#4

 会議が終わるころマイクはかつての自宅の前で座っていた。しかし中には入れない、現実をさらに突き付けられそうで怖いのだ。

 座りながら他のダーティア達の暮らす様子を眺めていた。女性や子供など非戦闘員は汚染区域の中で普通の人間のように暮らしている。家事をしては趣味に明け暮れ、まるで本物の人間かのように暮らしているのだ。


『俺たちも人間だ、ダーティアなんかじゃねぇ』


 スタンに言われた言葉を思い出し少し身震いする。あれほど憎み怪物のように思っていたダーティアが何よりも人間に見えるのだ。しかしそれでも母親から幸せを奪った存在であることには変わりない、怪物だと思う気持ちと人間のように思えてしまう気持ちがせめぎあいどうにかしてしまいそうだった。


 ピロン、ピロン、ピロン……

 そんな気がおかしくなってしまいそうな中でもスマホの通知は止まらない。その大半が母からの心配のメッセージだった。後はマイクが汚染された時に逃げたクリスから。

 どちらも心配をする内容であったが今のマイクには全く響かなかった。


「(母さんもクリスも今の俺を知れば……)」


 まだ人間だと思い心配してくれている、その事実が少しだけ心の支えになっていた。だからこそ真実を知られたくない、現状を維持したいのだ。

 そのように溜まっていく通知を眺めていると声を掛けられる。


「返事しなくていいの?」


 驚いて顔を上げるとそこにはスタンと一緒にいた少女であるテレサが立っていた。ピンクに紫が混じったような長い髪をしながらもマイクより少し年下に見える。しかし雰囲気はやけに大人っぽかった。


「えっと、何だよ……」


 その問いには答えずテレサはマイクのすぐ隣に腰掛け通知の止まらないスマホ画面を覗き込んだ。かなり顔が近い。


「っ……」


 あまりの警戒心の無さにこちらは逆に警戒してしまう。いくら可愛らしい少女だからと言って彼女はダーティアだ。


「お母さんとお友達ねー、せっかく生きてるんだから大事にした方がいいよ?」


「……っ?」


 やはり警戒してしまい言葉が出ない。するとテレサは少しキョトンとした。


「あれ、間違ってる? ちゃんとこっちの字は読めるようになったはずなんだけどな……」


 大人びているが軽い感覚で話してくる彼女。


「いや、合ってるよ……」


 流石に無視し続けるのも癪だったので返事をした。


「そかそか、じゃあ返事してあげな? 家族や友人は大切にするものだよ」


 気を取り直しもう一度同じ事を言うテレサ。改めて言葉の意味を理解したマイクは反発した。


「お前に俺の何が分かるんだよ……大切だからこそ返事できないんだ、母さんの家を奪った存在になっちまったから……!!」


 現状を説明して彼女の言葉を否定する。それに対して彼女はこう返した。


「でも生きてるから良いじゃん、まだチャンスはあるって事だよ」


 その言葉である事を察するマイク。


「え、もしかしてお前の親……」


「うん、とっくに死んでるよ」


 思った通りの解答が返ってきて少し焦る。


「えっと、ごめん……って何でダーティアに同情なんか……」


 一瞬同情しかけるがすぐにかつてのダーティアからの仕打ちを思い出し考えを改める。


「ははっ、頑固だねぇ~」


 そんなマイクを見て笑うテレサ。差別的な発言をされたというのに明るい振る舞いを見せている。


「ていうか私ダーティアじゃないよ?」


「え?」


「私ビヨンドなんだ、あの怪物って言われてるのと同族」


「……は?」


 言っている意味が分からなかった。それでもマイクを置き去りにしてテレサは語り続ける。


「あの子たち……あ、ダーティア達ね? 最初はみんな私のこと嫌ってたんだ。今の君みたいにね」


 ダーティアを嫌うマイクと彼らを重ねるように語り出す。


「やっぱ私たちが汚染を始めたのがきっかけだからね、恨まれて当然だけどさ」


 想いに耽るように語るテレサ。


「でも私たちの事情を知って自分の状況も受け入れてからは共に生きる仲間として仲良くなれたんだ」


 マイクの顔を覗き込んで言う。


「……何が言いたい?」


「君にも私たちを知ってほしいって事。互いに理解し合う事で平和に生きられるから」


 そう言われてマイクは周囲で普通の生活をしているダーティア達を見渡す。その視線に気付いてテレサは諭した。


「真人間と変わらないでしょ? 身体は変わっちゃっても心だけはそのままだからね」


 子供と遊ぶ親、そして家事をする者たち。その様子は仮説住宅に住む者たちと変わらなかった。


「君みたいな難民と同じ、この世界に嫌われて元の家に帰りたいと思ってる人達」


「っ!!」


 家に帰りたい人達と言われどうしても反応してしまった。


「母さん……」


 母親と同じ存在だと言われて少し気持ちが揺れる。しかしまだ心は許せなかった。


「でもその結果俺や母さんが難民になったんだ、やっぱ許せねぇよ」


 スクッと立ち上がりテレサのもとを離れようとするマイク。するとそのタイミングで汚染区域エリア9に設置されているサイレンが鳴った。


「何だよ……⁈」


 けたたましいサイレンの音が鳴り響き異常事態だと言う事を伝える。


「ウソ、こんなに早く……⁈」


 隣でテレサも驚いている。


「何が⁈」


「ピュリファインにここがバレたって事! 攻めて来たんだよ!!」


 テレサの言った通り、ここにピュリファインが攻めて来たようだ。しかし何故こんなにも早く居所がバレたのだろうか。

 ・

 ・

 ・

ピュリファインの部隊が複数エリア9の入り口に現れた。それぞれ一部隊ずつ四つの入り口を包囲している。


「第一部隊配置に付いた、いつでも行けるぞ」


 ガイナ隊長が無線で呼びかける。


『了解、こちらも準備完了した』


 無線の先には他の部隊の者たちが居る。それぞれが手練れの戦士だ。


『ではピュリファイン各部隊、戦闘開始』


 司令室ではブルー指揮官が指揮をとっていた。その掛け声と共に攻め入るピュリファイン。


「(必ず終わらせる……!)」


 かつて父から学んだ正義感を胸に胸のミニゲートを解放するレオンだった。






 つづく

 

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Purifine/ピュリファイン 甲斐てつろう @kaitetsuro

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