ペットって何のために飼うの?

もちっぱち

第1話


ワンワンワン!


キャリケースの中に

小さな子犬が何度も吠えていた。


周りを警戒しているのが

鳴きやまない。



「どうしたの?

 その犬。」


犬の鳴き声を聞いた母は、

台所から慌てて玄関にやってきた。


ちょっと渋い顔をして聞いた。


佳那子かなこは、キャリーバックを

持ちながら、逃げるように2階の部屋に行く。


「友達のみっちゃんから、

 今日だけ預かってって頼まれたの!」


「えー、まさか。飼うって言わないよね?

 私、嫌だよ。

 犬は。

 猫ならあまり鳴かないから

 良いけどさぁ。」


 母は、ぶちぶちと文句を言いながら、

 台所に戻っていく。


「え、何、何。

 どうしたの?」


 佳那子の妹の胡桃くるみは、

 テレビを見ている途中で、

 姉と母の様子が気になったようで

 台所に移動して聞いた。


「佳那子、犬を預かってほしいって

 友達から言われたんだって。」


「えー?

 嘘、嘘。

 何の犬だろう。

 見てみようっと。」


「ちょっと、胡桃〜、

 犬は飼わないからねって

 佳那子に言っておいてー。」


「はーい。」


胡桃は見ていたテレビをそのままに

佳那子の部屋に向かった。


「もしもーし、

 入っていい?」


ドアの前で胡桃は声をかける。


「うん、いいよ。

 胡桃、ワンちゃん大丈夫?」


「うん、平気だよぉ。

 入るね。

 お邪魔します!」


 佳那子は

 キャリーバックから出して

 犬と戯れていた。


「うわぁ。何、このワンちゃん。

 超、可愛いんですけどぉ。」


「でしょう?!

 一目惚れなんだ。」


「目がくりくりしてるぅ。」


 胡桃は、佳那子が抱っこする犬の

 頭をなでなでした。


「だよね?」


「これ、何て言う犬種?」


「えっとね、

 みっちゃんが言うには、

 『カニンヘンダックス』って

 言うみたい。

 普通のダックスより小さくて

 めっちゃ可愛くない?」


「カニンヘンダックスって

 言うんだね。

 何だか、小さいし。

 尻尾なんてふわふわじゃん。」


「もう、可愛いから

 離したくなーい。」


 佳那子は、ぎゅーと抱っこしたら、

 ぺろぺろと鼻のところを舐められた。

 近くにいれば、落ち着いて吠えていない。

 おとなしかった。


「えー、いいなぁ。

 私も抱っこするぅ。」


 胡桃も、一緒になって

 カニンヘンダックスのワンちゃんに

 夢中になっていた。


「うわぁ、超軽い。

 想像以上に軽い。」


「ねぇ?

 そうだよね。

 まだ生まれたばかりだから

 軽いんだよ。

 もちろん大きくなるけど、

 元々小さい犬種だから

 育てやすいと思うんだけどなぁ。

 お母さん、細かいところ気にするから

 色々言うと思うんだよね。

 ダメって言われるかな。」


「……猫みたいだし、大丈夫じゃない?

 交渉してみればいいのに。」


「えー、でも……。」


 階段をのぼる足音がした。


「ちょっとぉ、ご飯できたよ。

 何してるの?」


 母が少しイライラしながら登ってきた。


「ちょっと待ってー、

 今、キャリーバックに入れるから。」


 佳那子がヒヤッとしながら

 慌ててキャリーバックに

 ワンちゃんを入れようとする前に

 母が部屋のドアを開けた。


 一瞬、時間が止まったように

 体が固まった。


「何そのワンちゃん。」


 母は、目がハートになっていた。


 カニンヘンダックスのワンちゃんは、

 母が来ると、目をウルウルとさせて

 じっと見つめた。

 鳴きもしない。

 何かを感じたのか。

 ここの家族のカーストがすでに

 分かっているのか。


 佳那子が交渉をする前に、

 ワンちゃんの方が頭を使っていた。


「ちょっと、抱っこさせてぇ。

 可愛い〜。」



 佳那子は拍子抜けして

 母にワンちゃんを渡した。


 ワンちゃんは、母と目が合うと

 ぺろぺろと鼻を舐める。


「なーに?

 ウチに来たいの?」


 上機嫌の母。

 さっきのイライラはどこに行った。

 母は、

 犬よりも猫派だと前から言っていた。

 

 猫はおとなしいし、気まぐれだし

 散歩しなくてもいい。

 犬は、散歩を要求されるし、

 キャンキャン騒ぐから嫌だと

 拒絶していた。


 でも、実際会うと

 気持ちは変わったらしい。


 まだ何も言ってないのに

 いつの間にか

 飼う話になっている。


 確かに預かってほしいのは口実で、

 本当は友人のみっちゃんは

 生まれたばかりのワンちゃんの

 飼い主さんを探していたのだ。


 佳那子は1日体験してみようと

 思い、現在に至っていたが、

 母の様子を見て、飼うか決めようと

 思っていた。


「佳那子、

 あなたが

 自分でお世話するんだよ。

 餌とか散歩とか。

 ペットシートの交換とか。

 それがちゃんとできるなら

 飼ってもいいよ。」


「やる!

 絶対やるよ。

 大丈夫任せて。」


「大丈夫かなぁ?

 お姉ちゃん。」


「……心配だな。」


「うん。私も。」


 母と妹の胡桃は

 何となく不安が消えなかった。


「良かったねぇ。

 名前まだ無いけど、

 一緒に暮らせるよ!」


 佳那子は抱っこして、

 ワンちゃんの頭を撫でた。



「名前は、

 毛色が茶色だから…。

 メイプルとかいいんじゃない?」


「言いにくいんじゃない?

 メイちゃんでいいじゃん。」


「メイプルのメイちゃんね。」


「メイちゃんに決定。

 あなたは今日からメイちゃんだよぉ。」


 カニンヘンダックスのメイは、

 名前をつけられて

 嬉しいようで、

 しっぽをフリフリとしていた。


 これから前途多難のペットライフが

 始まろうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る