第4話 本当の遺書

 僕は社長の娘と結婚した。

 干物工場で働きつづけて、妻とともに生き、歳を取って、病気になった。

 医師からは直らない病気だと言われた。

 急なことだが、余命いくばくもないらしい。

 妻に宛てて遺書をしたためた。

 照れくさいので、いままで書いた遺書的なメモと合わせて、小説の形にした。

 あなたが読んでいるこの短い物語がそれだ。

 公開しているので、誰でも読める。

 でも、宛て先はひとりである。

 

 いままでよくしてくれて、ありがとう。

 ぼくはさきにいく、さようなら。

 たのしいことがいっぱいあった、こうかいはない。

 こどもはいなかったけれど、いぬをかったね。

 あのころはよかった、さいこうだった。

 いぬがやんちゃで、こまったね。

 きみがせわをしてくれて、たすかった。

 いぬをみとれて、よかったね。

 しごとはきらいだったけど、ぐちをきいてくれたね。

 きみのおかげで、やめないですんだ。

 きみのごはんが、すきだった。

 いつもおいしかった、ごちそうさま。 

 いままでよくしてくれて、ありがとう。

 ぼくはさきにいく、さようなら。 

 きみはいきられるかぎり、いきてほしい。

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これは遺書なのかそれともメモなのか みらいつりびと @miraituribito

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