第5話 男の話♯3

泣きじゃくる佐久間をなだめた後、居酒屋で2人で彩華をどうするか話し合うことにした。


はい!お待たせ、生2つ。 串はもうちょい待って!


キンキンに冷えたビールが荒くテーブルに置かれるや否や、僕は病院に連れていくべきだと言った。


しかし、佐久間は一向に納得しなかった。


何故、病院に連れて行きたくないのか問いただすと、バツが悪そうにことの経緯をはなしはじめた。


「僕のせいなんです。僕が…心霊スポットなんかに連れていったから。」


佐久間は常に涙を零しながら、喉に詰まりそうな声で説明しだした。


余りにも泣くので店員が心配そうに目線を寄越しているのが分かり、恥ずかしかった。


お察しの通り、佐久間の話は、段取りが悪すぎるせいで分かりにくかった。話をまとめると以下の様になる。




ある日、佐久間は彩華と心霊スポットにデートに行こうと企んでいた。


と言うのも、その時期は夏だった為、佐久間のよく見る動画サイトでおすすめ欄に頻繁に心霊スポット系の動画が上がり、盛り上がりを見せていたのだという。


カップルとしての仲を深めるには心霊スポット巡りが、丁度良いと思ったそうだ。


ただ、二人だけでは心もとないため、友人のカップルを誘い、ダブルデート形式で行くことにしたのだった。


場所は○○○トンネル。オカルトサイトでもよく見る有名スポットだった。


東京から車で行ける距離であったので、彼等には都合が良かったのだと思う。


当初夏に行く予定だったのだが、蚊が多くいることを懸念して秋に行く約束をした。


暑さもだいぶマシになった頃、彩華がこんなことを言い出したのだそう。


「ねぇ、○○○トンネルはやめて△△△△にいかない?絶対こっちの方が良いと思うの。こっちにしない?」


「急になんだよ。」

「ていうか、あいつらどうするんだよ。△△△△ってめちゃくちゃ遠いだろ。飛行機でいかないと行けないじゃん。」



確かに遠い。

△△△△という場所は、僕(久辺)の地元にある心霊スポットである。現に東京まで飛行機で、片道2時間かけてきているのだから相当な距離である。




「お願い!道の途中でめちゃくちゃ良い温泉見つけたし、地元にも帰れるの。私行くなら絶対こっちが良い!」


「佐久間くんがどうしても○○○トンネルが良いって言うならそっちでもいいけど…」


「分かったよ。あいつらにも言ってみる。じゃあ心霊スポットは△△△△で決まりね」


ここまで聞いた時、内心、


「惚気けるのも大概にしろよ」


と思ったが、そんな事を言って大泣されても困るので、遅れて来た砂ズリを力強く噛み締め、言葉にするのを我慢したのだった。


結局、もう1組のカップルは遠すぎると言う理由で「別の機会に誘って!」との事だった。


そりゃそうなるわと思ったが、1つだけ、この話で、どうしても引っかかる点があった。



僕の知っている彩華は、お化け屋敷はもちろんのこと、心霊スポットなんて、意地でも行きたがらないはずだ。


何故、二人はそこに行ってしまったのだろうか。



佐久間は、たっぷり泣いて心が落ち着いたのか既にだいぶ落ち着いていた。



そして、今度はしっかり目を見ながら心霊スポットデート当日の話を始めた。


「僕、見ちゃったんですよ。」

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瘡蓋 瘡蓋 @kasa1933

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