#3

 一方その頃、ピュリファインが次に攻める予定となっている汚染区域エリア9では。不本意ながら嫌いなダーティアとなってしまったマイクが無気力に座っていた。

 周囲では他のダーティアと化した人々が生活をしている、自宅を奪った存在がその自宅付近でこんな普通に暮らしている様子を見ながら目は虚空を泳いでいた。


「(俺なんで生きてるんだろう……?)」


 目は虚で何処か宙を見ている。まるで走馬灯のようにこれまでの目的や母親の事が浮かんだがその全てにモヤがかかっていた。

 しかしそれでも思考は止まらない。モヤがかかって尚マイクは鮮明に母親の姿を見ようとしていたのだ。

 それでも見えないものは見えない、ただ無気力に何もない虚空を生き続けてしまっているのだった。ただ死んでいないだけなのである。

 その様子を他のダーティア達が生きている隙間から心配そうにスタンは眺めていた、隣に来たテレサが問いかける。


「そんなに気になる?」


「どうしてもエドと重なっちまってな……」


 捕われてしまったという弟のエドとスタンの姿が重なって見えると言う。


「アイツもダーティアを嫌ってた身でソレになっちまった、今マイクはあの時のエドと同じ絶望の中にいるんだろうな……」


 そう言いながら歩き出しマイクの隣に腰掛ける。


「よう、なんかすまねぇな……」


「…………」


 話しかけてみるがマイクはまだ上の空。


「汚染させちまった身で言うのもアレだけどよ、どうしてもお前の事ほっとけなくてな……」


 ぎこちなく謝り会話を広げようとするがやはりマイクには気持ちは届いていなさそうだ。


「俺と一緒に汚染された弟もダーティアを嫌ってた、今のお前みたいに生きる理由を無くしたみたいになってたよ」


「…………」


「そしたらピュリファインの襲撃に遭ってな、一方的に嫌って誰とも協力しようとしなかった弟はそのまま捕まっちまった」


 弟が捕われる瞬間を思い出す。


「俺は事実を受け止めて協力するべきだって止めたんだぜ? でもアイツは聞かなかった、自分の主張を優先した結果捕まって今も囚われたままだ……」


「…………っ」


「アイツの主張を止められなかったのを後悔してる、お前にはそうなって欲しくないんだ」


 そう言いながらスタンは背中に掛けてあった刀剣のようなものを取り出しマイクに渡した。


「お前にやるよ、バック・ブレードだ。本当は弟に渡される護身用の剣だったんだがな……」


 渡されたバック・ブレードを見て上の空だったマイクが少し目を見開いた。それに気付かずスタンは続ける。


「非戦闘員でもこれくらいは持っとけ、この世界で生きるには常に敵の襲撃に備えなきゃいけないからな」


 その言葉を聞いてマイクは遂に声を発する。


「やめてくれ! 俺にダーティアとして生きるために戦えってのか……⁈」


 バック・ブレードを持つスタンの手を突き放しその影響で刀剣が地面に落ちる。


「知らないヤツを勝手に重ねて同情したつもりか……? 元々お前のせいでこうなったんだろ!!」


「だからすまねぇって……」


「ほっといてくれよ! 俺にはもう何もない、戦う理由も生きる理由も……っ!!」


 そうスタンを怒鳴りつけてその場をズカズカと離れていくマイク。引き止めようとするスタンだったがそれをやって来たテレサが静止した。


「やめときなよ。あーなったら止められないの分かってるでしょ?」


 弟のエドもそうだっただろうと引き合いに出すテレサ。しかしスタンの心には余裕がなかった。


「でもエリア13のヤツらが捕らわれた事でエドの奪還は余計に難しくなっちまった、もう同じようなやつを増やしたくないんだ……」


 彼は彼でどうしてもマイクを弟の二の舞にさせたくなかったのだ。

 ・

 ・

 ・

 そんな中でここエリア9では今後どうしていくかの会議が開かれた。スタンを始めとした戦闘員や敵から鍵と呼ばれるテレサ、そして謎の初老の男が出席している。


「よく集まってくれた、では会議を始めようか」


 その初老の男が仕切る形で会議が始まる、どうやらこちら側の指揮官のような立ち位置らしい。


「ご存じの通り抗争中のエリア13がピュリファインにより浄化され殆どのダーティアが捕らわれた。その中には我々の宿敵ネメシスの姿も確認されている、つまりピュリファインとエリア13の戦いは幕を閉じたと言うわけだ」


 ピュリファインが達成したと言っていたエリア13の浄化、そこは彼らの抗争相手の拠点だったのだ。


「となると次に狙われるのは間違いなくここエリア9だろう。幸いまだ場所は特定されていないがバレるのは時間の問題だ、今後の対策を練っていきたい」 


 指揮官がそう問うとスタンが我こそはと手を挙げる。


「今こそピュリファイン本部に攻め込んで捕らわれた戦闘員を奪還するべきだと思いますっ! 戦力増強をして備えれば……」


 しかし他の冷静な戦闘員に却下されてしまう。


「お前は弟を助けたいだけだろうが、今行くのは前よりリスクがデカいのは分かってるだろ?」


「ただでさえあそこじゃ俺たちの力は弱まるのに今行けば捕らわれのエリア13の奴らまで解放しちまう、あのネメシスもだ……!」


 便乗するが申し訳なさそうに指揮官も言った。


「ネメシスの統率力は計り知れない、ヤツにまたリーダーをさせるのは危険すぎるんだ。理解してくれスタン」


 スタンが弟を想う気持ちは理解している指揮官。しかしスタンは納得がいかない。


「でも今の戦力じゃまた仲間を失っちまう、これ以上捕らわれの仲間を心配するのは嫌なんだよ……」


 そこで浮かんだのは弟と重なったマイクの顔。


「アイツもエドみたいに……」


 その言葉を聞いた一同はスタンの思いを理解していたがどうすることも出来なかった。


「……とにかくだ。今はテレサを渡さない事が最優先事項だ、ゲートを閉じさせないためにも君の研究はさせない」


 そう言われたテレサは軽く返した。


「悪いね、また守ってもらうことになっちゃうけど」


 するとスタンが言う。


「俺がテレサと契約できたら全部一人で何とか出来るのに……」


「無理無理、私の力に耐えられる人間もダーティアもいないよ」


 恐らくまた弟の事を考えているのだろう。


「今はテレサを守りどこか違うエリアに移住する計画を立てるべきだな」


 指揮官がそう言うことによりひとまずの方針が決まった。






 つづく

 

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