閑話2:繁栄と衰退

 カルディオ枢機卿が前教皇のパンパスを追い出し、念願の教皇に選ばれたあと、彼は本格的にエルフたち亜人の殲滅に動き出した。


 ここは教皇が業務を行う執務室。

「カルディオ卿、『教皇』就任おめでとうございます。」

「ありがとう、ようやくく私の目的の一つが達成されましたよ。」

 枢機卿時代から付き添ってきた側用人から祝いの言葉を受け、カルディオ「教皇」はお礼を言った。

「それにしても、前教皇の事は驚きましたな。まさか亜人たちと通じていたとは...。」

「まあ、これは想定内でしたよ。以前からあの小娘は私の提案に懐疑的でしたからね。」

 カルディオはそう言うと、席を立って外の様子を眺めた。

「それで、如何しますか?教皇の座から堕ちたとはいえ、彼女の影響力は侮れません。」

 側用人の言葉に、カルディは振り向くことなくこう答えた。

「ああ、何もしなくていいですよ。あの小娘とその信者たちなど脅威にはなりません。」

「まあ、と言うのならばあの異世界からのお猿さん達勇者一行に任せればいいでしょう。」

「成程、あの連中はここ最近失敗続きですからね。拒否権はありませんからうってつけですね。」

 カルディオの言葉に、側用人は納得した返事をした。

 実は、ピサーラ第3王女擁する反人族至上主義を壊滅させるべく勇者一行をアジトに派遣したが、連中は既にどこかに逃げた後で空振りに終わった。

 カルディオ自身は成果に期待はしていなかったため、特に叱責することはしなかったが彼らの「弱み」を握ったことにより、連中勇者一行を色々な場所に「傭兵」として派遣していた。それでも成功率はあまり高くなく、最近では失敗が続いていた。

 傭兵扱いに聖女たち勇者パーティが反発したが、変に真面目な勇者に(物理的に)諫められていた。

「さて、次の目的亜人たちの殲滅に向かって準備しましょうか。」

 外を眺めながら、カルディオは聖職者とは思えない醜悪な笑みを浮かべていた。

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 カルディオが教皇に就いてから約一年。漸く亜人殲滅の準備が整ったので、亜人代表(と彼は思っている)エルフたちに宣戦布告をした。

 亜人たちに対してそのような正式な手続きなど不要と言う声が上がったが、カルディオが「形式上だけです。」と言ったため、そう言った声は聞こえなくなった。


「準備はどうなっていますか?」

「万事抜かりなく。」

 ここはキトナムフロボン国軍の総司令部。そこの奥に鎮座している「総司令官」のカルディオが横に立っている「国王」に向かってそう尋ね、国王も普段通りの口調で答えた。

「それにしても、まさか亜人共が結集して我々と対峙するとは。数の上ではほぼ互角ですな。」

 国王がそう言うと、カルディオは不敵な笑みを見せた。

「所詮は只の烏合の衆ですよ。あのような寄せ集めの軍など我々がお猿さん達異世界人たちから搾s...『提供』してもらった技術があればあっという間に片が付きます。むしろ『わざわざ』集まってくれた今の状況はかえって好都合です。」

「そうですな。あれほど痛い目に遭いながら歯向かおうとするとは、矢張り連中は我々と違い『学習する』という能力がないのでしょうな。」

 カルディオの言葉に、国王が笑いながら答えた。

「・・・・・・・・」

 一方、反対側にいる勇者一行は黙って戦場を見つめていた。

「・・・名誉挽回の絶好の機会です。宜しく頼みますよ?」

「・・・分かっている。」

 カルディオが勇者たちを見ることなくそう言うと、勇者は苦い顔をしてそう答えた。

(所詮は私の目的を達成するための「道具」。はいくらでも用意できます。)

(私達には「神から与えられた」【異世界召喚魔方陣】があるのですから。)

 カルディオが横眼で勇者一行を見ながらそう思っていると、突然聖女が「あ。」と声を上げた。

「どうされましたか聖女?」

 カルディオの小馬鹿にしたような言い方に気付かない聖女は、何故か青い顔をして冷や汗をかいていた。

「どうした、具合が悪いなら少し休んでいろ。」

 聖女の表情を見た勇者が、聖女を気遣うようなことを言ったが、彼女はその言葉も聞こえていないようだった。

「・・・【神託】が降りた...。」

 震える声で聖女が小声でそう言った。

「【神託】?」

 聖女の隣にいた【賢者】が訝しそうな顔をして聞いてきた。

「ああ、もうそんな【芝居】は結構ですよ。今更【神託】などに価値はありませんから。」

 カルディオが呆れたような声で聖女に言った。

 しかし、聖女の表情はいまだに蒼白なままである。

「・・・違う、の【神託】が降りたのよ...。」

 相変わらず震えた声で聖女が言った言葉に、カルディア含め周りにいた者たちが一斉に注目した。

(「本当の【神託】」?)

 カルディオが聖女の言ったことを考えている横で、国王が冷や汗を流しながら聖女に向かって、

「せ、聖女様。そのお聞きになった【神託】の内容をお教えくださいませんか...?」

 そう聞くと、聖女は国王の方を向いて、【神託】の内容を伝えた。


「『ことわりを正す』...と。」


 その言葉に、一瞬周りの時が止まったような状態になり、その後皆顔を合わせて「?」と言う表情をした。

(・・・成程、確かに以前あの小娘パンパスから聞いた【神託】と同じ感じですね。あのお猿さん聖女からは絶対出てこない言葉ですから、恐らく「本物」なのでしょう。)

(しかし、「理を正す」とはどういう事でしょうか。余りに抽象的過ぎて理解できません。)

 カルディオが神託の意味を考えているときに、側用人が慌ててカルディオの元にやってきた。

「猊下、いま宮殿から連絡が入り、【異世界召喚魔方陣】が消失したとのことですっ!!」

「何っ?!!」

 珍しく声を上げたカルディオ。

 周りの者もその報告に戸惑っているとき、勇者たちの足元に魔方陣が現れる。

「な、なんだこれは?」

 勇者がそう言った直後、勇者一行の姿が消え、魔方陣も消滅した。

「ゆ、勇者様っ!!」

 国王たちが突然消えた勇者達を探しているのを見ながら、カルディオは目を見開いていた。

(あ、あれは宮殿地下にあった【異世界召喚魔方陣】に酷似していた。)

(すると、勇者たちは元の世界に送還されたという事か...?)

「どういうことだ、これが【理を正す】という事なのか...?」

 思わず声を出したカルディオ。しかし、事はこれだけでは終わらなかった。

「猊下、後方の砲撃部隊から報告!【大砲】を含めた全ての【銃火器】が消失しましたっ!!」

「なっ!?」

「猊下っ、各部隊との通信機器が消失、その他召喚者から得た武器防具や魔道具が全て消失しましたっ!!!」

 カルディオは立ち上がり、その報告に唖然とした。

「・・・まずいですぞ!あれがないと我々が一気に劣勢に立たされます!!」

 国王の焦った声が総司令部に響き渡るが、カルディオにはそれを聞く余裕はなかった。

「報告!亜人共との戦闘で前衛部隊が壊滅!亜人共はその勢いで次々と我が部隊を蹂躙しています!!」

 続々と入ってくる戦況報告。それを聞いていた国王や側近たちは慌て始めていた。

「猊下、このままではこの総司令部に亜人共が来るのも時間の問題です。」

 側用人がカルディオにそう言うと、彼は苦虫を嚙み潰したような表情をした。

「・・・宮殿まで撤退します。」

「「「はっ!!」」」

 声を震わせながら、撤退の命令を下した。

 撤退する馬車の中で、カルディオは屈辱の表情を浮かべていた。

(なぜ、こうなった...?我々は【神】の言われた通り、『人族至上主義』を守ってきたはずだ...。何がいけなかったのか...。)

 彼は自問自答しながら宮殿に向かって行った。


 カルディオたちが宮殿まで撤退してから数日。

 宮殿の周りはエルフ達「亜人」が取り囲んでいた。

 隣接していた王宮は既に制圧されていて、最後まで抵抗していた王侯貴族は全て捕らえられた。

 亜人たちから提示された「降伏勧告」をカルディオの独断で拒絶した「教会」は既に壊滅状態で、側近たちも既にこの世にはおらず、残された「現」教会の関係者は教皇の執務室の椅子に一人座っているカルディオのみだった。


「・・・神よ、貴方は我ら人族にこの世界を託したわけではなかったのですか...?」

「そのために他の種族、忌まわしき亜人共を抹殺せよと考えた我々が間違っていたというのですか...。」

「・・・・・・・・」

 彼の問いに答える者は誰もいなかった。

 そのうち、外の様子が騒がしくなってきた。

「・・・私の『野望』もここまでですか...。」

「以前、召喚者の誰かがこんなことを言っていましたね...。」

「【盛者必衰じょうしゃひっすい】、確か『勢いの盛んなものも、いつか必ず衰え滅びる』でしたか。」

「正しく、今の私そのものですね...。」

 そんな事を呟くと、彼は「フッ」と笑った。

「・・・『いい夢』を見させてもらいましたよ...。」

 外で大勢の足音が聞こえてくる。

「・・・亜人共に辱めを受けるくらいなら、いっそのこと...。」

 そう言うと、彼は執務机の引き出しを開け、何かを取り出した。


「教皇『カルディオ』、その命、エルフの長『レミラ』が貰い受けるっ!!」

 執務扉が乱暴に開かれ、中に突入してきたのは「ハイエルフ」の「レミラ」。

 その彼女が見たのは、執務机で自らの首を掻ききり、すでに事切れていたカルディオの姿だった。

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俺と女神様の異世界夫婦生活 白牛乳P @key001

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