選択

遠部右喬

第1話

 人生は選択の連続だ。

 

 駅に続く大通りを男が歩いている。程々に学校をさぼり、それなりに勉強もする、どこにでもいるごく普通の大学生だ。突然の休講で中途半端に時間を持て余すことになり、次の講義までの時間潰しに、気に入りのカフェへと向かってる。

 男は大通りを左の路地へと折れた。男の目が、なんとはなしに向かいから歩いて来る華奢な人影に向く。

 ぼんやりと眠たげだった男の目が見開かれた。

(うほっ、いい女!)

 歳は男と同じ位だろうか。小さな顔で光る大きな瞳、通った鼻筋、セクシーと清楚の間で絶妙なバランスを取る艶やかな唇。膝丈のスカートから覗く細い脚。

 彼の好みどストライクの女に、耳の奥で鼓動が激しく響く。男の視線は女に釘付けだ。

 視線に気付いたのか、女が男を見上げた。

 男は――        


選択肢→思い切って声を掛ける

   →声を掛けない


『選択・声を掛ける』

「あの、すいません」

「はい?」

「ええと、その」

 男は口籠った。これまでの人生でナンパなどしたことが無かったのだ。声を掛けてはみたものの、先が続かない。十数年の人生の中でTOP3に入る緊張に眩暈すら覚える。

 男は暫し逡巡し――


選択肢→勇気を振り絞り「今、お時間ありますか?」と会話に持ち込む

   →「すいません、何でもないです……」と会話を諦める


『選択・会話に持ち込む』

「今、お時間ありますか?」

「すいません、急いでますんで」

 女は軽く頭を下げ、急ぎ足で男から離れる。

(アンケートかなんかと思われたのか?)

 焦った男は――


選択肢→「アンケートとかじゃないです」と、食い下がる

   →「失礼しました」と引き下がる


『選択・食い下がる』

「アンケートとかじゃないです」

 追いすがる男に、女の脚が更に早まった。最早競歩だ。このまま進めば駅前の大通りに出てしまう。

 その前に――


選択肢→「ちょっと道を尋ねたいんですが」と、咄嗟に嘘を吐く

   →「ナンパです」と正直に言う


『選択・嘘を吐く』

「ちょっと道を尋ねたいんですが」

 男の言葉に女が立ち止まり、ばつの悪そうな顔を向けた。

「ごめんなさい、なにかの勧誘かと思って……何処をお探しですか?」

「あ、あー、えーと……」

 何も考えてなかった男は咄嗟に――


選択肢→大通りにあるカフェの名を言う

   →適当な店名をでっち上げる


『選択・店名をでっち上げる』

(駅近の店名じゃ、ちょっと案内されて終わりだよな。ここは一つ……)

「ホブォロレヅッペってショップに行きたいんですけど」

「⁉」

 女の大きく丸い目が、更に大きくなった。

(いや待て、俺。なんだよ『ホブォロレヅッペ』って)

「いや、あの、えっと……」

 己の言葉に狼狽える男に、女はにっこりと微笑んだ。

「奇遇ですね、私も丁度行くところなんです。良ければご一緒しませんか?」

「⁉」

 女の言葉に、今度は男の目が丸くなる。「あそこ、結構歩くし、分かり辛いところにあるんですよね」と、すっかり警戒心を解いた顔を向ける女と裏腹に、聞き覚えのない店名に、男の心で警鐘が鳴る。しかも、一時間もすれば、残りの授業の為に学校に戻らなければならない。

 男は――


選択肢→「スイマセン、やっぱりいいです」と立ち去る

   →「助かります」と、女に付いていく


『選択・女に付いていく』

「助かります」

(授業なんて受けてる場合じゃないよな)

 申し出を断るには、女は魅力的過ぎた。

 女が「こっちです」と男を促し、更に細い路地へ足を踏み入れた。慌てて女の後を追った男は、初めて通る路地を物珍し気に見回した。

 緊張気味な男に、女は柔らかな声で尋ねた。

「もしかして、ショップに来るの初めてなんですか?」

 男は――


選択肢→ナンパであることなど、おくびにも出さない

   →正直にナンパであることを告白する


『選択・ナンパであることなど、おくびにも出さない』

「はい、いやあの、いつもはネットで……」

 男の適当な答えを、女はまるで疑っていないようだ。

「私もです。お店まで遠いし、中々行けなくて……でもやっぱり、実際に見て選びたいなって思って。久しぶりに来てみたんですけど、同じ店を目指してる人に出会うなんて、びっくりしました。あそこを知ってる子って、私の周りに居ないんです」

 そうなんだ、あはは……と笑い乍ら、男は頭をフル回転させる。

(ホブォロレヅッペって何だ? ブランド、かな……でも、何のブランドだ? 服? キッチン用品? アウトドアグッズとか? 全然正解が読めない……)

 同好の士に出会えた事が相当嬉しいのか、女はすっかり打ち解けた様子だ。

「やっぱり、ネットだと実際の色味とか分からないじゃないですか」

 女の言葉に男が曖昧に頷く。

「そ、そうだよね、折角なら、直接手に取ってみたいっていうか」

(服か化粧品かな?)

「ですよね。匂いとか投げ心地とか」

(うんうん、匂いとか投げ、心地……だと……?)

「今日は何を見に来たんですか? ドマシコ? それとも、メロロブリン? あ、もしかして、新しく出たギュルモレッソとか?」

 女の口から次々と飛び出す謎の単語に、男は――


選択肢→「実は全然詳しくないんだ」と、会話を続ける

   →「実は全然詳しくないんだ」と、会話を終了させる


『選択・会話を続ける』

「実は全然詳しくないんだ。よければ、もっと詳しく教えくれませんか?」

 男の言葉に、女は少し顔を赤らめた。

「あ、もしかして、初心者さんなんですね。ごめんなさい、つい興奮しちゃって……えと、どういうのが好きとかあります? 例えば、ゴンヂュバスとウェジュヴァーだったらどっちが良いとか」

(何だそれ? ええと、ゴンヂュバスとウェジュヴァー、だっけ……?)

 初めて聞く単語に戸惑いを隠しながら、男は――


選択肢→ゴンヂュバス

   →ウェジュヴァー


『選択・ウェジュヴァー』

「ウ、ウェジュヴァー……かな……」

「私もです! 最初はウェジュヴァーから入る人、多いみたいですよ。ウェジュヴァーに始まりウェジュヴァーに終わるって言いますもんね」

(いや、聞いたことないけど……何だかおかしなことになって来たな)

 男が横目で伺うと、笑顔の女と目が合った。

 心から楽しそうな女の笑顔に見惚れ、男は――


選択肢→更に会話を続ける

   →「あ、家から電話が……」と、電話に出る振りで話題を切り上げる


『選択・会話を続ける』

「く、詳しいんですね。もっと色々教えてくれると嬉しいなー……なんて……」

(このままだと、一体何だったのか気になって、絶対今日眠れない。折角こんなに楽しそうに話してくれてるんだし、もう少しこのまま聞いていよう。はあ、それにしても、声まで可愛いな)

「私で良ければ喜んで。じゃあ、モルマンジは投げる派ですか? それとも剥く派?」

 微笑む女の言葉は、男を動揺させ続ける。

(⁉ 何その二択? スポーツなのか、いや、そうだとしても剥くはないだろ。まて、落ち着け、彼女のこれまでの言動を思い出すんだ!)

 男は慎重に答えた。

「な、投げる派……?」

「わあ、そこも一緒! うふふ、仲間が増えたみたいで、何だか嬉しいです」

 女の声が弾む。

 可愛い。とにかく可愛い。男の鼻の下が伸びる。

「じゃあ、今日はドマシコを選ぶといいかもですよ。いい色があるといいですね。狙ってるカラーって、あります?」

(色? スタンダードが分からない、ここは無難に……)

 男は――


選択肢→白

   →赤


『選択・赤』

「赤……が、あればいいな、なんて」

 男の答えに、女は暫くきょとんとして、それから明るく笑った。

「やだ、冗談ですよね。ごめんなさい、一瞬本気にしちゃいました。天然物売ってる店なんて無いのに、私ったら……」

「ははは……」

(ドマシコの天然物は赤いのか。そして店では手に入らない、と。成程、さっぱり分からん。でも、彼女の好感度は上がってるっぽいよな。よし、このまま仲良くなって連絡先を聞き出すぞ)

 女はショップの品揃えについて話し続けている。

「それで、店員さんがクァヴェレに齧られちゃったらしくて……」

(ホブォロレヅッペが何なのかなんて、後で調べればいいんだ。そもそも彼女に付いていけば、いずれ店には辿り着く……待って待って、今、齧られたって言ってなかった?)

 ますます謎は深まるが、今はそれ以上に確認しなければいけないことがある。

 男は――


選択肢→「恋人は居るんですか?」と聞いてみる

   →聞けない


『選択・恋人の有無を確認する』

「恋人は居るんですか?」

「えっ?」

 男の唐突な質問に、女は眉を顰めた。男はさも含みなどないかのように取り繕う。

「いや、一緒にショップに来ないのかなって。彼女が齧られたら困るから一人で行かせたくない、とか言われないんですか?」

 女は愁眉を開き「そういう人は居ません。趣味が同じ人がいいな、とは思うけど」と、笑顔を見せた。男は心の中でサムズアップする。

 二人は話し乍ら、二十分近く路地から路地へと渡っていった。道は次第に細くなり、晴れ渡った昼間の都会とは思えない薄暗さを帯びる。

(平日とはいえ、やけに静かだな。何で誰ともすれ違わないんだ? つーか、今、俺は何処に居るんだ?)

 男は右脇の電柱に目を向けたが、街区表示板どころか、チラシ一枚見当たらない。小さな違和感の芽が、むくむくと大きくなっていく。

「もうちょっとで着きますよ」

 まるで男の心を読んだように、女が微笑んだ。男はいつの間にか詰めていた息をほっと吐いた。

「本当に分かり辛いですよね。私も最初、すごく道に迷ったんです」

 見知らぬ道をどこまで行くのか分からないで歩くと、思ったよりも疲れるもんだよな。そう、疲れただけだ。男は無理矢理自分を納得させ、頷いた。

 ともあれ、もうすぐ目的地らしい。男が安堵した時だ。

「そうだ、そろそろ紹介状を出しておいて下さいね」

「え、紹介状?」

 驚いて立ち止まった男に、女も驚いた顔になる。

「最近、質の悪い冷やかしの客が多いから、一時的にだけど、会員からの紹介がないと店に入れないようにするって、先週からホームページに注意書きが載ってました。もしかして、まだ読んでませんでした?」

「あ、はい……」

 がっかりしかけ、男ははっとした。

(いや、元々そんなショップに興味は無いんだ。そりゃ、ちょっとは何の店か気になるけど、何となくやばそうだし、行かないで済むならその方がいいだろ)

 だがそうなると、女との縁もこれまでということになる。今更、君と話す為の口実だったとは言い出せそうもないし、かと言って、このまま女と別れるのは惜しい。

 男は――


選択肢→もう少し粘る

   →ここらが潮時、女を諦める


『選択・もう少し粘る』

「そうなんですか。いやー残念、改めて来ます。そうだ、色々教えて貰ったからお礼がしたいなーなんて……」

 男の言葉を遮り、女が微笑んだ。

「よければ、私の紹介ってことにしましょうか? 私、会員なんで」

「えっ、いやいや、初めて会ったばっかりなのに、迷惑はかけられません。それに、俺が怪しい人間だったら、君が後々困るでしょ?」

「怪しい人なんですか?」

 疑うことを知らない子供の様な女の瞳に、真っ直ぐに見詰められた男の胸がちくりと痛んだ。

(そんな綺麗な目で見ないでくれ。本当は君に下心だらけで、店名だって、口から出まかせなんだ)

 己が不誠実であることに今更ながら気付いた男は――


選択肢→もう言い出せない

   →本当はそんな店は知らないと正直に告白する


『選択・言い出せない』

「あの、俺……」

 今更嘘だとも言えず、せめてもの誠意と、男はバッグからパスケースを取り出し、中に入れている学生証を女に差し出した。女はそれを受け取りじっくりと眺め、男に学生証を返すと微笑んだ。

「これで、もう知らない人じゃないですね。安心して紹介できます」

「あ、いえ、そういうつもりじゃ」

「ヅッペのファンってまだあんまり多くないみたいだし、なんだか放っておけないんです。だから、遠慮しないで下さい。私がしたくてするんですから」

(ヅッペって略すのか……)

 にこにこしながら再び歩き出す女の隣で、男がどうでもいいことに感心する。

 それから数分も往かず、女が路地の先の古めかしいビルを指さした。

「見えてきましたよ」

 男は覚悟を決めた。

(何の店か分からないけど、ここまで来たら楽しんでやる。そうだ、案内してくれたお礼とか言って、彼女に何かプレゼントしてもいいな)

 次第にビルが大きくなる。もう目の前だ。

 そして。

「あ……」

 ビルの入り口にはシャッターが下り、「臨時休業」の張り紙が貼られていた。

「『アルポメが破裂したため、店内清掃中です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません』だって……それじゃ、当分お休みですね」

 女は肩を落とし、「済みません」と男に小さく謝った。男は慌てて手を振る。

「なんで謝るの? お店が休みなのは仕方ないよ」

「何だか強引に連れてきてしまったみたいで……挙句に、お店がやってないなんて、申し訳なくて」

(あ、うん、思いの外強引ではあったね)

 男は心の中で頷きつつ――


選択肢→折角ここまで来たんだ、女を諦めない

   →折角だがここまでと、女を諦める


『選択・諦めない』

「あの、ええと、良ければ名前を教えてくれませんか? その、お店は残念だけど、今度また一緒に来てくれたらな……と……」

 女ははっとした。

「あ、ごめんなさい。私ったら、名前も言わないで……私、asjoiuz^wakoi;:って言います」

 肝心の女の名前が全く聞き取れず、男の口に曖昧な笑みが浮かんだ。少しの沈黙の後、「えーと、どういう字を書くのかな?」と小さく訊ねた男に、女は己の名刺を差し出した。

 男が目を落としたその紙片に書かれている文字は、電話番号だろうと思われる数字の並び以外、全く読めなかった。

 黙り込んだ男に、それじゃ、さっきの場所に戻りましょうか、と女が促す。男はこくりと頷き、二人は元来た道を歩き出した。

 男は訳が分からなかった。彼女の名前も聞き取れなければ、貰った名刺(かどうか確信は持てないが)に書かれた文字も読めない。自分の頭がおかしくなったのか、彼女がおかしいのか、世界がおかしくなったのか、その全てなのか。

 ここまで目を逸らしてきた恐怖が男の背骨を這う。隣を歩く女の横顔は、あっけらかんと美しい。男は、微塵も暗さを感じさせない白い横顔から目を逸らした。

 来た時と同じ時間を掛け、二人は最初の道まで戻って来た。

「多分、私の名刺を渡せば、お店には入れると思います。次は、事前に店が開いてるか確認した方がいいかもしれないですね」

「はい……」

 男の口数が減ったのは店に入れなかったからだと考えたのか、女は労わる様に付け加えた。

「もし、まだお店までの道が不安なら連絡下さい。私の家、ここからちょっと遠いんで急だと困りますけど、事前に連絡頂ければご一緒しますよ」

「そんなに遠いの?」

(しまった)

 男は、深く考えずに己の口から出た言葉を悔やんだ。

「最寄り駅はlkjfamp@;:なんです。田舎でしょう?」

 そんなことないよ、と呟く男の頭は、混乱を通り越し、考えることを放棄し始めていた。

(この道に書かれた字も標識も、見慣れたものだ。ヅッペの店の張り紙だって問題なく読めた。屹度、彼女の活舌が悪いか、俺の目と耳が一時的におかしくなっただけだ。だって、他はどこもおかしくなってなんかないし、彼女は美人のままだ)

「私、もう行きますね。今日は、趣味の合う人とお話し出来て楽しかったです。それじゃあ」

「あ……色々ありがとう……」

 女はにっこりと微笑み、会釈して駅の方へと去って行った。男はその背中に手を振り、呟いた。

「……学校行かなきゃ」



 いつも通りの講義を聞き、いつも通りのアルバイトを終え、男は自宅へ戻った。

 軽く夕飯を済ませ、風呂に入り、人心地着いた男はベッドに腰掛け――


選択肢→バッグを漁る

   →バッグを無視


『選択・バッグを漁る』

 床に置きっぱなしのバッグを手繰り寄せると、内ポケットからクリーム色の小さな紙を取り出した。隅に小さな花が印刷された、可愛らしい名刺は、やはり何度見ても電話番号しか理解出来ない。読めないというより、脳が文字として認識しないというのが正解だろう。

(やっぱり、夢じゃないよな)

 授業中もアルバイト中も、昼間の出来事はあえて頭から追い遣っていた。そうしていないと、黒いスーツにサングラスの人物が男の記憶を改竄する為に現れたり、外国の研究所に連れ去られたりしそうで恐ろしかったのだ。だが勿論、そんなことは起こらなかった。

 当たり前の日常に戻ると、あれは白昼夢だったのではないかと思えてくる。インターネットで「ホブォロレヅッペ」を検索してみたが、結局、該当するホームページは見つからなかった。古めかしいビルも、臨時休業と日本語で書かれた張り紙も思い出せるのに、道順は全く思い出せない。この小さな紙片が何だったのか、すっかり忘れるまでバッグの中を確認しなければ、白昼夢で済んだのかもしれない。

(でも、確かに存在してるんだ。変な名前の店も、彼女も)

 言い様の無い心細さが遠のけば、自然と名刺の主が思い出される。

(可愛かったな。それに、すごくいい子だった。また会いた……いか? 違和感の大元だぞ)

 慌てて思い直すも、屈託のない女の笑顔が男の脳裏で煌めく。どんなアイドルや有名人よりも、一番好みにドンピシャの姿。

(だけど、名前も分からない……いや、聞いたけど、聞き取れなかった。でも、すごく可愛かった。でもでも、絶対に普通じゃない。でもでもでも、すごくいい子だったし。でもでもでもでも、知らない方がいい事だってあるよな……)

 溜息を吐いた男が、恐る恐る名刺を手に取ると、破り捨てようと上部を指で摘まむ。その指が躊躇い、力を抜く。枕に置いたスマートフォンの隣に名刺を並べる。『事前に連絡頂ければご一緒しますから』という女の言葉が脳内再生され、電話に目を向ける。伸ばしかけた手が電話に触れる直前、その手を引っ込める。再び名刺を手に取り、上部を摘まむ。破る直前で首を振る。名刺を置く。電話に手を伸ばす。手を引っ込める。男の手がうろうろと空を彷徨う。

 やがて男の動きが止まった。

(人生は選択の連続だ)

 男は腕を組み、枕の上に並べられた名刺と電話を睨む。

 もしかしたら、正しい選択なんてものは無いのかもしれない。「後悔する選択」しか無い時も、「例え後悔しても納得するしかない選択」しか無い事だって、良くある事だ。どうせ、選ばなかった方の選択の結果など知りようがない。それならば。

 ごくり。

 唾を飲む男の喉が派手に鳴り――


選択肢→思い切って、名刺を破り捨てる

   →思い切って、名刺に書かれた電話番号に連絡する


『選択・思い切って……』


 組んでいた腕を解き、男の手がそろり……と伸びた。

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