1話①
これは……一体どういうことだろう……。
私は騒然としていた。
目の前の景色にただただ気圧されていた。
飛び交う怒号のような声。踊るようにして、働く人々。止まることを許されていなかった。たしか、美和子さんだったかなという方がまるで早回しして見るテレビのような動きを延々と続け、周りに指示を出していた。周りはそれに従い、ねじがまかれたからくり人形のように作業を行っていた。
私は圧巻するその光景に口を開けてぼんやりとみていた。だが、とうとうそんな私に怒りの矛先が向けられた。
「玲奈さん! これを持っていって!」
「あ、はい。すみません」
私は、出来上がった料理を運ぶ。
「ひえー」と小さな声で悲鳴をあげた。なぜなら、忙殺されているこの空間だけではなく、運んだ先にいた人たちの大食い早食いにまたまた呆然としてしまうからだ。
「朝なのによく食べるなぁ」
私はそんな言葉を漏らす。
今、4人が食事をしている。4人が座るには長すぎるテーブルの上に食事が埋まるぐらいおかれていた。何十人前なのだろうか。とっても4人で食べられるような量ではなかった。しかしながら、それが、すぐに消えてしまう。
一番わかりやすい例えをするのなら、DBのサイヤ人の食事だ。ブウ編での天下一武道会の日に孫一家とベジータがご飯を食べているあの光景に似ている。
関心というよりも一種の恐怖に近い感情を覚えていく。いや、それすらも通り越して、笑ってしまう。
その景色を眺めていると、美和子さんに叱られる。そして、厨房に戻り、大量の洗い物をさせられた。
嵐が過ぎ去った後、今度は、片付けと掃除。これもかなりの時間を要してしまう。
はあ、と一息つく間もなかった。
そんなこんなで働いていると、もう学校へ行く時間に近かった。
急いで着替えて、学校へ行く支度をして、まだ残っているだろう仕事を置いて、登校する。
このままだと、遅刻しそうなので、走って向かう。
私は、もう、と叫びたくなった。
なんで、こんなことをしているのだろうか。私は走りながら振り返る。
――
「あいつらを……殺して!」
私は怒りを込めて言った。怒りの感情が私の頭を支配していた。それに操られ、殺意というものが芽吹き、言葉として開花する。
「……」
「どうして! 黙っているんですか!」
ソーさんは黙っていた。その様子に私はいらだち、感情をぶつけてしまう。
ソーさんは片膝をついて、私の肩に手をついて、なにか慰めの言葉を言ってくれるのだろうかと思ったが、ソーさんは胸ぐらをつかみ、ぐっと顔を寄せた。
「滅多なことを口にするなよ」
「……!」
「お前は、本当にそれでいいのか?」
「うるさい!」私は手を払いのける。土をつかみ、ソーさんに投げつけてしまった。
「確かに、俺は「何でも屋」だが、なんでもはやらん」
「なにがダメなんですか! お金ですか!?」
「いいや。もちろん、依頼するには当然お金は必要だが。冷静でないやつの依頼など受け付けないだけだ」
私からは嗚咽が漏れだした。
「じゃあ……私は……どうしたら、どうしたら……いいんですか……? お父さんも、お母さんも、家も、思い出も、なにも……なにも、かも……なくなったんです……もう、どうしたら、いいんですか? だったら、せめて……せめても、一矢を報いて……敵を、うってあげたい……」
「……」
「ソーさん……」
私は涙でぐちゃぐちゃになった顔でソーさんを見上げる。
「まだ、結論を出すのは早いっていうだけだ。一旦冷静になれ。そうしたら、依頼の相談に乗ってやる。ただ、有料だがな」
「……」
「もう一度深く考えてみろ。自分がどうしたいか。感情に身を任すな。ましてや、復讐など、そんなことをしてもなにも自分の為にはならない。復讐で他人を殺すような奴の人生は必ず閉じていく。そんな無駄なことはしちゃいけない」
「……っ」
私は鼻をすする。涙を腕で拭う。
そして、立ち上がった。萎れていた花がその元気を取り戻したかのように。生まれた仔馬が、独力で立ち上がることができたように。
「すみませんでした……」
「いや、いいさ」
微笑みながら、肩を軽く叩く。
「よく考えろ。考えて考えて、その先にある自分の中の答えがはっきりした時、俺に依頼しろ」
私はこくりとうなづいた。
「でも、私はどうしたらいいのでしょうか。家もなくなってしまって……。たかしの家に泊まれますかね? あ、でもそうするとまた今回のような……」
「また、いつ狙われるかわからんからな。しょうがないから、俺の屋敷で身を潜めないか?」
「ソーさんの屋敷ですか?」
「ああ。そうだ。だが、まあ……住み込みでとなると、食うものは働くべからず、だ」
「へ?」
――
ということで、私は、ソーさんのお屋敷に住み込みで働くことになった。朝に働き学校へ行き、夕方にまた働く。
一応高校生ということなので、21時30分まで働き、その後は学校の課題などを行う。そんな生活を送ることとなった。
しかし、主な仕事内容は、配膳、食器洗い、掃除。それを主に仕事としてさせていただいている。大体合わせて8時間30分の労働を毎日行っている。
いきなりの環境の変化で、体がくたくたで、学校とかしんどいけれど、これも我慢。
学校では、私の疲れ具合が、出ているのか友達に心配されるが、たぶん、私の最近の不幸のことで気に病んでいると思われているのかもしれない。
仕事を始めて、忙しくて、考えている暇はない。ただ、学校では少し考えてしまう。考えないようにはしているけれども、どうしても頭によぎってしまう。
払拭しなければ。だが、私は、どうしたらいいのだろうか。
そう考えながら、学校が終わる。友達からカラオケなんかどう? と誘われたけれど、それを断って、急いで屋敷に帰る。
そうすると、美和子さん――この方は昔からこの屋敷に努めているメイド長だそうだ――が早く服を着替えるように言う。このまま、仕事が始まる、と着替えてから気合を入れた。いつものように、と思っていたら、今日は違った。
来賓室へ向かうように言われた。
なんだろうなと怪訝に感じながら、向かった。
ノックをすると、ソーさんが「いいよ」といった。
「失礼いたします」そういって、部屋に入ると、見知らぬ男性が座っていた。
「この子が、そうですか?」
「ああ。そうだ」
その男性は、立ち上がり、私の前にきた。少し警戒心があった私はびくびくしながら、上目遣いでその男性をみた。
スーツを身にまとい、シュッと背筋を伸ばしていた。20代後半……かな? 眼鏡をかけており、髪は短く爽やかそうなサラリーマンというように思えた。物腰が柔らかそう。えくぼを崩し私にやさしく微笑みかける。ちょっと思わず目をそらしてしまった。
「どうも。はじめまして」
「あ、はい……はじ、はじめまして」
しどろもどろになってしまった。
「私はこういうものです」
そういって、胸ポケットから名刺入れを取り出し、一枚の名刺を私に差し出した。
「えっと……「TELC」……?」
「テルクと読みます。事業内容は、簡単に申し上げますと、養護施設です」
「は、はあ……」
「私は八島……八島透と申します」
すっと手を差し出した。私は反射的にその手を握った。
「えっと、私は……山高玲奈といいます」
そうすると、にっこりと笑った。
「はじめまして、山高玲奈さん」
——
「それで、あの……私に何か御用ですか?」
「ええ。もちろんです。ふむ……どこからお話ししましょうかね」
透さんは顎に手を添えて考える。
「まずはお前の「TELC」についてからのほうがいいんじゃないか?」
「そうですね。そうしましょう」
ハハハと笑った。
「確か、養護施設といっていましたよね?」
「ええ。そうです。身寄りのない子供たちをお預かりさせていただいております。ただ、その中に一つ変わった子供たちもお預かりしているのです」
「変わった子供たちですか? ……まさか?」
「ええ。大体お察しの通りだと思います。そう、「SMP」の子供たちを引き取っているのです」
「だから、私を引きとりに来たのですか?」
「ああ、いえいえ。そういうことではございません。玲奈さん、あなたは今、ソーさん達とこうして暮らしていらっしゃるではないですか。ですから、そのようなことは致しません。「SMP」ですが、当たり前ですが世間では認知されていません。故に、苦しんだり、差別を受けたり、不遇な目にあってしまっているのが現状です。そうして親族から避けられてしまった子を保護しているのが、我々「TELC」なのです。玲奈さん、貴方は保護する必要などございません」
にっこりと笑う。
「えっと、では、なぜ? 私にお会いに?」
「仕事柄、とでも申しておきますか。「SMP」の人たちを私の目で確認しておきたかったのです。それと、最近の例の事件。それにあなたが重要人物であること。私としては、全力で貴方をサポートしたいと考えております」
「サポートですか?」
「ええ。とはいっても、今はソーさんのもとにいますので、ある程度は心配ないと思っております。ですので、私のほうから、ソーさんへ依頼をさせていただきました。貴方の護衛です」
「おいおい。それを言うなよ」
「別にいいじゃありませんか。玲奈さん、気を付けてくださいね。この人、前に3重依頼を受けていたことがあるのですから」
ソーさんをちらりと見た。ソーさんは肩をすくめた。
「10年前の話だろ」
「正しくは、11年前ですが」
フフッと笑った。
「えっと……?」
2人の話に首をかしげるが、関係がない。ただ、わかることは、私の身の危険をソーさんが守ってくれるように透さんが依頼してくれたということだ。
でも、だからといって……。まあ、心配することもないかな?
でも、ちょっと気になることが。
「その、施設についてですが、私のような人がいるってことですか?」
「ええ。そうですよ」
「よろしければ……なんですが、その施設を見に行くことって可能ですか?」
「ええ。もちろん。そもそもそのつもりでこちらへ伺ったのですから」
「そう、ですか」
「あなたの「鍵」の能力。この能力の事をよく知っている方もいます。ですので、貴方にとっても、今後の為にもなるのではないのかなと思います」
「え? 「鍵」を持っているのは2人いるんですか?」
「いいえ。同じ能力を持っているものは存在しません。ただ、例外が一人だけいるのですよ。その方は、「TELC」の施設長をしています。どうですか? 今からお時間はございますか?」
私に迷いはなかった。ぜひ聞いてみたかった。
「では、参りましょうか」
私はこくりとうなづいた。そして、この方と私と同じ「SMP」がいる施設へと向かうのであった。
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