で買ってきたってご主人様が言ってたワン」


つまり、市場に置いてあるんだな。そう番犬は判断して大急ぎで出発の準備を進めた。意味が分からず、困惑気味のワンちゃん。


「何をしているワン?」


「これから地上へ出かけるんだよ」


「そうさ、ヘラクレス(ギリシア神話の英雄)様に引き上げてもらうんだ」


「そうすれば、その美味しいチュールとやらに――」


「ちょっと待つワン。どこに出掛けるワン?」


「ギリシアさ!」


 ギリシアという国をワンちゃんは知らない。だが、自分の住んでいる国ではなさそうだと考え、無情な返事をした。


「たぶん、そのギリシアって場所にはチュールが無いワン」


 番犬は目に見えて落ち込む様子を見せた。3つの首を下に向け、涎の代わりに涙を流していた。それを慰めようとするワンちゃん。


 だが、その直後。大勢の仲間たちが突如、2匹の夢空間に姿を現した。大型犬や黒猫、果てはオオカミやジャッカルにライオン、ハイエナ、サーベルタイガーまで。イヌとネコの仲間たちがどういう訳か大集合したのである。

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