Mental talk


 私はこれまで「物」や「概念」に対して異を唱えてきた。失礼、文句をつけてきた。否、アヤをつけてきた。訂正、難癖をつけてきた。修正、言葉尻を捉えてきた。

 眼鏡だったり、目覚ましだったり、雑談という言葉の使い方であったり、軽音楽と言うカテゴリーに対してだったり、仕舞いにはドーナツの穴に対して苦言を呈してきた。

 聡明な諸君ならもうお気付きだとは思うが、これらは全て私の妄言である。討論する価値もない分かりきった事実に対して、難癖をつけているだけなのだ。もし私の過去の話を読んで「あ、言われてみれば確かにそうかも」「一理ある」と思った方、くれぐれも詐欺に引っかからないよう注意したまえ。もっとも、諸君らが詐欺に引っかかったとしても、私としては一向に構わぬ所存である。私に関係のない人が、私に関係のないところで詐欺にあったとして、当然ながら私には一切関係のない事だからだ。

 だが言うまでもなく詐欺は犯罪だ。私個人の感情としては、聡明な諸君らが犯罪に巻き込まれるのは非常に不本意である。故に私の妄言に対しては全て「そんなわけないだろ」というスタンスでいたまえ。私の言葉を全て疑うのだ。悲しいかな、詐欺という行為は騙す行為であり、詐欺から我が身を守るために必要な手段は疑う事なのだ。

 人を疑う、それがどれだけ辛く厳しい事か無論私も知っている。だがしかし疑え。疑えば相手を知ることができる。相手を知れば相手の思惑が読み取れる。思惑が読み取れれば、相手の抱く悪意にも気付けるだろう。

 ああ、私は諸君らに対して一切悪意を持っていないから安心してくれ。君たちを騙そうとなんて微塵も思っていないし、私の持つ知識では聡明な君たちを騙すなんてとてもじゃないができないだろう。

 だから安心してこの先を読み進めるといい。分かったね?

 ……ここで「分かった」と言った、或いは思った人、悪い事は言わない、人を疑う事を覚えた方がいい。信用するという行為が信頼を勝ち取るための攻撃なら、疑うという行為は、防衛なのだから。要は適度に人を信じ、適度に人を疑えという事だ。



 さて本題だ。私は今不調である。体調が悪いというわけではない、精神的に不調という意味だ。平たく言うと落ち込んでいる状態だ。今回はこの現状について少し語ろうと思う。今回に関しては難癖でもなく、苦言でもなく、指摘でもなく、文句を言うつもりもない。

 この手の不調の治し方についてだ。身体的な不調に関しては薬を飲めば回復する。だが精神的な不調についてはどうだろうか。今私が陥っている不調は薬では治せないだろう。ならばどうすれば治せるか、それを探る必要がある。選択肢はいくつかある。

 まず一つ目、問題の解決。

 これは簡単だ。不調となった、或いは不調になっている原因を究明し、根本的に解決してしまえばいい。

 馬鹿を言うな。簡単なものか、それが出来ればそもそもこんな状態になっていない。解決できない、どうしようもないものだからこうなっているのだ。第一解決しようにも、今私が抱えている問題は理由が付随していない偶発的なものだ。具体的にどういった内容なのかは話が脱線してしまう恐れがあるので、触れないでおく。

 二つ目、睡眠。

 これは本当に簡単だ。寝てしまえばいい。人間と言う生き物は眠りさえすればある程度の体調回復が見込める優秀な生き物だ。自力で寝られない場合は睡眠薬を摂取するという手もある。

 馬鹿を言うな。簡単なものか、何度も言わせるな。寝たら治るのであれば私は今こんなに落ち込んでなどいないのだ。たっぷりと上質な睡眠を10時間取ったうえでまだこの状況なのだ。後出しだ?わきまえろ、これは私の作品だ。諸君らに出来ることは、単に読み進めるだけだ。

 三つ目、趣味。

 これこそ簡単だ。人は誰しも趣味を持っている。読書、映画、音楽、スポーツ、ギャンブル、ありとあらゆる娯楽を趣味としている。自分の好きな物に打ち込むことで、ストレスの発散が出来るのではないだろうか。趣味を持っていない人については私の知るところではないので割愛する。

 だから何度も言わせるなと言っているだろう。物事はそう簡単なものではないのだ。

 四つ目、病院。

 これでこそ簡単だ。精神科に行けばいい。精神科に行って、病院の先生に自身の不安や焦燥、落ち込んでいる事を熱心に伝えればいい。きっと先生は太平洋もかくやと思われる懐の深さを持って優しく我々を包み込んでくれるだろう。

 いい加減にしろ。簡単じゃないんだよ。簡単じゃないんだ、だって金がかかるだろう?病院の先生は善意で患者を診ているわけじゃないんだ。いや、厳密には善意を持ってはいるが、善意100%で話を聞いてくれるわけじゃない。そこには必ず金が、日本銀行券が必要なのだ。それも決して安くない金額がな。

 病院だけじゃないぞ。寝るにしたって金は要る。寝るのに金が要らないと思っているなら大間違いだ。そりゃあ単に寝っ転がるだけならタダで出来る。だが質のいい睡眠を取ろうと思ったら、それなりに寝具にこだわらなければならないだろう?上質なベッドに、アロマでも炊いてみろ、それだけでとんでもない金額が必要になる。

 趣味だってそうだ。世の中には金のかからない趣味があるなんて言うが、そんなものは嘘だ。何をするにも金は要る。より高いクオリティを目指せば目指すほど金が要るシステムになっているんだ、この世界は。

 ならどうすれば解決できる。どうすれば私が今抱えている不調を回復することができる。

 ……金だな。

 結局は金だ。そうだ、金があればいいんだ。一つ一つ今羅列したことをやって行けばもしかしたら治るかもしれない。そのためには金が要る。

 どうだろう、私に金を恵んでみないか?この通り今の私は異常だ。精神的に参っているからな。可哀想だと思わないか?そんなに大きな額を寄越せとは言わない。ほんの気持ちでいいんだ。どうだろうか?



 なんて、聡明な君達は騙されたりはしないよな。

 

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Monologue 赤鐘 響 @lapice

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