第3話 こんな筈ではなかった話。

こんな筈ではなかった。

魔王の奴は魔物の癖に考えていた。


ハウスバッファロー40匹をあっという間に片付けた俺たちを見て、後詰で補給なんかをしてくれる兵士達は目を丸くしている。


いつも通りの展開。

俺が全力で動き、仲間達が適宜サポートをしてくれる。


家の扉くらいバカでかい戦斧を肩に担ぎながら、「おーい。アルー。残量は?」と聞いてくるダイヴに、「カツカツー。サポートあんがとねダイヴー」と俺が声をかけると、レグオが「お前って本当燃費悪いよな」と言い、フロティアが「でもあっという間のスピード決着は、アルだからですよ」とフォローをくれる。


ソリタリは「術量が足りないな…。足りていれば1人で魔王すら倒せる筈なのに」と俺の右手で漏らしていて、いつもの会話に俺達は終わった事に安堵していた。


だが甘かった。


地響きと共にそれは現れた。


巨大な島のような巨体で、こちらを目指すドラゴンの姿。


「ソリタリ!?なんだあれ!?」

「キャッスルドラゴン…、城竜だ…。あんなものまで用意していたのか?」


ソリタリの話だと本当に人が住める城くらいのサイズで、今見えているサイズよりも実際は大きくて、会敵まで距離があるからなんとか息を整えて、補給をするべきだと言われたが、奴が歩く度に地響きで家は倒壊していくし、立派な屋敷も踏み潰されていく。



それらを見ていられない俺は、「ダメだ。アイツをこのままにしたら人の住める場所が無くなる!術無しで切り刻んで少しでも足止めをして、術が溜まったら一気に蹴散らしてやる!」と声を荒げて前に飛び出すと、後ろからは「アル!」、「馬鹿野郎!無茶だ!」、「戻れ!」と聞こえてきたが止まれなかった。


本当に見た目がデカいから距離感が狂ってしまい、奴を射程範囲に補足したのは数時間後でもう昼になっていた。


その頃には、諦めて追いかけてきてくれたダイヴ達も横に居てくれて、「やるしかねぇな」、「嫌になる大きさだな」、「…あの大きさに攻撃が通用するでしょうか?」と口々に話していた。


ある程度回復していた俺は、「一気に勝負に出る。ダイヴ、合体攻撃だ。あのサイズなら満月が有用だ。使うから併せて」と言って前に出て飛び上がり、「ソリタリ!」と声をかけた所で、何かが胸に当たり俺は吹き飛んでいた。


「アル!!」と俺を呼ぶダイヴの声、「いやぁぁ!」と叫んだフロティアの声、「狙撃!?何処だ!?フロティア!立ち止まらずに動け!アルの奴を回復してやれ!」というレグオの声が聞こえながら、俺は意識を失っていた。



目の前が暗い。

このまま眠りたくなるような暗さだ。


だがここで眠ってはいけない。

今も魔王の領土で戦う聖剣の勇者達、キャッスルドラゴンに立ち向かった仲間達、キャッスルドラゴンから避難する人達。


誰1人にも報いれていない自分を鼓舞して、「目を覚ませ俺!」と思って目を開けると、よくわからない人達が俺を囲んでいる。


一瞬のつもりだったが、何時間も経っていたのか?

レグオは?

ダイヴは?

フロティアは?


一瞬の間に思案したが答えは出ない。

そして目の前には小汚いフードを被った顔色の悪い顔、あれは魔物…。

デスマジシャン。


人間の魂だけを殺して、抜け殻の身体に魔物の心を入れて同士討ちを行う最低の奴。

奴の放った人間が街に入り込むと血の雨が降る。

子供に使われると、親なんて最後まで自分の子供と信じて庇い立てて殺される。


キャッスルドラゴンも脅威だが、同じくらいコイツも脅威になる。俺は飛び起きるなりデスマジシャンに向かったが、この時に丸腰な事に気がついた。


何時間経ったんだ!?

救護テントか!?

ここは何処だ!?

ソリタリは何処に行った!?


「ちっ!だが聖剣の勇者には関係ねぇ!来い!ソリタリ!」


勇者として選ばれた俺の呼びかけに応じて、ソリタリは俺の手に戻る。

俺は一気に距離を詰めてデスマジシャンを一刀両断して、そのままその奥にいたゴブリンやオーク共を蹴散らして「一丁上がり!」と喜ぶと、ソリタリは「…アル?」と聞いたこともない上擦った声で俺に語りかけてくる。


「んだよ?どうしたソリタリ?もしかしてあのままキャッスルドラゴンの前に置いて行かれたとかで拗ねてんのか?怒んなって〜。んで?ダイヴ達はどこよ?皆無事だろ?」


俺の質問にソリタリが「お前…気付いていないのか?」と聞いてくる。

「何をだよ?」と聞き返す俺に、ソリタリは「子供になっているぞ!」と言ってきた。


ん?

あれ?

確かに目線が低い気がする。


俺は慌てて水飲み場に言って水面を見ると、夕陽のようなオレンジ色の髪色は、夜明け空のような紫ピンク色で、俺をワイルド系というなら、可愛い系の男の子の顔になっていた。


信じられない出来事に、俺は「マジかよ!?」と叫んでしまった。

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