第2話

ガヤガヤとペットショップは

混み合っていた。


「ねえねえ

 これ可愛く無い?」


「そうかなあ。

 メイは青っぽいのが

 似合うんだよ。」


佳那子は母にカニンヘンダックスの

メイに着せる服を選んでいたが、

結局はお金を払うのは母のため、

決定権は母にあった。


「いろんな種類の服あるよね。

 体にあててみればいいんじゃないの?」


胡桃は抱っこしていたメイに当ててみる。


「これは似合うね。」


母は納得していた。


本当はペットフードとペットシーツを買いに

来たのに服選びに無中になっていた。

父の俊哉としや

買い物カートを押しながら

イライラし始める。


「まだ?」



「はいはい、今買います。

 ほら、佳那子、

 あっちからいつものペットシーツ

 選んできて。」


「わかりました!」



 この出来事は

 子どもたちが成人して

 社会人になってからのことだった。


 仕事でいろんなことが嫌になり、

 体調を崩した。

 佳那子はこれまでやったことのない

 夜勤をして昼夜逆転になって

 しまったせいかメンタルが

 弱まっていた。


 ある時期から外に出歩くのも億劫になり

 仕事を辞めざる得なくなった。

 

 病院に行くとうつ病と診断された。


 何が1番ひどいか。


 夜、安心して眠れない。


 仕事して帰ってくると

 家の中にいるのに

 ずっと仕事のことばかり。


 特に人間関係で

 あの人はこう思ってるああ思ってる。

 そんな思いが頭をよぎる。

 八方美人すぎるのかもしれない。

 どんな時でも人に好かれないといけない

 気持ちが多くある。


 何かの呪縛なのか。


 休日も同じで

 楽しいことを見つけられなくなっている。


 自己肯定感が下がっていたのかも

 しれない。


 そんな時に友人のみっちゃんから

 連絡があり、犬が生まれたから

 もし良かったら飼わないと言う

 誘いに自分の中の何かが動いた。


 

 本来ならば、

 小学生や中学生の時に

 ペットを飼えば良かったのだろう。

 母は部屋の中の管理は嫌だと

 飼うことは許されなかった。


 小さい時に経験しておけば

 何かの糧になっていたかもしれない。


 大人になってから

 飼い始めた佳那子は

 ペットを買うと言う

 責任というものが

 いまいち分かっていなかった。


 飼いたいと言い始めたのは

 佳那子なのに

 いつの間にかペット管理隊長は

 母が担っている。


 そう言いながらも

 ペットを飼う上で

 不都合なことがあると

 すぐに母は

 佳那子が言ったから

 佳那子が言わなければ

 飼わなかったという。


 そんなこと言っても

 過去は変えられないものを

 人のせいにしちゃうって

 なんか変な感じがした。


 そう言われながら

 ペットのお世話をするって

 違うんじゃないかと思う。


 自然の流れでやれる人が

 散歩をすればいいわけだし、

 餌を買える人が買って、

 お世話できる人がすればいい。


 お互いに文句言って

 やりたくないことから逃げるって

 なんでそんなこと言いながら

 生きてるんだろうと

 年取ってから

 過去のことを達観できる。


 お犬様はそんなこと言われながら

 お世話されて

 嬉しいのだろうか。



 佳那子は、

 テレビを見ていて、

 ある歌のランキングをやっていた。

 感動する歌で、

 優里の『レオ』というタイトルで

 PVが流れた。

 それは、

 大きな犬を最初に飼うときから

 物語が始まる。

 名前は『レオ』らしい。

 歌のタイトルはそこから来ている。


 それを見て、

 昔、カニンヘンダックスを

 飼っていた。

 あの時の犬の名前はメイプルの

 メイだった。

 感情移入して涙が出た。

 もう亡くなってしまったけれど、

 また会いたくなる。


 その『レオ』を見て、

 ちょっと現実と違うなと感じる。

 一緒に寝たことはあるが、

 飼い始めてから2年経った頃、

 佳那子は結婚した。

 嫁ぎ先に引っ越しした。


 その時に一緒に連れて行っても

 良かったはずが、

 誰もそのことには触れなかった。

 忙しかったのか

 

 佳那子の夫の両親と同居

 ということもあり、

 大きな雑種の犬も

 飼っているからという

 理由を後から聞かされた。

 何も誰も言わなかったのに

 自然の流れで

 メイを連れて行かなかった。


 そうして、

 結婚してから何ヶ月かして、

 佳那子の両親は

 帰ってくるたびに

 愚痴る。


「メイは佳那子の置き土産だよな。

 飼う飼うって言って

 さっぱり連れて行かないし、

 お世話しないじゃないか。」


 父が言う。


「えー、だって、

 そういう話にならなかったでしょう。」


 佳那子は言う。



「餌代だって、病院代、

 ワクチン代だって

 タダじゃないんだよ。

 本当になんであの時飼うって

 決めたんだか…。」


「えー…。」


 帰ってくる度にそういう愚痴をこぼす。

 胡桃は、その話を聞いて何だか

 もやもやした。

 父は、すすんで散歩に連れて行く。

 ダイエットになるからと

 近くの公園や少し離れた公園に

 ドライブがてら行っている。

 特に嫌がる素振りはなさそうだ。

 

 母は、大きなショッピングモールに

 行くついでにメイの餌とペットシーツ

 買わないとねとニコニコしながら

 買い物している。

 

 あれは嫌でやっているように

 思えなかった。

 犬用の服コーナーを見ては

 こういうの良いよねとか

 楽しんでいるように見えた。


 どうして、そうやっているのに

 佳那子を責めるんだろう。


 お世話していることを

 どうして認めていないんだろう。


 楽しくないのだろうか。


 それを誰かに

 認めてもらいたいのだろうか。


 佳那子に責めているのを見て

 胡桃は、変な親だなと疑問を感じた。


 

 そのメイの愚痴がヒートアップした時、

 佳那子がブチ切れて、

 

「いいよ、そんなに言うなら

 連れていけばいいんでしょう!!」


 と、メイにリードをつけて

 抱っこして連れて行った。


 飼えるわけじゃないのに

 一時的の家出みたいに

 いなくなる。


 胡桃から見て、

 両親は本気で連れて行けと

 思っていない感じた。


「どーせ、戻ってくるでしょう。」


「そうだなぁ。

 佳那子は、すぐ諦めて

 他力本願だからな。」


(この親は、 

 佳那子姉をなんだと

 思ってるだろう。

 メイのこともそうだけど、

 一体何がしたいんだ。)

 

その頃の佳那子は

いつも毎日散歩していないのに

久しぶりに長い距離の公園の遊歩道を

メイと一緒に歩いた。



泣きながら

目をこすり

感情を抑えられなかった。


メイは泣いてると思ってか

ジャンプした。


「どうした?」


ジャンプしているのが

気になってしゃがむと

ぺろぺろと

佳那子の鼻を舐めた。


「メイー、メイだけだよ。

 私の味方は。」


 佳那子は、ペットの世話を丁寧に

 できなかった。

 自信がなかったのだ。

 完璧にしなければならないという

 母の教えに背くようで

 手をつけられない。


 途中で投げ出すくせがついていた。


 それを見越して

 愚痴るのかもしれない。


 親も親で言い分があって、

 お世話してくれてありがとうと

 感謝を言って欲しかっただけなのかも

 しれない。


 恩を着せることしか

 会話ができなかった。


 感謝を言われたところで

 満足する親では

 ないのかもしれないが、

 それがペットを世話するときの

 ストレス発散になってしまっているの

 かもしれない。


 親もずるいし、

 子どももずるい

 生き方をする。

 

 そして、

 その3人の尻拭いが

 次女の胡桃にのしかかってきた。
















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