五十六話

 先程よりも細かい路地に入ったこともありそこは通行人もおらず静寂に包まれていた。

「……あ、そうだ佐一さんに連絡しなきゃ」

 僕はスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。そう多くない連絡先の中から、七亜佐一と書かれた人物を探すのは容易だった。

『迎えお願いします』とメッセージを送りながら現在地を送り、スマホをポケットへ戻す。

(にしてもあの厳つい奴、当たり前のように僕の超能力チカラ見て反応してたな。

 ただのヤクザとかチンピラにしてはあまりに

 まるでこう言った不思議な超能力チカラを見たことあるかのような──)なんて考えているとスマホが震えた。

『先の曲がり角にあるカーブミラーまで行ってくれ。早めに行くよ』

『分かりました』

 そう返信し、ゆっくりと曲がり角の方へ歩いていく。

(でもあんな邪魔が入るなんて思わなかったな。

 今まで妨害なんてされたことなかったのに。

 ……いや一回似たような事があったか)

 ──

 それは数週間前、(……チッ、全然持ってないな)耄碌した爺婆の家を物色し終え、外へ出た時話しかけられたときの事だった。

「そんな小銭で良いんですか?」

 少女とも男ともとれないような声が、僕の頭上から降ってきた。

「っ?!」お金を詰めていた肩掛けカバンを思わず握りしめながら、慌ててそちらを見ると電柱の上に、線の細い少年が微笑み立っていた。

「あぁ、そんなに慌てないでください。貴方の超能力チカラを借りに来たんです」

 少年はそう言うと姿を消した。

(……ど、どこいった?)

「こっちこっち」

「うおっ?!」

 いつの間にか目の前に立っていた少年は口を開く。「貴方の超能力チカラ貸してもらえませんか?」

「な、なんで僕が子供の言うことなんか……」

「まあ言いたい事は分かります。

 ……ですが今は力を団結すべきなのです。我々のような超能力チカラ持ちを捕らえて、封じる集団がいるのです。

 貴方も空き巣とかやっちゃってるみたいですし、捕まったら恐らく封じられちゃいますよ」

「……はぁ?僕を封じる?馬鹿言っちゃいけないよ。

 この超能力チカラなら世界中の刑務所からだって脱獄できるさ」

「あぁ、いや封じるってそういうことじゃなくてですね。……あ、ほらこれ、握ってみてください」

 少年はポケットから出した薄い水色の金属のキューブを僕へ差し出す。

「握った後、超能力チカラを使おうとしてみたら分かりますよ」

「……」僕は左手でそれを握り、右手の人差し指を眼前のコンクリート壁へ向ける。

 何時もなら出る黒い閃光は放たれなかった。

「……なんで?」

「さっき言ってた奴らに捕まるとそれを体に埋め込まれるんです。

 酷い話だと思いませんか?ただ超能力チカラが手に入っただけなのにそれを好きに使わせて、貰えないなんて」

「……それを信じろと?」

「信じなければそれでもいいですよ。

 ……ですがその超能力チカラ、使えなくなっても良いんですか?」

「……」

(……この超能力チカラが使えなくなる。

 それは何としても防がなければいけないことだ。

 何故なら今僕の食い扶持はこの超能力チカラだけだからだ)

 パワハラによる鬱で仕事を辞め、バイトで食いつないでいた僕に対しての神からの思し召しだと思っていたのに……。

「とりあえず色々説明したいのでついてきてくれませんか?」少年は口を開く。

「……話だけ聞いてやる」

「十分です」少年は手を出しながら微笑む。

「お手を。さぁ行きましょう」

 数秒の思考の後、僕は出された手を掴んだ。

 ──

(あ、もしかして言ってた超能力チカラ持ちを封じる集団ってさっきのあいつらか)

 なんて刄君と初めて会った際の事を思い出す。

 その後刄君のアジトにて、超能力チカラを封じる集団の中にも僕のような超能力ちから持ちがいると言っていた。

(だから僕の超能力チカラ見ても驚いてなかったのか。なるほどね)

 合点がいったと同時に前方三十メートル程先の曲がり角のカーブミラーが光った。

(あれ、まだ先の曲がり角だったのか)

 僕は口を開き声を出す、さあ帰りましょうと。


「──」


 だが僕の口からは声は出なかった。

 それどころか僕の息遣いすら鼓膜を揺さぶりはしない。無音だった。

 深夜、誰もいないオフィスで一人寝泊まりしていた時よりも静かなそれは明らかな異常事態だった。

 スマホを見ながらカーブミラーに背を預けている佐一さんは聞こえていないのだろう、こちらを見ようともしない。

 その瞬間、僕の頭部へ衝撃が走る。

 音もない突然の衝撃で僕はうつ伏せに倒れ込む。

 急遽襲われた痛みに呻くが何も聞こえず、音もない。

 ずしっと誰かがのしかかってくる感覚を覚え、なんとか首を動かし視線を向けると、そこには口元に左手の人差し指を当てた金髪男がにやりと笑い座り込んでいた。

 右手には金属製の伸縮する警棒を持っていて、先端は血で濡れていた。殴られたのだと確信する。

 頬を風が撫でる。

 先程見た一匹の土佐犬と厳つい顔をした男が、僕の横を音もなく駆けていく。

 くらくらとする頭でなんとか手足に力を入れるが、背に乗った金髪男は動かない。

 こつこつと頭頂部を警棒で軽く叩かれる。

 まるで僕に動くな、と言っているようだった。

 ──

 佐一の耳朶をばたばたと忙しない足音が震わせる。

「ん?」

 スマホから目線を音の方に振った、佐一の視線に映るのは、大口を開けたケンと特殊警棒を上段に振りかぶった工毅だった。

 翔喜による超能力チカラで翔喜を中心とした周囲二十メートル程の音を消していたのもあり、佐一は接近に気がつけなかった。

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