五十七話
突然の攻撃に目を見開いた佐一へ、
弾かれたように佐一は背もたれにしていたカーブミラーのポールをスマホを持っていなかった左手で掴み、アスファルトを蹴り上げる。
ぐんと宙へ浮いた、佐一の足首が元々あった場所へ数瞬遅れてガチンと顎が閉じられた。
左腕で自身の肉体を保持し地面と水平にしている佐一は視線をケンから工毅へ向ける。
上段で今にも振り下ろされそうな警棒がビタリと止まる。
「っと、危ね」素早く足を伸ばし、工毅の警棒を握った右腕を振り下ろすのを寸前で止めていた。
それを見たケンは再び顎を開き、次の攻撃の体勢へ移る。四肢をぐっと曲げ佐一のポールを掴んでいる左腕へ飛び掛った。
一瞬早く佐一は右手に持っていたものをぶんと空中へ放り、佐一自身はカーブミラーへと吸い込まれていく。
ケンの攻撃はかすかに二の腕へ爪先がかするだけだった。
『くそ、逃げられた!』
「?!ヤロウッ、何投げ──ってスマホか」
慌てて工毅は宙を舞う飛来物へ視線を向け、それがスマホと分かりふうと息を吐く。
空中をくるくると回りながら放物線を描いていたスマホのディスプレイがキラリと光る。
──七亜佐一の
スマホから突然現れた佐一は落下速度を乗せた、のしかかるような蹴りを工毅へと放つ。
本来であればあり得ない角度、不意打ちも不意打ちであるその蹴りは──工毅のスキをつけるものではなかった。
工毅もすぐさま、頭上から降りかかる蹴りに対し、警棒による迎撃を開始する。
降りかかる蹴りに対して、警棒横一閃。
佐一の落下速度を計算したそれは、蹴りが頭に当たる前に、足の側面に警棒が当たる寸法だ。
だが佐一はかすかに膝を曲げ、コンマ数秒の誤差を作り出す。
そしてその誤差を利用し足の角度を変え、警棒に対して足の土踏まずで佐一は受け止めた。
そのまま振り抜かれる警棒から伝わる力に乗り、佐一は再び宙へ舞う。途中で重力に引かれたスマホをキャッチしながら着地した。
「なんや曲芸師きてたんか。ええな、もっとおもろいもん見せてくれ」工毅は感心したような顔しながら佐一に人差し指を向ける。
既にケンは動いていた。
「残念ながら俺は猛獣使いじゃねえよ」
佐一はそう言うとポケットから六角形の手鏡を取り出すと自身へと向ける。
ケンの爪と牙が届く寸前、佐一は鏡へと消えていった。
『……鏡から出入りするのか?』ケンは工毅の背後を守るように移動し呟く。
「……いや、それだけやないで。スマホからも出てきたこと考えると反射する物は、みな警戒した方がええ。
……おい、翔喜聞こえとるか?」
工毅は視線を頭部から血を流し、ぐったりとしている流田の背中に座る翔喜へ向ける。
「あぁ聞こえてるっすよ」と翔喜は口を開く。もう
「とりあえずさっきの男は追い切れませんし、こいつ連れて帰りません?」
「いや逃げたとも限られへんぞ。まだ警戒を解くな」
「俺の背後のカーブミラーなら三十メートルは離れてるし前方も同じくらい離れてますし、ネタ割れた
そう笑った翔喜の瞳に、流田の右手にあるスマホが映る。
──「あ」
流田は殴られる直前から現在までスマホを離さず握っていた。
ディスプレイがきらりと光ると同時に、つま先が現れる。勢い良く出てきた佐一の飛び蹴りが翔喜の顔面へ足が迫る。
避ける間もなく、ゴッと言う音と共に、翔喜の頭が跳ね上がり、流田の背中から吹き飛ばされる。
後方のアスファルトへと背をつけた。
『「翔喜!」』
ケンと工毅の声が響き、二人は佐一達へと走り出す。
「……さてと逃げようぜ、保。カバンの中身は大丈夫か?」
左手で襟元を掴み、佐一はそう呟いた。
こくこくと頭を動かした保を見て、佐一は手鏡を自身へと向ける。
ケンの噛みつきも工毅の警棒も、一瞬早く消えた佐一達には届かなかった。
魔法の手《マジック・ハンド》 青月地蔵 @sougetujizou
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