第4話 アルとバークと奇跡の無駄人間。

この場所がどこかを知りたくて、村長を見つけて話を聞こうとした時に、ここに来たことがある事を思い出す。


村長の顔と景色、そしてご馳走してもらったキノコシチューを思い出しながら、俺が「げ…。ここってサンロー?」と口にしてしまうと、村長は「何を言っているバーク?」と聞いてくる。


「バーク?…あ、この身体のか…」と言った俺は、ソリタリを見せて「前はキノコシチューをご馳走様」と挨拶をすると、村長は「聖剣ソリタリ!?本物!?何故それをお前が?」と驚くので、「話は通じるな。俺は勇者アル。今は王城を目指す魔王軍の魔物と戦ってた時に何かの攻撃を喰らって、気付いたらこの子になってたんだよなぁ」と説明すると、ソリタリが「…お前が倒したのはデスマジシャン。そしてキャッスルドラゴンとの戦闘中に、お前を狙撃したのは四天王アンクレ。奴のアイスバレットでお前は殺された。恐らくこの身体の持ち主はデスマジシャンに殺された。偶然か奇跡かはわからないが、同じタイミングで死んだ2人、身体の死んだアルと魂の死んだバーク、ニコイチが発生してアルの魂がバークの身体に入ったのだろう」と説明をしてきた。


なにそれ?

マジで?


ソリタリの声が聞こえない村長は心配そうに俺の顔を見ていて、「あー…、ソリタリの見解聞いてたんだけど色々やべえかも」と話して経緯を説明する。


話の中で運が良かったのかご都合主義なのかわからないが、サンローの村が魔物の群れに襲われて、大人達がゴブリンやオーク共と戦っていてバークの家族は殺されていた。

そしてバークもデスマジシャンに殺されていた。結果バークは身寄りのない子供になっていた。


俺は村長に「じゃあバークの身体で戦っても問題ない?」と聞くと、村長は「…まあそれは」と微妙な顔で聞いてくる。


この際だから気にせずに「で、ソリタリ?俺がアンクレの攻撃で死んで何時間経ったんだ?」と聞くと、ソリタリは「3分だ」と返してくる。


「…え?じゃあダイヴ達って今も戦ってるの?」

「そうなる。お前抜きでは勝てないな」


「やっべぇよ!今すぐ行かねえと!」と言った俺は村長に「ごめん!王城守んないと!行きながら食べるから、水とかパンとかくれねえ!?」と言う。

本当はあの激ウマキノコシチューが食べたいけど、時間がねえのが悔やまれる。


村長は「は?今から王城?人の足でひと月かかりますよ?」と聞いてくるが、「術でパーって走るから平気だよ!とりあえず腹減っちゃうからご飯分けてよ!」と言って、パンと水と干し肉を貰うと、俺は「ありがとう!バークの家族の埋葬よろしく!後は墓石にバークの名前も書いてあげて!」と挨拶をしてから、「いくぞソリタリ!身体強化術!滑走術!」と声をかけて走り出す。


おぉ!速い!

他人の身体だから遅いかと思ったけど、生前と遜色ない事に俺は感動してしまう。


感動していると、ソリタリが「アル」と呼びかけてくるので、「なんだよソリタリ」と聞き返すと、「検知術だ。前を見ろ。前に煙が見える」と言われたので、よく見ると確かに前方には煙が見える。


「げ…、もしかして各地で魔物が暴れてるとか?」

「大攻勢かもな」


大攻勢と聞いて、そんな気がしてきた俺は「くそー。キャッスルドラゴンと戦う前に術切れしたら意味ないんだけどな」と漏らしながらも、次の瞬間には切り替えは済んでいる訳で「……やるしかねぇ!俺のモットーは【何とかなる!】、いくぜ!検知術!!」と言って攻撃態勢になる。


検知術を使うと一瞬で広範囲の魔物達が視界に入る。

大物はトロル。

多分奴が小隊長のような扱いで、オークやゴブリンが小間使いされている。


「時間をかけるな」

「合点承知!」


俺はソリタリを構えると「広域伝心術!聞こえるか!?俺はソリタリの勇者アル…だったけど今はバーク!今からトロルとオーク優先で狩る!残ったゴブリンはそっちで頼む!俺の指示があるまで防御優先!その場を動くな!」と声をかける。


「ソリタリ!トロルはお前で斬る!それ以外は氷槍術だ!補正頼む!」

「任された!放て!」


「検知術を参考に氷槍術の数…72…、暴風術で追い風…そのまま俺も風に乗る……出ろ氷の槍!氷槍術!暴風術!ソリタリ!後追いよろしく!俺もそのまま突貫!」


生み出した72本の氷の槍を飛ばしながら、俺はトロルを目指してソリタリを構える。

氷の槍の着弾とトロルが真っ二つになるのは同時だった。


「おお、俺ってばこの身体でもやるぅ!」と喜ぶ俺に、ソリタリが「撃ち漏らしなし。村人にやれるのは後始末のみだ。走れアル」と声をかける。


「マジで!?この身体の方が戦いやすいのは気のせいかな?まあなんでもいいや」


俺は村人達に「撃ち漏らし無さそうだから、後始末だけよろしく!ごめんねー!」と声をかけて走り出すと、ソリタリが「…聞けアル。これはとんでもない奇跡だ」と言う。


「まあな、死んだ瞬間に丁度同時期に死んだバークの身体に入れるなんてなぁ」

「違う…。違くないが違う」


ソリタリの言い方が気になって、「ソリタリ?」と聞き返すと、「このバークと言う子供、最高の無駄人間だ」と言った。


「はぁ?無駄人間?」

「昔、お前達を担い手に選ぶ時にも稀にいたのだが、魔術の才能はからきしなのに、魔術の総量だけは桁違いの奴がいた。それがこの子供だ。魔術の総量だけなら、元のアルの何十倍にもなる。そこに大魔術を放てるアルの魂が宿ったのだ。まさに私が待ち望んだ勇者像だ」


「はぁ?マジか」

「ああ、これは奇跡だ。今のお前なら、更に軽身術をかけて暴風術で加速すれば、確実に王城にキャッスルドラゴンが到着する前に到着する事ができる」


俺はテンションが上がって走りながら魔術を使い加速をすると、最早滑空に近く、鳥のように空を飛びながら王城を目指していた。


「でもこんだけ乱発してたら、キャッスルドラゴン戦きつくね?」

「なら大聖堂に寄り道をしろ、大攻勢ならば大聖堂も狙われているだろうから、一石二鳥だ」


ソリタリの言葉に「あー、確かに。パイヤーの奴狙われそうだよな」と返して、パイヤーを思い出す。


パイヤーは生まれつき目が弱く、心根が美しいからと神に選ばれた少女で、弱かった目の視力をすべて神に捧げることで、神に通じる力を得て様々な奇跡を授けてきた。


コレが可哀想な話にも思えたりするが、本人は直接目の光を失って、神に通じる力で物を見られるようになり、コレまでよりもよく見えると喜んでいた。

だがまあ心で見るらしいので、非モテのダイヴとかを「凛々しいお方」と言っていたのでお察しだ。


ちなみに俺も「凛々しいお方」と言われていたが、ダイヴの後なので嬉しくもなんともない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月18日 06:00
2024年12月18日 18:00
2024年12月19日 06:00

たいむれーす。~勇者アルの6時間~ さんまぐ @sanma_to_magro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ