ナニモノ

強靭なる狂人

Case 1 俺は何物?

 よう。あんた、ちょうど暇してたところだから、話し相手になってくれや。俺?俺はある物なんだが・・・気がついたら、考えることができるようになってたんだ。

 まぁ細かいことはいいから、俺が何物ナニモノか当ててくれよ。




 しっかし、ここは寒いなぁ。それに暗いし狭い。どうしてこんなに寒いんだ?暗いから周りも見えねぇし。

 ・・・お、目が慣れてうっすらだけど見えてきやがった。なんだ?俺以外にも物がたくさんあるな。あと壁がある。ここは小さな部屋なのか?反対側は・・・くそっ、兄弟が邪魔で見れねぇな。この体じゃ動けねぇから、もっとこう、飛んだりして、ヒョイヒョイ動きてぇもんだ。

 にしても、この寒さ何とかならないのか。このままだと俺は・・・いや、なんというか、この寒さが俺を守ってるんじゃないか?寒くないと、俺が俺でなくなるみたいな。なぁあんた、何でか分かるか?


 少し前までは、もっと広いところにいたんだ。そこは寒くなかったな。それにもっと物があった。周りには今より沢山の兄弟が・・・ああ、兄弟っていうのは、周りに俺と同じ形の奴が沢山いたから、そう名付けてるだけだ。実際のところはわからない。

 そこでず〜っと待ってたんだが、急にでけえ何かが━━━「ヒト」って言ったか?━━━俺といくつかの兄弟を拾い上げてったんだ。

 なんだなんだ、と思っていたら、今度はピッピッピッ、って鳴り始めたんだ。あれは鳥じゃなかったな・・・鳥はもっと、やかましく鳴くもんだ。あれはよくわかんない音だったな。

 後のことはあやふやだな。たまにしか揺れねぇ壊れたゆりかごに乗って、そんで気づいたらここに居た。


 退屈だ・・・ここにいるヤツらは皆、死んだみてえに静かだし、つまらねぇったらありゃしない。

 ・・・なんで俺はこんなところにいるんだ?さっき、寒いから生きられるみたいな事を言ったが、生きたからなんだ?俺はこの部屋から出られねぇし。俺はんだ?

 待て。何か聞こえるぞ。足音?こっちに来ている・・・眩しいッなんだ!?ヒトだ!ヒトが俺を掴んでいる!クソッ、コイツ俺をどうする気だ!・・・ッ!?コイツ、俺を地に叩きつけて・・・なんだ・・・俺の中からドロドロとしたものが・・・黒い板の上に乗って・・・ダメだ・・・意識が、モウ、ロウ、ト・・・


 ・・・?なんだ?・・・浮いてる?体が・・・無い?死んだのか、俺?

 ヒトがいる。

 アイツ、よくも俺を・・・あ?アイツ何食って・・・アレって、さっき俺から出たドロドロ・・・が、固まったもの?なんでそれを・・・

 「やっぱり、目玉焼きは美味しいなぁ」

 メダマヤキ?オイシイ?何言って・・・

 「にわとりさんに感謝しなきゃな」

 ・・・あぁ、思い出した。俺はあの広い場所に居る前は、より広い、空が見える場所にいた。そこで・・・鶏から産まれたんだった。・・・いや、「排卵はいらん」されたんだ。

 なんでこんな大事なことを忘れてたかって?お前、知ってるか?鶏は3歩も歩けば忘れちまうんだとよ。俺は1歩も歩けなかったけどな・・・はぁ。どうせなら、飛べなくてもいいから、鳥として生まれたかったよ。




 そう、俺の正体は【たまご】。正確に言えば、鶏卵けいらん無精卵むせいらん。ただ、人に食われるのを待つだけのタンパク質。

 別に、悲しくなんかねぇよ。栄養が欲しいってんなら、くれてやるってんだ。ただな、お前らが卵を食うとき、それは鳥になれなかった物だってことを、思い出してほしい。そんで、俺らの分まで生きてくれよ。

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ナニモノ 強靭なる狂人 @Double_Kyojin

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