僕は幼少期のころからお人形が好きだった。よく男の子なのに、女の子のような趣味を持っているなとあざ笑うものがいた。茶化されたとしても、僕は人形が好きであった。そもそも人形とは文字通り人の形を模した玩具である。アンティークとしての用途もある。これは、郷土によってさまざまな形がある。


 種類も様々あるが日本の物で挙げるとするならば無難なもので雛人形、五月人形、博多人形、市松人形、姉様人形、色紙人形、土人形、毛植人形、古代人形、御所人形、加茂人形、奈良人形、嵯峨人形、衣装人形、美女人形、役者人形、からくり人形、土人形等々。


 和人形だけでこれぐらいの種類が存在する。


 まず僕が人形に対してどのように興味を持ったかというと、それは美しかったからだ。人形にはそこに住む人の差異が現れる。そこの風土の慣習や暮らし、人々の想いが各々異なる。それに僕は思いを巡らせそれを感じ、人の温かみを感じ取るのが好きだった。同じものなど一つもない。僕はその唯一無二の存在に共感を得た。


 僕は他人とかかわるのが嫌いだった。人はそのあたりにまるで虫のようにうじゃうじゃと存在する。うるさく喚き、視界に入るのも、声を聴くのにも不快感を覚える。しょせん僕のことなど理解できない。僕も他人のことなど理解できない。言葉は理解しあうことは出来るが、心を通わすことなど永遠にできやしない。


 何をするにしても他人を通さなければならない。コミュニケーションなどと虫唾が走るものを行わなければならない。


だからこそ僕はお人形が好きだった。見惚れる美しさ。それもあった。だが、人を模したそのものには、僕の心が通じるような気がしたからだ。人と関わると、神経をすり減らす。喜怒哀楽を感じ取り、それを相手にぶつけられたり、自分がそれを感じてしまったり、面倒くさい。それがない。僕の感情を全て受け入れてくれる。喜怒哀楽をいつもと変わらずに優しく受け止めてくれる。そんな彼女たちに僕は安寧の心を貰えたのだ。


だから僕は人形が好きだ。


そうして、人形を作る趣味を持った。自分の理想の人形を作る。自分の心を入れることが出来る。


 誰も僕を否定しない。僕を受け入れてくれるそんな人形を作りたかった。


 しかしながら、ある日暗雲が立ち込めた。


 それは何かというと、もっと素晴らしい人形を作りたいという欲求であった。


 もっと素晴らしい人形。言うのは簡単である。しかし、壁が一つ存在する。その素晴らしい人形という定義はいったい何だろうか。 


 僕はその人形を目指し、いくつもの人形を作った。しかしながら、僕の曖昧な目標の所為で、その欲求が空白のままで埋められずにいた。


 そしてある日一つの仮説にたどり着いたのだ。


 それは、「生きた人形」を作りたいということだ。


 では、その「生きた人形」というものは何か。僕の心の空白を埋めるそれは具体的に何を言うのだろうか。


 僕が作る人形は確かに完ぺきであり、美しい。僕の理想の可愛い可愛い娘たち。


 僕が目指すものはいったい何だろうか。人形には人が持つ鼓動がしない。熱がない。脳も存在しない。完璧に人を模すとするのならば、そこも完璧に模倣しなければいけないのではないか? 


 しかしながら、嫌悪する人にそこまで寄せる必要性があるのだろうか。


 僕は懐疑的であった。


 一つ考えてしまったもの。僕の性というものだろうか。ふと脳裏に浮かんでしまったものを立証しなければいけない欲求に埋められてしまった。


 「生きた人形」を作る。まず、そのためには、本物の人間を調達する必要がある。


 では、どうするか。死体を持っていくのはだめだ。なぜなら、死んでいるから。死体はただのゴミでしかない。そんなものに何も価値はない。


 そうなると、生きている人間を誘拐する。


 誘拐してどうするか。まず、人形にあって人間にないものを考えるとしよう。命以外で、と考えた際、一番最初に思い浮かんだのは意思というものか。脳髄で物を考える。その中に自分というものが誰しも存在している。つまり、「心」だ。


 心をつぶす。しかしながら、生きている。それこそが僕が望む「生きた人形」ではないか。そういった考えに至った。それがごく自然なものにしかないのだろうか。


 そう考えたら、まずは実行する。


 ただ、誘拐するには、人目につかないようにすることが大事である。その為には近辺で誘拐するのはよくないだろう。だから、他市または他県で一人さらってくればいい。


 僕は女の子のお人形が好きだ。だから、膂力もない、かといって幼すぎても物事を分別できなければ価値もない。だから、ある程度の自我がある年齢の女の子を攫うのがベストであると思いに至った。車はレンタルでいくと足がついてしまいそうだから、中古で車を購入する。または知り合いに車の偽装を行えたり、訳アリの車を売りさばける業者があった。そこに頼むのも悪くはない。


 詳しくは省くが、とにかく僕は誘拐するのに成功した。


 7歳くらいの女の子であった。


 タオルで猿ぐつわをして、目隠しをする。指や足に結束バンドをつけて、逃げ出せないようにした。


 そして、僕はとある山奥に別荘を買っていた。人形作りに精を出すためだ。人はまず近寄らない。防音の部屋も作った。まさに、この子をお人形にするためにこの別荘があるようなものだった。


 手始めに僕は彼女を椅子に括り付けた。


 しかしながら困ったことがある。どのように心を摘めばいいのか。わからない。


 彼女は泣きわめいていた。泣くという感情があるから、これを摘んでいけばいいのだろうか。


 わからないので、まず、泣きわめくのがうるさかったので、黙らせるために、人差し指の爪をはいだ。


 彼女は初めての痛みに驚いたようだ。結構悲鳴を上げていた。


 ……ボクには一つの策があった。そもそも、僕の目指す「生きた人形」というのは、どうすれば作れるのだろうか。いや、何を目指していくか。人というのはもちろんながら動くものであるから動物である。人形は? 模しているものであるが、基本的には動かない。自分の意志等はそこに存在していない。ただジッと待機しているのだ。からくり人形とか動く人形はあるが、まあまずはオーソドックスな人形を作るとする。そうするとどうすればいいのだろうか。生き物には学習性無力感というのがある。つまるところ、強いストレスから回避できずに長期間いると、その環境から逃げようとはしなくなるというものだ。


 強いストレス。逃れられない苦痛。それから僕が導き出した答えがこれだ。


 僕は泣いたらもう一枚剥ぐ。といった。それでも、痛みに奇声をあげるものだから、僕はもう一枚爪を剥いだ。


 そうすると、学習したのか、口から血が流れるほど、噛みしめ、悲鳴を抑えた。


 そして、今度は恨めしそうに僕をにらみつけた。


 怒りという感情だろう。まあ、これも後々つぶしていこうと思った。そう。まだまだなのだ。彼女はまだ学習できていない。だから、これからもっと彼女に強いストレスを与え続けていかなければならない。


だが、僕も人間なので、いつまでもはできない。ということで、おなかがすいたので、ご飯を食べに行った。


 1時間ぐらいたったか、僕は彼女の元へ向かった。そうすると疲れてしまったのか、眠っていた。気絶していたのだったか、忘れた。


 まあしかしながら、目を覚まさせてやろうと思った。そして、また一枚爪を剥いでおこうと思った。いい目覚ましだろうと思い。


 そうして、手を握り、ベンチを爪にセットしようとしたとき、僕はある異変に気が付いた。


 爪が回復していたのだ。手を間違えたのかな、と思い僕はもう片方の手を確認した。そうすると、驚くことに、何もなかった。ただの子供らしいきれいな手であった。


 どういうことだろうか、と僕は混乱した。


 まさか1時間ばかりで自然治癒した? そんなことがありえるのか? 


 僕はとある好奇心に襲われた。実験をしたくなった。わかりやすいように、今度は指の爪を10枚全部剥ぐことにした。


 少女は一枚ごとにまるでこの世の終わりかのような悲鳴をあげた。何度も何度も。 

 僕はそんな彼女を見て、恥ずかしながら、隆起してしまった。それも無理もない。少女の苦悩に満ちた絶叫は艶美に満ち満ちていたのだから。


 そして、1時間放置し、また確認した。そうすると、見事に完治していた。


 つまるところ、彼女は普通の人間とは異なる素材でできているようだ。


 圧倒的な治癒能力。僕はにんまりとした。


 学習させ、心を摘むにはやりようがたくさんあった。まずは暴力である程度訴えてから、精神的にじわじわと追い詰めようとしていた。しかしながら、そうする必要はなくなった。簡単で単純で楽しく気を遣う必要が一切無い方法で心を詰めるからだ。


 僕はこれから彼女を拷問していく。その日々を淡々と描いていくこととしよう。


 


 まずは手始めに電流攻めをしようと思った。スタンガンを使い、それを各部位にたらふく流し込んだ。首筋は血管が集中している所なので、よく聞いた。頭や目玉にさえも、電流を流し込んだ。そうそう陰核にも行った。ショック死でもするものかと思っていたが意外にも丈夫である。


 鉄パイプで足や腕の骨をへし折った。これも一時間以内にすぐに元通り。


 あと僕は、やってみたかったものがあった。爪の間に針を通してねじ込んでいく。深爪の感覚を過激にしてみたものだ。彼女は絶叫を上げて暴れまわった。ここは防音でしっかりしているのでいくら叫ぼうと誰かに気が付かれることはない。10本分丁寧に行った。叫ぶなという命令に従わなかったので、全部の爪を剥いであげた。そして、本来守られているはずの指の肉があらわになった。そこで僕は、また彼女が金切り声を上げたものなので罰として、蠟をその血肉に丁寧に流し込んだ。


 どのような痛みなのかが僕はわからない。しかしながら、ごく普通に生活している人間では味わえない体験をしているのは間違いない。僕は死んでも嫌だね死んでも。


 スタンガンの電流を目に当てても視覚に異常がなかった。ということで、十分に熱した火かき棒を目玉に突っ込んであげた。それでも修復した。


 フッ酸を全部の歯に塗ってあげた。フッ酸を歯に塗ると、虫歯の末期状態のあのどうしようもない痛みがくるそうだ。それを全歯に起こしてあげる。


塩酸のお風呂にも入れてあげた。人が溶けて行くさまを眺めるのも乙なものである。


 僕は思ったのは、彼女は不老不死の体なのだろうと思った。つまり死ぬことはない。延々と再生されるということだ。


 ということで、とある漫画にあった脳みその中にムカデを入れることをやってみた。脳みそという食事が無限に取ることが出来る。栄養過多で死なないといいが。彼女の頭の中では常に食らう虫が蠢いている。


 餓死もしないそうだ。1週間くらいか。試しに放置してみたが、生きていた。僕はそんな彼女に褒美をあげようと思った。だが、その前に凌遅刑というのが気になったのでそれを行った。要するに、肉体を少しずつ切り落として、長時間にわたって激しい苦痛を与えるという処刑方法だ。ナイフでまるで割れ物を扱うかのようにやさしく肉をそぎ落とし続けた。しかしながら、彼女は再生し続けるので、肉を無限にそぎ落とすことが出来る。


 僕はその細切れになった肉を丸めて、ハンバーグにして彼女に食べさせてあげた。そうすると彼女はショックを起こし倒れてしまった。リフィーディング症候群のようだ。


 しかし彼女は死なない。


 火あぶりにしても死なない。中が空洞になっている真鍮製の中に入れてそれを火であぶっても死なない。


 丸一日満タンの水槽の中に重しをつけて沈めさせて溺死させようとしても死ななかった。


 火で熱した鉄の棒を膣内にぶち込んでも大丈夫だった。

 腹を引き裂き子宮を直接取り上げても、お腹の中にまた、子宮が生まれた。


 骨にどれほどの神経があるか気になったので、彫刻刀で削ってみた。

 骨を何本折っても、何本取り出しても再生するので、彼女の骨でお城のミニチュアを作ることもできた。


 テキーラを、一本丸々飲ませても死ななかった。直腸に直接アルコールを入れたらどうなるか気になったので瓶を無理やり穴につっこんで、パンパンに詰まったお腹を思いっきり踏み、破片と酒を直腸の中で盛大にぶちまけてみても、なんてことはなかった。


 思いつく限りのことはたくさん行った。それでも彼女は死ななかった。そして、病んでいった。


 江戸川乱歩の鏡地獄で球体の鏡を用意し、その中に入った主人が気を違えてしまったというのがあり、それを発注し、彼女を閉じ込めてみた。


 ようするに、人間は時間の感覚が分からなくなると自分が今どこで何をしているのかだんだん判断していくことが出来なくなる。閉じた世界で気が狂っていく。一日中同じ空間。時間を忘れて、自我も忘れる。だから、基地外になる。そう思うのだが、どうだろうか。


 彼女はここからさらに気が狂ったというのは間違いない。


 無気力になってきた。僕はあと一押しだと思った。


 最後として、僕はアナコンダを持ってきて、彼女を丸のみさせて、1か月ほど放置してみた。


 そうすると、逆にアナコンダのほうが栄養過多で死んでいた。いつまで生きていたかわからない。僕は彼女を取り出してみた。


 そうすると、彼女は表情を一つ変えない。動くことさえできない。無気力が、擬人化したような姿そのものとなっていた。


 試しに爪を剥いでみたが、びくともしなかった。死んだのかと最初は思ったが、胸の鼓動がある。つまるところ生きている。


 僕は感極まった。


 僕が求めた「生きた人形」というのがとうとうついに完成したのだ。ここまで3年ほどか。長かった。


 僕は彼女を床に座らせる。彼女は僕のほう助が必要だった。というか筋1つ動かせずにいた。


 僕はまるで神を奉るかのように彼女を崇拝した。


 とうとう待ちに待った「生きた人形」が完成したのだから。


 僕は歓喜、愉悦、喜悦、随喜、陶酔、至福であった。


 天が祝福してくださった。最初はそう思っていた。


 だが、一つだけ懸念材料が生まれてしまった。


 確かに、彼女は、生きている。生物学的にだ。そして、人形のようにこの世を座視している。だから僕はこれが正解だと思った。


 しかしながら、なぜだろう。どうしてこんなにも胸の隙間を大きく蝕む違和感が生じているのだろうか。


 彼女の瞳には生がなかった。死んでいた。うつろな瞳で一点を見つめていた。


 そうか。と僕は気が付いてしまったのだ。


 僕は彼女に興味を失せた。


 だから、僕は彼女を捨てた。




 なぜなら彼女は




「失敗作」




なのだから。

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