Donutshall talk


 ドーナツの穴を食べるにはどうすればいいと思う?

 そんな顔で見ないでほしい。私は至って正常だ。君たちは皆ドーナツが好きだろう?私も好きだ。あの円形のフォルムに詰められた甘みと食感は常に私の心を踊らせる。最近は血糖値を気にするあまり、大量に食することはなくなったが、若い頃は割と頻繁にドーナツを食べていた。朝起きてプレーンのドーナツを珈琲と共に食べ、昼休憩でチョコレートに浸したドーナツを甘ったるいカフェラテと共に食べ、夜中に砂糖をまぶしたモチモチのドーナツを牛乳と共に食べていた。糖尿病RTAである。流石に健康診断の結果を見て、そのような食べ方をすることはなくなった。当時私の検診を担当してくれた先生から「ドーナツ食うのを辞めろ」と言われた。正論中の正論である。

 そしてつい最近、久しぶりにコンビニでドーナツを買って食べている時、当時のドーナツ漬けの日々に思いを馳せながらふと思ったのだ。

「ドーナツの穴が食べたい」と。

 ドーナツを手に持った時、そこには穴がある。穴を覗くと、向こう側に景色が見える。当たり前の話だ。ちなみに商品によってはそもそも穴が存在しないドーナツもあるが、私がここで言うドーナツとは、穴の空いたスタンダードなドーナツの事なので、その点は十分に理解しておいてほしい。

 理解が深まった所で、ドーナツを齧ってみよう。するとどうなる?

 深く、大きく噛んでみた場合ドーナツの大きさにもよるだろうが、ドーナツは【U】のような形になるのではないだろうか。 

 さてここで問題なのは、U字になってしまったドーナツに穴はあるのかという事だ。穴というのは当然丸くあって然るべきで、【O】には穴が存在するが【U】に穴は存在しない。つまりドーナツを齧ってU字になった時点で、ドーナツから穴は消失するという事だ。

 ドーナツを食べた結果、ドーナツから穴が消える。それはつまりドーナツの穴を食べていると言っても差し支えない状態であると言える。食べたからこそドーナツの穴は消えてしまうのだから。

 という訳で、ドーナツの穴を食べるためにはどうすればいいかという疑問の答えは、「ドーナツを食べれば良い」という事になる。

 じゃあ次だ。次に私が提唱する事、それは「世界ドーナツの穴理論」である。

 聞き慣れない言葉に若干戸惑いがあるかもしれないが、ご容赦願いたい。これは私が生み出した言葉だ。これの意味する所は何か、それを今から解説していこう。

 ドーナツの向う側にある景色は、常に変化している。まずこれを念頭に置いておいてほしい。ドーナツの穴を覗き、向こう側に見える景色はドーナツを移動させたら同時に移動する。君の眼の前にキレイな湖があるとしよう。とてもキレイで美しいその湖は、きっと君の心を大きく感動させるだろう。写真に収めるもよし、スケッチするもよし、何もせずただ己の脳裏に焼き付けるもよしだ。

 じゃあそんなキレイな景色を見ながら、眼前にドーナツを持ってきたらどうなる?ドーナツの穴にはそのキレイな景色が映るだろう。そのまま眼前のドーナツを、自分の顔と一緒に移動させてみたらどうなる?当然だがドーナツの穴からは湖が消える。しかし、湖は湖で変わらずそこにずっとある。変わっているのは、ドーナツの穴だけなのだ。

 つまりドーナツの穴越しに世界を見ると、世界はドーナツの穴になるという事だ。我々が過ごしているこの世界、見ている景色は全てドーナツの穴になり得るという事だ。そして、この世界そのものがドーナツの穴になる可能性があるのだとしたら、吸い込む息もドーナツの穴になるという事になる。つまり私達は日常生活において、常にドーナツの穴を接種しているのだ。ドーナツの穴を食べるためには、ドーナツを食べれば良いのだが、世界がドーナツの穴なのであれば、ドーナツを食べなくてもドーナツの穴は食べられるという事だ。

 これが私の言う「世界ドーナツの穴理論」である。

 皆まで言うな、この理論がドーナツの穴ばりにガバガバの理論であることは私が一番良く理解している。だからと言ってこの理論を提唱してはいけないという事にはならないはずだ。そうだろう?

 別に覚えなくてもいい、共感もしなくて良い。ただ、世界で一番メジャーなドーナツ店に足を運んで、ドーナツを食べる際は少しだけドーナツの穴に思いを馳せてほしい。ドーナツの穴とは何なのか、ドーナツの穴は食べられるのか、なぜ穴が空いているのか。

 ドーナツに穴が空いてある理由は、油で揚げる際中までしっかりと火が通るようにするためと言われているが、そんなものは詭弁である。ドーナツに穴が空いている理由は、この美しい世界を映すためだ。そしてその美しい世界を食べるために空いているのだ。

 長々とくだらない話を連ねてしまったが、過去の投稿から分かる通りこの話にオチはない。物語とするには大事な所に穴が空いていると言った所か。そもそもこの話に過度な期待を持つほうが悪いのだ。私はしっかりと明記してある。思いつきと独り言を連ねる場所であると。ドーナツの穴について少し思うところがあったから話してみただけだ。

 それでは私はこの辺で失礼させてもらうよ。珈琲が出来上がったんだ。ドーナツ&ナッツと共に楽しむとしよう。

 

 

 

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Monologue 赤鐘 響 @lapice

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