第3話

胡桃が長く交際していた彼氏と

結婚が決まった。

佳那子は嫁いだため、

家を引き継ぐのは、胡桃に決まった。


母は、同居を拒み、

亡くなった祖母の使わなくなっていた

父と一緒に家に引っ越すと決めた。


両親と胡桃夫婦は別居ということになった。


その時に

カニンヘンダックスのメイはどうするかと

話になった。


リフォームしたばかりの

祖母の家を汚したくないという

潔癖症の母は、

飼うことを拒んだ。


それでは誰が飼うのか。


何だか腑に落ちない。


はじめに飼いたいと言ったわけじゃない。


でも、なんで

飼わないといけないのか。


ちょうどその時、佳那子は

嫁いだ先の実家から出て、

夫婦でアパートに引っ越ししていた。


ペット禁止のアパートだった。


自動的に胡桃が元々の実家で

飼うことになる。


拒否することもできなかった。


確かにメイは可愛い。

癒しにもなる。

散歩の付き添いしてくれる。


でも、なんで私がという思いが強く出る。


これが人間の子供だったら、

きっと佳那子は、

子育てを放棄するんだろう。


見れないからお願いと

預けられていたのだろうか。


でも胡桃は、不満はありつつも

平和主義者。


犬を放置することはできないし

よそに預けることもしない。


誰か飼わないと言っても既に6歳。

犬の年齢にしては年を取っている。


母がメイにかかるペット費用は出すからと

お金には苦労しない。


でもそれで本当にいいのか。


人間も同じか。


お金を払うから面倒見てと

言ってるようにも

聞こえる。


都合の良いときだけ会う。


預け先があって本当に良かったですね。


お犬様の。


そう思いながら複雑な顔をして、

本音を隠しては、

日々、胡桃夫婦とメイで過ごす流れに

なった。


胡桃の彼氏は

交際当時から

メイに懐かれていた。


抱っことせがむし、

ペロペロと手を舐める。


相性が良いことはよかっただろう。


しばらくして

胡桃に妊娠して

子どもが生まれた。


メイを見ながら

子どもの世話をする。


ペットと一緒に飼うと免疫つくからと

良いように言われ、

断ることはできなかった。


それでも、一緒に過ごした。


お腹が大きい時の散歩は歩きにくいし

満足に休めないと思った。


運動は体にいいよって言われ、

健康的になれるよって

ダイエットにもなるよって

言い訳にも聞こえる。


でも、散歩しないと

メイだってストレスだろうしと

可哀想だからとなるべく外に出した。


小型犬だから

散歩しなくてもいいんだよって

いうけど、

それは人間のエゴだろうと思う。


赤ちゃんは、

抱っこ、おむつ交換、ミルク、あやし。


めいは、

散歩、ペットシートの交換、餌の準備。


子どもが2人いるみたいだ。

可愛いよ。


胡桃は、一緒に散歩して

写真撮って、楽しい時間もあった。


その分、苦労する部分も多かった。


ペットの留守番は長時間させると

良くないとか言われるため、

自由に出掛けられなかった。


5時間以上留守番させたときは

部屋の中がすごい散らかっていた。


いなかったら、時間を気にせず

出掛けられるんだけどなと思ってしまう。


かと言って預かってくれる人もいない。


ペットホテルもあるが、

ワクチン接種もしていて、

満6歳未満のわんちゃんしか

受付してくれない。


四面楚歌。

逃げ場がない。


さすがに2人目の妊娠の時は、

精神的にも肉体的にも無理と

胡桃は

メイの世話はお手上げだと言って、

母に訴えたら、

ようやく許可がおりた。


母は、

家も新品じゃないからか

大丈夫だと言う。


肩の荷がおりた瞬間だ。



相変わらず、佳那子夫婦は

ペット可のアパートに引っ越ししない。

いじめなのかとも思ってしまう。


ことあるごとに実家に帰ってきて

メイやっぱり可愛いねと言うが

良いところしか見ていない。


シート変えたり、散歩したり

苦労する部分はしなくても

可愛いと言えちゃう


その心にもやっとする

胡桃。

ずるいと苛立ちを感じるが

あえて何も言わなかった。

大人になった。



楽をして、

欲しいものを手に入れたような

そんな感覚にも見えた。




その後、

胡桃の2人目の子が

2歳になる頃、

だんだんと衰退していくメイ。

癌を患っていた。


動物病院に通う。


薬を飲んで

痛みと戦う。


足を引きずって

家の中の廊下を歩く。


吠える元気も無くなっていた。

一日中横になって寝ていることが多い。


完全に動かなくなったメイを見て

悲しくなった。


なんだろう。


胡桃は一緒に過ごした期間長かったはずだ。


最期までお世話しなかったことが

少し寂しく感じた。


こんなペットのお世話って

あるのかなと感じた。


世話をするのが嫌でどうぞどうぞと

譲り合い。


置き土産と言って

嫌なワードを使いながら

お世話する。


一緒に散歩したのは楽しくなかったのか。


一緒にボール遊びしたことが

 楽しくなかったのか。


やっぱりマイナスな言葉を発しながらの

ペットのお世話はよくない気がする。


全体的に言えば、

一緒にいて楽しかったし、

癒されていた。


泣いていると慰めてくれる

優しいメイだった。


警戒心が強くて散歩してる時に会う

他の犬に吠えるのはちょっと大変だったけど、

家族想いだったと思う。


これから飼うと決めたからには

嫌だと思わずに

人のせいにせずに

大変な時は大変って言っても

できないって

匙を投げて言うのではなく、

少し時間でも預かってくれる人を

見つければ良いと思う。


ペット飼うのも責任がある。


子育てと一緒でストレスが

たまる時だってある。


逃げ出したい時だってある。


言いたいことあるかもしれないけど、

それはぐっと堪えて

誰かに頼ることを考えてもいいのかも

しれない。



癒しだと思っていたペットが

ストレスになってしまったら

元も子もない。


数年後

佳那子は、またペットを飼いたいと

言い始めた。


今度はハムスター。


犬よりも小さいものだ。


寿命は短い。


胡桃に世話になることはない。


母に頼ることもなく飼えるペットのようだ。


小さなケージの中に

モゾモゾと出てきた。


胡桃の子どもが興味深々で見る。


「ちょっとハムちゃんどこにいるの?」


「僕、餌やりたい。」


「ハムスターは夜行性だから

 出てこないかも。

 ちょっと待って。」


 佳那子は姪っ子甥っ子に

 ハムスターを抱っこして見せた。


「可愛い!!

 餌やりたい!!」


「僕も!!」


 餌やり争奪戦が始まる。


「待って待って、テーブルにおろすから。」


 佳那子がハムスターをおろすと

 子どもたち2人が置いた餌をパクパクと

 食べた。


「すごい早い!」


「きっとほっぺたに貯めてるよ。」


「えー。」


「餌やってないんでしょう。」


 胡桃は言う。


「餌やってるよ。

 ケージの中に入れて。

 忘れることはあるけども。」


「ほら、やっぱり。

 お腹空いてるから

 ほっぺたに貯金するんだよ。」


「違うよ、習性だよ。

 ハムスターは頬の袋に餌を貯めるの。」


「はいはい。」



 胡桃はもう諦めた。

 佳那子はこういう性格だ。


 でも、犬のような大きな責任はない。

 寿命も短いし、

 ペットとしては飼いやすいのかも

 しれない。


 今、いろんな事件がある。

 猫を刺してしまうとか、

 動物に怪我をさしてしまうとか。

 そういうんじゃないから

 いいかと考えた。


 ギリギリの範囲で

 ペットが飼えるなら大丈夫だろうと思う。


 佳那子は、

 身の丈にあった

 ペットを

 見つけたんだ。


 胡桃はその様子を見て

 妹ながらものすごく安堵した。



 もう佳那子の尻拭いは勘弁してほしい。



 佳那子は心を満たすだけに

 いてくれるペットが欲しいだけ。


 面倒なことはしたくない。


 癒しだけほしい。

 良いところ取りなんだ。


 ハムスターはそこまで手をかけなくても

 成長する。

 そういうことなんだろう。

 

 佳那子は、

 しばらく姪っ子甥っ子で

 ハムスターと一緒に遊んでいた。


 みんな笑顔ならそれでいい。


 

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ペットって何のために飼うの? もちっぱち @mochippachi

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