エピローグ そして明日も、きっと死にたい

エピローグ そして明日も、きっと死にたい



 宴会えんかいは13日13ばんつづいた。

「つづくな! そんなに! いくらなんでも!!」

 と、さすがのナジャも悲鳴をあげる大騒おおさわぎであった。

 なにしろ、何年も魔王軍に支配され続けた人々だ。

 そこからみやこを解放したヒメナイトたちは、英雄のなかの英雄だった。

 街のヒトたちが熱狂ねっきょうするのもムリはない。

 ムリはないのだが、こうも毎日、酒! 肉! 歌とおどり! というのでは、疲労ひろうもなみたいていではない。

 13日目の宴会えんかいを終えたところで、ナジャもキリンジも疲れきり、宿のベッドに倒れこんでしまった。

「うー……もうだめ……」

「ほぺー。ぽいー」

「こりゃ命にかかわるな……」

「あぱー。ぷー」

「ヒメなんて、ひっきりなしに知らないヒトから話しかけられるから、ストレスで頭があっぱらぱーになってるし……」

「こりゃあ、アレかなあ?」

「アレって?」

「今夜のうちに、こっそり旅立たびだっちゃう?」

 ナジャとキリンジは、じいっ、とおたがいを見つめあい……

「「よしっ!!」」

 飛びおきて、荷物まとめにとりかかった。



   *



 翌日よくじつ

 魔都まと――いや、もうそう呼ぶのはふさわしくあるまい。みやこの西のおかの上に、3人の姿があった。

 ここからなら、みやこの様子が一望できる。

 魔王城がくずれ落ちたほかは、来たときと変わらぬ街並まちなみのはずなのだが……ふしぎと今は、街全体が明るく輝いて見える。

 ナジャは大きく背のびして、目を細めて街をながめた。

「この国、これからどうなるのかなあ?」

「ユンデの話だと、外国に逃げてた王族を呼びもどして、また王位につけるつもりらしいぜ。

 とはいえ、発言権を持ってるのは、反乱軍として戦ってたユンデたちだからな。

 いちおうおかざりの王様を置いといて、実際の政治は自治じち委員会がやる……実質的には帝国自由都市に近いかたちになるんじゃないかねえ?」

「お、おう。わからん」

「なんにせよ、南方にはまだ孤立した魔王軍の部隊が残ってるし、前途ぜんと多難たなんだよ」

 そこで、2人の後ろから、ヒメナイトが、ヒョイと顔をのぞかせた。

「うまくいくといいな」

「ん……ですね!」

「ま、なんとかなるだろ。

 竜のあねさんも、やまほどお土産みやげもらって、『また来る』ってご満悦まんえつだったし。

 あの竜がいりゃあ、ちょっとやそっとの魔族なんて敵じゃねえよ」

「あーっ!! 竜で思いだした!

 キリンジィ! あんたねーっ、ヒメ様がつかまった後、どこであぶらうってたのーっ!」

「あっ……おまっ……

 そういうコト言うかァ!?

 オレはなあ! ヒメといっしょに捕まりそうだったところを必死ひっしで逃げて! お前らがどこに行ったか分かんないから、とほうにくれて! それでだよ、《遠話》の術で竜に連絡とって助けにきてくれってたのみこんで……たいへんだったんだぞ! いやほんと! 魔族に見つかって殺されそうになるし! 魔獣に食われそうになるし! すべてを語ればたっぷり小説10万字には達する波乱万丈はらんばんじょう驚天動地きょうてんどうち冒険譚ぼうけんたんが……

 聞いてんのかお前らっ!」

 いつのまにか、西へ向けて歩き始めていたヒメナイトとナジャ。

 そのあとを、ぷぃーん、と気楽に飛んで追いかけるキリンジ。

「ね」

 ヒメナイトが、胸の内のワクワクを隠しきれずに、はずんだ声をあげる。

「どこへ行こうか」

「そうですねー。

 とりあえず、わたしの故郷に帰って、みんなに『やったぞー!』って報告して、そのあとは……」

 ナジャは、きゅっ、とヒメナイトの腕に、自分の腕をからめた。

「そのあとは、そのあと考えましょっ!」

「うん!」

 彼女らの前に、道はどこまでも続いていく。

 浮かびもすれば、しずみもする。

 だからこそ、姫騎士さんは今日も死にたい。

 そして明日も――きっと死にたい。



「姫騎士さんは今日も死にたい」完

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姫騎士さんは今日も死にたい 外清内ダク @darkcrowshin

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