②
わたしには疑問がある。
これは思っていてもいいのかがわからない。口にしてもいいのかすらわからない。私の心にのみとどめるべきであろう事。そんなことを言っていいのが憚れるようなこと。私にとってそれが普通であるのようにも思える。しかしながら、その胸中にある黒い反応、という悪い方向へと感じ取ってしまう。
それは何か。思ってもいいのか、言ってもいいのか。相談してもいいのか。よくわからない。ソーさんに尋ねるのも、この透さんに尋ねるのがいいのか悪いのか。言ってはいけないような気がしてならない。
それは――私が「普通の人間」であるかどうか。いや、もうただの人間であったというのは理解しているが、それでも思ってしまうことがある。それはあさましい感情ではあり、単純のように思えるその問題は、もっと深く、広く、遠いところにある。
超能力が使える。普通じゃない。魔法が使える。普通じゃない。普通じゃないから。この普通じゃないからというのは、一種の差別的な意識を育てる。自分とは違う。平均的に異なっているから。自分の常識の範囲外であるから。そういうことなのだろうか。
私は罪な女なのだろうか。そう思ってしまうことは、罪なのだろうか。このように思ってしまう差別主義者なのだろうか。
わからない。わからない。でも、その答えは、この向かう先にあるのだろうか。その先に何があるか……。
――
今、私は車に乗っている。思ったより遠いのか。高速道路を1時間以上走っている。
「いやあ、すみませんね。距離がありますので」
「あ、いえ。別に大丈夫です」
あんな疑問は、言えるわけがない。
「ところで、えっと、八島さんは……八島さんのお仕事って、施設の管理をしているだけですか?」
「え? ああ、施設管理というのもありますが、大体は彼女に任せているんですよ」
「彼女というのは、その、私の能力のことを知っている方ですか?」
「ええ。そうですよ。もう……10年……いえ、17,8年前になりますか。長い付き合いです」
ふふ、と軽く笑っていた。だが、その笑みには、少し違和感があった。
「長いお付き合いなのですね」
「良き友ですよ」
肩をすくめた。
「私が務めている所は、「TELC」ではありません。あまり詳しくはお話しできないのですが、玲奈さんでも耳にしたことがある大企業に勤めています。そこには、裏の顔がありまして、「SMP」などの研究を行う部署があります。私はそこの社員です。とは言っても私はMR……営業部みたいな仕事を行っているわけですが。そこで、私……いや私たちは「TELC」を設立し、その運営、管理を行っています」
「透さんは、「TELC」で何をしたいのですか? もしかして、あの、あくどいことなどしては……」
よくよく考えたらこれって、罠だったりするのかな? いや、ソーさんに限ってそんなことは……身売りとか……ない、よね……?
「いいえ。そんなことしませんよ。私は」
大笑いしていた。
「そうですね。私は、私の夢は、恥ずかしい話かもしれませんが、みんなが共存共栄し、なんの障害もなく、暮らしていける。そんな世の中を目指したいんです。そして……あ、いえ。ここから先は余談ですね」
「聞かせてください」
「……彼女のつ、……夢を見届けたいんです」
透さんは遠い目をして静かに話した。横から見る彼の表情は少しばかりか曇っていた。そして、話す言葉には哀愁が漂っていた。どこか儚げで、哀しげで、何かに思いを耽るような
そんな気がした。
私は目を伏せた。彼の顔をなぜか見ていられなかった。理由はわからないけど、私は目線を横のほうに流し、窓の外を眺めた。代り映えもなく続く景色を呆然と見つめていた。
それ以降私たちに会話はなくなった。
私は、先ほどの疑問について改めて、考えをめぐらすことにした。
しばらくたち、車は目的地へとついたのだった。
「はい。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
私は車から降りた。
場所は、高速を降りてから住宅が立ち並ぶ街並みを抜けて、そこから山道を進んでいった。そして車を走らせること10分ほどだろうか、登っていった先に、ぽつんと、校舎が見えた。駐車場からは、下の街の景色が一望できる。広がった海も眺めることができた。山の中、いや丘の上といったところか。自然に囲まれたそこは何物にも邪魔がされない有り体の自然体の、姿を突出していた。
深呼吸をする。空気が澄んでいておいしい。背伸びをする。気持ちがよかった。
「ここはね、昔は学校だったんです。ですが廃校になり、そのままその土地をかいとったんです。ですから、校舎はそのままです。ほら、広いプールだってあります」
「た、確かに。グラウンドも。なんか、普通の学校と変わらない」
グラウンドを見ると、たぶんここの施設の子たちなのだろうか。楽しそうに遊んでいた。
私があたりの光景に目をやっていると、女性の声がした。
「お待ちしてました」
その声の主を見た。
彼女は軽く会釈をして、私を優しい目で見つめた。
「え、えっと……」
私は言葉に詰まってしまった。
なぜなら、彼女がとてもきれいだったから。その美しさに思わず見とれてしまった。
肌が白い。まるで明るく照り輝く雪のようだ。潔白で純白で、真っ白の雪が紺青の山肌に爽やか。清潔で幻想的にさえ見えた。
肌も、髪も、純白で美麗だった。
そして、瞳が紅い。赤水晶のような瞳。冴え冴えとしていて、雪に咲く一輪の赤よりも紅い花。秀麗な美貌。人を引き付ける魔力。魅力。美力。そして美麗。
女の私でもこの女性に見惚れてしまう程、美しかった。
「雪華、わざわざありがとう」
「いや、透こそ、お疲れ様」
にっこりと笑う姿も見惚れてしまう。
「はじめまして。山高玲奈さんですね?」
「は、はい」
差し出された手を私は無意識に応じていた。
「私はこの「TELC」の施設長をしている、八島・ファラジオ・E・雪華です。雪に華麗の華と書いて、せつか、と言います。気軽に雪華とよんでください」
靨をくずす。声が透き通っており、心地が良かった。
「あ、は、初めまして。山高玲奈です。あの、その……雪華さん」
彼女は優しく微笑んでくれた。彼女の手は、柔らかく、優しかった。私はその彼女のやさしさに包まれるような手に肩の力が抜けた。そして、変に強張らずに自然体の有体でいられる。
「あれ?」
ふと疑問に思った。
「八島って……」
私はあれ、と透さんをみた。透さんは、「ああ」と言われなれているような感じで、すらすらとお話しした。
「ええ。兄妹ですよ。しかし、血は繋がっておりません。養子縁組により、こうして一緒にいるんです」
「そうだったんですね」
「ところで、玲奈さん。お部屋へご案内します」
「は、はい。お願いします」
私は案内を受ける。駐車場から昔の校舎の入り口へと向かう。駐車場からすぐに会談がある。階段の横には部室棟がったっていた。その目の前にグラウンドがある。私はそこの階段を上がる。すると校舎がみえる。左側へ曲がると外の景色がさらに開けて見えた。その中にベンチが一つあった。そこに一人の少女が腰を下ろしていた。
私は不思議に彼女を見つめた。
年齢は10歳前後といったところだろうか。その子は身動きを一つしなかった。瞬きすらせずにただただ外観の景色を一点に見つめているだけであった。背筋を伸ばし、膝の上に両手を乗せている。口は一の字にしている。目はうつろで生気が宿っていない。
私はなぜだろうか、不思議に少女に目を奪われてしまった。謎の魅力が彼女に会った。人を引き付ける何かが。
「お人形さんみたい……」
私は彼女に対して思ったことが思わず声に出てしまった。無意識のうちに、彼女の評価を口にした。
髪色は白色で、肌も白く、やわらかそうな細い腕。黒色の瞳をしていた。佇む様、雰囲気妖精と形容しても文句のない容姿。まるで現実にないような。そして動きを見せない。先ほど妖精と形容してもといったが、一番しっくりする表現は人形のようであった。
生きているような死んでいるようなだが、確実に生きている。人形さんであった。
「……」
空気が変わった。というのも、少女ではない。彼女は何一つ変わらない。横を見る。そうすると、透さんや雪華さんがばつが悪そうに目を伏せた。
「彼女は、アイリスといいます」
答えたのは雪華さんだった。
彼女は片膝をついて、アイリスという少女の頭を撫でた。
「私たちの可愛い子供ですよ」
私は二人を見た。
「この子は、私たちが保護している子。この「TELC」の子供たちはみんな、私たちの愛しい子供たちなんですよ」
にっこりと笑った。
「じゃあ、またね。ゆっくりしていてね」
雪華さんはアイリスという少女にそういった。そして、私の案内を続ける。
「彼女はどういう子なんですか?」
私は続けて聞いた。
「玲奈さん、これ以上は深く立ち入らないようにしてほしいです」
雪華さんは背中でそう話す。だから、私ももう聞かないようにした。
私はそのまま歩いていく。出入口へと向かう。そのまま施設内に入る。そして、進んでいく。
もともと校舎なだけあって、見慣れた景色のように感じる。どこの学校も似たような作りになるのかしら。
「なあ、雪華。リリィやシェリーはどこにいる?」
「あの子なら、今二階の図書室で子供たちといますよ。シェリーは、いつものところです」
「そうか。じゃあ、あの二人に用があるからそっちに行くよ。彼女の事頼んだよ」
「わかりました」
「え、透さん行ってしまうんですか?」
「え、ああ。少しだけですよ」
そう言って透さんは去っていった。雪華さんなら大丈夫だと。まあ、いいか。
私たちは施設長室に向かった。
そこで私はお話を聞くことになった。
「えっと、どこからお話すればいいのかな」
にっこりと笑った。
「私の能力のことが、主になんですが、雪華さんも、「SMP」なんですよね?」
「はい。そうですね。まあね、わたしは色々と特殊なのだけれど。まずは、能力について実際に見てもらったほうがいいのかもしれないね。まあ、ここの子供たちに「SMP」の能力を見させるというのも可能なんだけど、私がやったほうが早いわね」
「と、いうと?」
「こういうこと」
そういって、雪華さんは遠くにあった机の上の花瓶を持ち上げた。もちろん、手は一切触れていない。つまるところ、念動力。
「え?」
「超能力。初めて見るかな?」
「そ、それは、そうですが……」
「あとは……」
そういって、頭を押さえた。そうすると。
「(聞こえますか? 今、貴方の頭の中にお話ししています)」
「えっ!?」
「(テレパシーです。他にもサイコメトリーとかいろいろできますよ)」
「すごい……」
私は目の当たりにしてびっくりした。
「え、私もこういうのとかできたりするんですか?」
「いいえ。実は、一人に対して持てる能力は一つだけ。貴方は「鍵」の能力だけしか使えない」
「でも……」
「私は特殊でね、いわゆる「全能」の能力です。「SMP」の能力を全て使用することができるんです」
「そんなめちゃくちゃな」
「そうですよね。ただ、普段だと、3割程度の力しか使えないんです。体が持たない。あと、なぜ一つの能力しか使えないかというと、能力を持つというのはそれぐらい生命エネルギーを使うんです。「SMP」の体はベースが宇宙人ではなく、人間ベースなのです。だから、体が弱い。耐えきれない」
「じゃあ、雪華さんはどうして?」
「「SMP」の能力に不老の能力と不死の能力があるおかげで、なんとか体が持っているのです。普段3割程度しか能力を使えないという体のセーブが効いているおかげでもあります。ちなみに、全部解放したら、死んでしまいます」
平然と言ってのけた。
「私は「鍵」の能力を持っています。ただ、玲奈さんほど強く使うことができませんが」
「私の、能力というのは具体的に何ができるんですか?」
「簡単です。例えばそこのドアに手を当ててみましょう。念じますと、鍵をかけることができます」そういって、距離が離れているのにもかかわらず、鍵を閉めた。
「え? 私も遠距離でできますか?」
「鍛えればできるでしょう。今のあなたでは、まだですかね。直接に手を触れなければ。ちなみに、能力を複合して行っているので、普段では、私もできませんとだけは言っておきます」
さらっと言っているが、この人の能力はチートだな……。
試しに、私は遠距離で開けられるかどうか試した。無理だった。
「能力は鍛えることができるんですか?」
「はい。もちろん。貴方のはドアだけではなく金庫だろうとパスワード付きの物であろうと、なんでも開閉できるのです。そして、あの世界も……」
「世界というのは?」
「今、星のカケラによって別の世界が開いています。それは、貴方も経験したことがあるでしょう。今あなたの命を狙っている黒幕の能力によって、解放されているのです。その世界によって、今、人が命を失っています。あの世界を元のカケラに戻すことが出来るのは、貴方だけしかいません。私では。キャパオーバーなんです」
「私が、やらなければならないことですか?」
「はい。申し訳ないことであると思いますが」
そんなことを急に言われても、という話になる。だから、私は命を狙われているのだ。そう改めて認識することが出来た。
「あと、もう一つ、鍛えることは大事ですが、時間がありません。ですので、私は少しずるをさせていただきます」
「ズルですか?」
「ええ。3割程度ですから、まともにはできませんが」
そういって彼女は私の胸にそっと手を置いた。
ガチャンと音がした。
「あ、ああーー」
体からエネルギーがわいてきた。ふつふつと今までに感じたことのないパワーを感じた。
「貴方に眠る潜在能力を少しだけ開きました」
そんなこともできるのか。結構私の能力って便利かもしれない。
「では、ちょっと試しにやってみてください。遠距離で念じて、あちらの扉を開けてみてください」
そう言って、私は念じてみた。すると、ガチャンと。鍵が開いた。
「え、すごくないですか?」
「はい。ただ、申し訳ないですが、私の限界です」
少し顔色が悪くなっていた。
「すみません。少し、席を外してもいいですか? ちょっと、能力を使うと、どうしても体力の消耗が激しいもので」
「わかりました。」
そう言って雪華さんは出ていった。
私は手を見つめた。
少しワクワクしている。
私の能力がこうも可能性が広がっているのか、という。今の私には何でもできそうな過信に近いような自身が湧いて出てきた。
いろいろと開けることが出来る。そう思って、窓の鍵を念じて開けてみた。すると、開いた。ちょっとうれしい。閉めることもできる。
もっと他に何かないかな、と思った。
部屋を見渡す。すると、厚い金庫があった。映画とかでよくお金が入ってそうな。
盗む気なんてさらさらないけれど、ちょっと開けてみたくなった。ということで、開けてみた。そうすると、書物がたくさんあった。
「ふーん」
私は上にあったものを手に取った。
日記のようだった。
「人形日記?」
タイトルにはそう書いてあった。男性の字だろうか。
私はめくってそれを読んでみた。
その内容は……もしかして、先ほどあったあの女の子の……まさか……そんな……。
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