カラフライト
ナナシリア
カラフライト
ずっと、魔法や超能力は存在しないと思ってた。
だって多くの科学者は非科学的だと言っているし、元はと言えば人間たちの勝手な想像や妄想で生まれたものだ。だから、魔法なんてない。
あのときまでは、そう思ってた。
ある日見かけた怪しいフリーマーケットで怪しいおじさんが売っていた、外国産の宝石たち。
数多くの宝石たちの中にあった虹色の石が気になって触れてみると、存在しないはずの記憶が浮かんできて、混乱した。僕が一人で、生涯誰と話すこともなく生きてきた人生の記憶だ。
そして、なぜかこの石に敵意を抱いた。まるで親の仇を前にしたように。
『兄ちゃん、触っちゃったんなら買ってもらわないと』
『あ、すみません。いくらですか?』
半ば強制的に虹色の石を購入させられた僕だったが、存在しないはずの記憶が浮かんでくるのはなぜか、調べたかったのでちょうどよかった。
でも、この石について調べるはずだったのに、僕が誰もいない家に帰ると、壊してしまいたい衝動に駆られる。やっぱり、この石は敵みたいだ。
僕はなんとか破壊衝動を抑え込んで、もう一度その石に触れてみることにした。
なんだかわからない記憶は一人称視点で再生された。目の前が真っ暗な時間がしばらく続く。そして、目が光を受け入れるようになってくると、無言で母が僕の世話をしていた。
僕の記憶と食い違っている、こんな記憶は存在しない。僕は両親にいっぱい話しかけられて、愛情を注がれて育ったはずだ。
僕は親と一言も喋らないまま成長していった。必要なプリントを提出することもなく、自分で起きて、ご飯が出来たら自分で取りに行って、朝になったら自分で出かける。誰と話すこともなく、一人で勝手に育った。
そんな僕は、大人になるにつれて心が壊れていって、ある瞬間に僕の心は石のように固まって動かなくなった。
様々な感情を抱えながら、それらが流動しない――不透明な虹色、という表現が最も正しい。
「この、石は……。僕……?」
僕の心は壊れる寸前だった。あることないこと吹き込んできて、矛盾する記憶を植え付けてきて、この石は一体なんなんだ。
僕は石を持ち上げ、手に抱えてアパートの屋上まで向かった。冷たい外気が僕を突き刺す中で、虹色の石は平然としていた。相手は無機物なのにそれが苛立って、僕を虹色の石を持ち上げ、屋上から階下に叩きつける。
虹色の石はあっけなく壊れた。石が落下した先で粉々に砕けた。
その瞬間、今の僕を形作る間違った記憶が脳から失われていき、本当の僕を形作る正しい記憶——虹色の石が見せた真実に塗り替えられていく。
他のどこかの誰かも、同じように間違った記憶が消え、正しい記憶に塗り替えられていくのを感じる。
ある者は、ダイヤモンドのようなメンタルが壊されたというのにエメラルドの幸運を受け自身の道を進み、ある者は少女との記憶を思い出してパールの涙に喜び、ある者はルビーに先輩との思い出を思い出し励まされた。
そんな中、僕は――孤独に苛まれた。
カラフルな宝石を並べた彼らの中で、あまりにも透明で真っ白な僕の空白が際立つ。
「僕は、もういっかな」
ふらりと歩いた僕のおかげで、無数の宝石の色の中にあまりにも鮮やかな赤色が加えられた。
カラフライト ナナシリア @nanasi20090127
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