第3話 デパート炎上で絶対絶命のピンチ

 またしても絶対絶命のピンチに陥った。

 社長の娘と親しくなり、デパートの最上階の天ぷら屋で一緒に食事をしていたとき、火災報知器が鳴った。

「六階催事場で火災が発生しました。お客様は係員の誘導に従い、落ち着いて避難してください」と放送が流れた。

 しかし、天ぷら屋の店員は係員ではないのか、誘導してくれない。

 僕は彼女の手を引いて、店から出た。


 階段からもうもうと煙が吹きあがっている。

 その煙の中からデパートの店員が必死の形相で駆け出してきて、「火災が激しく、階下へは降りられません。ヘリコプターで避難しますので、屋上へ上がってください」と誘導された。

 このデパートの屋上はふだんは解放されていない。

 ヘリポートだったのか。


 屋上へ行くと、救助のヘリコプターが接近しているところだった。無事に着地。すぐに飛び立てるようにするためか、唸りをあげるプロペラは回転したままだった。風が舞う。

 デパートのレストラン街から避難してきた客や店員は、二十人以上いた。

 ヘリの定員は五人で、無理をしても六人までしか乗れないとパイロットは言う。

 屋上は騒然とした。我先にと乗り込む人、ぐっと我慢して、弱者を優先しようとする人。僕はヘリが空中に浮かぶのを見送った。

 

 ヘリコプターは何往復かした。

 僕と彼女、デパートやレストラン街の店員たちは、他の人が避難するのを見守っていた。

 あとひとりだけ乗れる、とパイロットが叫んだ。

 僕と店員は残り、彼女を乗せた。

 離陸したヘリの窓に顔をつけて、泣きながらこちらを見ている。

 あの子が助かってよかった。

 

 地上には消防自動車が何台も到着して、消防署員が消火活動を行っていたが、火災は激しくなるばかりで、屋上も危険になってきた。

 黒煙が立ち昇り、ヘリコプターが接近できない。

 僕はまた死を覚悟した。

 スマホで遺書を書き始めた。

 あなたが読んでいるこの文章だ。


 ちくしょう、人生が楽しくなってきたってのに、ここで終わりかよ。

 まあいい、どうせ一度は死にかけた身だ。

 僕が死んでも、悲しまないでほしい。

 泣かないで、もっといい人を探してくれ。

 この気持ち、意識を失うまで書き続けてやる。


 またあの幻想的な光が見えた。煙の中に小さな光がいくつかちらちらと瞬いている。

 蛍? 夜光虫? そんなものがここにいるはずがない。

 やっぱり幻覚だったんだな。

 死にかけると見える光景。あの世の入り口の景色なのかもしれない。


 ヘリが決死の着地を試み、成功した。僕と店員たちは急いで乗り込んだ。

 黒煙を突いてヘリが飛び、デパートの下の大通りに着陸した。

 ヘリから降りたとき、スマホを強く握りしめているのに気づいた。

 また生き残った。

 この文章は遺書ではなく、メモになった。

 路上で待っていてくれた彼女が僕に飛びついてきた。

 ちょっとしたヒーローの気分で、悪くない。

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