#2

 エリア13と呼ばれる汚染区域の浄化を済ませたピュリファインは本部へと帰還していた。

 その本部は新都市アストラルの中心に位置し常に浄化に使う浄化物質で覆われているためビヨンドやダーティアは活動が制限されてしまう。なので攻められる事なく安全に活動が出来ているのだ。

 司令室に向かって歩いているのは第一部隊の三名。レオン・パージとニーナ・ヴィオラ、そしてガイナ・ディオール隊長の三名である。


「失礼します」


 司令室に入ると指揮官が出迎えてくれる。その姿は初老のイカつい男といった風貌だが怪我をしているのか車椅子に乗っている。


「よくエリア13を浄化してくれた、その結果に関してはよくやったと言えよう」


 傷だらけの顔で引き攣った口を動かしながら言った。


「ただしレオン、お前の何が何でもダーティアを優先する行動は流石にもう見過ごせない。最も高い実力から大目に見てやっていたが特別扱いはもうやめだ」


 レオンの方をジッと睨みながら圧をかける。しかしレオンは反論をしようと試みた。


「で、でも父さん……」


 父親として指揮官を呼ぶが彼はそれを拒絶する。


「この場で父と呼ぶのはやめろ、指揮官と呼べ」


 そしてハイテクな車椅子を回転させ背後のパソコンを操作しホログラムで資料を映し出した。


「まぁ今はそんな事より次の作戦だ」


 そのホログラムモニターには次の指示とその図面が映されていた。


「もう次の作戦っすか⁈」


 ガイナ隊長は驚きの声を上げる。続いてニーナは嘆きの声を上げた。


「えー、せっかく長い戦いに決着ついたのに……」


 エリア13のダーティアとは長く戦いを続けて来た。ようやくその拠点を潰す事が出来たというのに休む間もなく次の作戦だと言われショックだった。


「せっかくの機会だ、逃す訳にはいかない」


 指揮官はしっかり概要を説明する。


「エリア13が潰された事で他のダーティア勢力が更なる力を持つ可能性が考えられる、今のうちに始末するのが先決だ」


 理には叶っているので何も言えない一同。


「分かったら今のうちに睡眠を取っておけ、明日の正午にエリア9へ仕掛ける」


 そして意味深な表情を浮かべ更に言った。


「そこに鍵はいる、必ずヤツを捕らえろ」


 冷酷に言い放つ事で更にレオンは複雑な気持ちを抱く。


「はい……わかりました」


 そしてレオンとニーナは司令室を後にした。

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 ・

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 司令室を出た後の廊下をズカズカと歩いているレオンとニーナ。特にニーナは指揮官に対しての不満が溜まっていた。


「いつも何なのあの人⁈ 偉そうな態度でさ!」


 そういう彼女だが側にいたレオンはそうは思っていなかったようだ。


「昔はあんなんじゃなかったんだよ……」


 過去の父親の印象について語り出す。


「もっと明るくて情熱的な人だった、そんな父さんの背中に憧れて俺はピュリファインを目指したはずなのにいつの間にか……」


「あんなんになってたって事……?」


「あぁ、だからニーナはあの人の難しい部分しか知らないだろうけど本当は良い人だから嫌わないであげて欲しいんだ……」


 そんな言葉を聞いたニーナは少し考えてからため息を吐いた。


「人の良い部分を探すのって苦手なんだよね……」


 レオンに聞こえないほどの小さな声でつぶやいた。

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 レオンとニーナが司令室を出た後ガイナ隊長は少し残り指揮官と個々で話を始める。


「もう仕事モードはいいですかブルー隊長」


 隊長であるガイナは指揮官の事をブルー隊長と呼んだ。


「名前で呼ぶのは構わんが隊長呼びはやめろ、元隊長だ」


 仕事モードを終わらせたのか少し砕けた雰囲気になるブルー元隊長である指揮官。タバコを取り出し火を点けた。


「一本やるよ」


「やめたって言ったじゃないですか……」


「そうだったな」


 ガイナ本人の言葉で彼がタバコをやめていた事を思い出し差し出したタバコを仕舞った。

 そしてブルー指揮官の吐く煙を少し嫌がりながらガイナ現隊長が会話を始めた。


「最近焦ってませんか? 息子、レオンへの当たりもキツくなってる気が……」


「ようやくエリア13を追い詰め仕留めた、これで邪魔なく鍵を手に入れられる。失敗は許されないんだよ」


 早いペースでどんどんタバコを吸っていくブルー指揮官。既に一本目を吸い終わり灰皿に擦り付け火を消した。


「でも本当は父親として接してやりたいんでしょう? 知ってますよ、そんな怪我負ってまでレオンを守ろうとしたんですから」


「あぁ、だが俺の意志を継ぐ者だからこそ厳しくしなければならないんだ」


 新たなタバコに火を着けてまた蒸した。


「俺は父親である前にピュリファインの指揮官なんだからな」


 その言葉を聞いたガイナは少し複雑な気持ちになった。


「(本当は俺が継ぎたかったんですけどね……)」


 ブルー指揮官が隊長だった頃、怪我をした現場に居合わせていたはずの自分の無力さを痛感しているのであった。






 つづく

 

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