試験編
第9話 魔の手
入学式から二週間が経ち、今日は校外で魔物戦闘試験が行われる。この二週間は魔法学や剣術などの通常授業に加え、『魔物学』という特別授業も学んできた。本来であれば二年生から習う分野であるが、騎士団に協力を
「これより先は城壁の外を出ます。騎士団の方々が通った道なので、安全だとは思いますが十分注意してください」
フェルンの呼びかけに生徒たちが返事をして南門の城壁を通過する。城壁の上からこちらに手を振るイルクスを見つけた。いつもは張り詰めた空気感が
「魔物に出くわしたとしても、僕の魔法で全て消し炭にしてやる」
「魔物と戦ったことがあるんですか?」
セロブロの言葉をいつもの調子で取り巻きの一人が聞き返す。
「ああ、父上と一緒の狩りに行ったことがある。蛇の魔物だったかな、僕の炎が良く燃えていた」
「セロブロ様の前では魔物ですら
「そうゆう事だ。みんな何かあれば僕を頼ってくれ!」
セロブロはこちらに嫌味な視線を送ってくる。
「ねえ、アルム……」
ラビスは
「どうした?」
「いくら騎士団がいるからって、こんな広い森の中で試験を行うのは無理なんじゃないのかな?」
魔物の恐ろしさを知っている彼女にしてみれば、その心配は
「俺が知る限り、この森にいる魔物だったら『彼ら』は問題なく仕事を
そして、その答えは『前者』である。
騎士団とはベルモンド王国を守護する魔法騎士であり、魔法学園卒業時の総合成績、上位十パーセントの生徒しか入団を許されていないのだ。大半の生徒がその権利を得るために学園に
「騎士団だ!」
男子生徒の声に全員の視線が集まる。彼らは
「…………」
先程まで
「学園の方ですね。オリバー=アンドリスと申します」
集団の中から一人こちらに向かって来ると、胸に手を当てて軽く頭を下げる。話し方や
「オリバー……アンドリスって騎士団の隊長じゃん‼」
「ちょ、お前! 声デカいって……」
「ははは、知っていてくれて嬉しいよ。本当は
オリバーは体勢を反転して俺たちを
「馬鹿野郎ッ! オリバー隊長だから助かったんだぞ」
「ゴメン、気を付けるよ……」
自身の失言の重みを理解したのか
「最高だ、オリバー隊長……」
彼への感想を呟き、静かにガッツポーズをした。
***
整列した俺たちはオリバーとフェルンの最終打ち合わせが終わるのを待っていた。
「オリバー隊長って人、優しそうで良かったね」
「ああ、セロブロみたいな奴だったらどうしようかと思ったぜ……」
「あはは……きっと試験どころじゃなくなるね」
セロブロ以上の実力者がセロブロ以上に
設営地のテントから二人が姿を見せる。フェルンは列の中心に立って
「改めて試験内容の確認をします。この試験では魔物を倒して、倒した魔物の点数で順位を付けます。そのため倒した魔物が証明できるように、配布した袋の中に魔物の体の一部を入れて
「はい」
オリバーに失礼な態度を取った生徒が挙手をする。
「戦った魔物が強くてどうしようもない時はどうすれば良いんですか?」
「はい。事前に自身との
「分かりました……」
「この試験では魔物の戦い方の基礎を学ぶ場です。初の実技試験でもあるので、
「「「はいッ――――!」」」
初めての魔物との戦闘、憧れの騎士団と対面、
「作戦はどうするの?」
班員であるラビスが質問する。
「うーん、見つけ
「そんな適当で大丈夫なの?」
「ラビスの風魔法と俺の暗黒魔法があれば、一位二位は
「そうゆう事じゃないんだけど……分かった。アルムの言う事に従うよ」
彼女は諦めたような表情を浮かべる。
「念のため、支給品をもう一度確認しておこう」
呼びかけに
「五分
「おっしゃ! やってやるぜ」
「頑張りましょうセロブロ様。私たちが上位独占です」
「当たり前だ!」
待ちに待った試験の始まりに、全員が気持ちの
「ラビス、あっち行こうか」
彼女の肩を軽く叩いて行き先を伝えた。
「えッ? あっちって――――」
「みんな! 怪我には気を付けてね、試験開始!」
フェルンの合図にかき消され、生徒たちが南方向に
「――――ど、どうして北に行くの?」
俺の指示に従って走りながら自身が抱える疑問を投げかける。しかし、それは当然のことで俺たちが向かっている北方向の先には、王都城壁の南門が建っているのだ。
試験が終わった後に通る道を何故、始まりと同時に通るのか?
「正確には北東な! 説明してやりたいけど――――見つけた!」
「えッ?」
進行方向に
「丁度いいしここで狩ろう、まずは見ておけよ、ラビス」
「う、うん……」
『
「……
小鬼を切っている途中で少し
「グギャアアアァ!」
自身の身長程の高さまで
「
「……凄い。流石アルムだね」
『
「今回は俺が全部仕留めたけど、次はラビスの手を借りるから頼りにしてるぜ」
「うん、任せてね」
俺たちは小鬼の片耳を
***
ラビスは群れから
「ハアァ!」
「シャアアアァ――――⁉」
激しい痛みに
「【
右手を突き出し、三つの風弾が森蛇の
「あんな動き回る相手によく当てられたな」
「魔力制御だけは昔から出来たから……」
視線と声の
(連戦続きで疲れたんだろうな……)
「少し
的外れな考えに至ってしまうアルムだが、彼女も休憩は欲しかったようで素直に頷く。
「忙しくて聞き出せなかったけど、どうして南じゃなくて北東に進んだの?」
「……うん。ラビスはこの試験で一番の障害は何だと思う?」
「えっと……」
すぐに答えを教えてもらえると思っていたラビスは頭を抱える。
「何でもいいよ。思いつく事から口に出して」
「そうだね……魔物との
「フェルン先生が言っていた事だね、凄く大切だ。他には?」
「班員との
「連携が出来なくちゃ勝てる相手にも勝てない。他には?」
「……魔物の
頭を捻り出して何とか第三の回答を言い放つ。
「遭遇できなかったら
「……うーん、ごめんね、これ以上は思い付かないや」
「いや、これだけ出れば十分だ。問題なんか出して悪かったな」
自身の思考力の低さに
「今言ってくれた事も凄く大切だが、
「警戒……クラスメイト同士で魔物の取り合い!」
「その通り。この森一帯は
そんな光景を
「だから魔物が多く集まっている南よりも、
目を細めて意地悪そうにアルムを見つめた。
「それは悪かった。手堅くとはいっても、少しでも魔物の多い場所を選びたくてぎりぎりまで
「そういう事なら許してあげます」
「ラビス様の
両手を合わせて崇めるような
「それ、宝石だろ? こんな森の奥まで持って来て大丈夫か?」
「う、うん……お守りみたいな物だから持って来ているの。一応、無くさないよう気を付けるよ」
「そうした方が良い。さてッ! そろそろ試験再開と行きますか!」
立ち上がって大きく背伸びする。
「そ、そうだね! もっと頑張るから期待していてね」
「ああ、頼んだぞ――――」
突然動きを止めて、キョロキョロと周囲を
「どうしかしたの?」
「悲鳴が聞こえたような気がしてな……」
ラビスも悲鳴を聞き取ろうと耳を
「――――こっちだな。行くぞ、ラビス」
薄暗い森の中で
「騎士団が
「そうだろうが、無視するのは流石に俺の良心が痛む! それに学園生が苦戦する魔物だぜ。高得点間違いなしだ」
「アルムらしいね……」
(本当に、アルムらしいな……)
十年前と何一つ変わらない彼の優しさに胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。
「誰かァ! 助けてくれ!」
茂みをかき分けて悲鳴の下まで
「俺は
「分かった! 気を付けてね」
アルムは人鬼の群れに直進し、ラビスは回り込むようにして茂みの中へ再び姿を隠す。
(怪我人が居なかったら【
「【
両手に八本の
「「「グアァ⁉」」」
足や腕など
「もう安心して大丈夫だよ!」
「助かった……」
「気絶してるこの子は私が背負うから、一緒に
「ああ、助けてくれてありがとう……」
ラビスは傷つけないよう
そして、背後に彼らを襲う魔の手が息を
「
一方、人鬼の群れを引き付けたアルムは既に【黒棘】で彼らの
「さて、手早く済ませてラビスと合流しますか……あれ?」
景気の良い様子から
「――――五、六、七……一体足りない。どこ行った?」
不意に
(匂いで
自身への怒りを
***
数十分前――――設営地から離れた東方向の森。
暗めの女子生徒が荒い息を落ち着かせようと体を
「ハア、ハア、ハア――――人が……」
瞳から涙がこぼれ落ちる。
(騎士の人が……殺された‼)
彼女の数十メートル先には……確かに大きな血だまりを作り、
死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する @TMDN
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