第2話

渚の耳についたピアスと自分の手の中にあるピアスを見比べて青年は思わず声を漏らす。

丸いピアスの中にそれぞれに埋め込まれた銀と金の石。

あまりにも形がそっくりすぎた。いや、同じだった。

「どういうことだ…」

顎に手を当て考え込む青年を無視し、渚は窓の外を見る。

地面は乾きひび割れ、木に枝に花はおろか葉一枚ついていない。

空は灰色に濁りところどころ黄土色だ。

外を歩く人が見えたがボロボロの布切れ一枚を身に纏っているだけの子供から、派手な装飾品をつけ着飾ったおじさんやおばさん、様々だった。

見た目は同じ人間なのに、この人たちは当たり前のようにな方を使うなんて渚はとても信じられなかった。

この世界は本当に全然違う世界なんだ、そう渚に確信させるほどにそこは廃れていた。


「おい、お前」

青年の言葉に被せるようにして渚は口を開いた。

「渚だよ。柴野渚。お前って、やめて」

怒ったような口調の渚に青年は仕方なさそうに言い直す。

「渚が持ってるピアスと俺が持ってるピアスがリンクしていて、渚がそれを身につけたことによって俺のピアスの元に転移した、っていうのが俺のざっくりとした推測だ」

青年の言葉に渚は首を傾げる。

「じゃあ、これを外せば帰れるの?」

「多分な」

ふーんと相槌を打ちながら渚は窓枠から飛び降り、部屋の外へ出て行こうとする。

「おい、どこ行くんだ?」

青年の問いかけにニンマリと笑う渚。

「せっかく来たんだ。この世界も見ていきたい」

呑気なことを言い出す渚に青年は思わずため息が溢れる。

「この世界は危険だ。そう一人で出歩くもんじゃない」

じゃあさ、と渚は青年の手首を掴む。

「君も一緒に来てよ」

引っ張って行こうとする渚に呆気にとられる。

「俺はいいなんて一言も…」

「一人じゃなきゃいいんでしょ」

カラカラと笑う渚に渋々ついていく青年。

「キールだ。キール・アルビア、俺の名前。君って呼び方やめろ」

名前を教えてもらえたことが嬉しくて渚は軽い足取りで外へと飛び出した。


「ねぇ、この世界はどうしてこんなに汚いの?」

渚の素直な発言にキールは空を仰ぐ。

「俺が生まれてくる頃にはこんな感じだったから詳しいことは知らねえけど、昔はもっと綺麗だって聞いた」

渚が住む世界は綺麗なのかと予想を立てるキールをよそに、渚は質問を続ける。

「いつから、どうしてこうなっちゃったの?」

「カリアルがこの世界を支配してかららしい」

カリアル?と聞き慣れない単語をおうむ返しする。

「今この世界を牛耳ってるやつのことだよ。みんなは王って呼んでるけど。その頃から人々が魔法を使えるようになり、世界は汚れていった、そう聞かされてる。100年以上前だったかな」

「みんな魔法使わないんだね」

途中からもう聞いていなかったのだろう。

全然違う話題を出す渚にキールはため息。

「そう日常で使えるもんじゃねえよ」

魔法を観たかったのだろう。

残念そうに肩をすくめる渚を尻目にキールはそろそろ帰れよと呟く。

それを耳に入れたのか入れてないのか、はたまた変わり映えのしないこの世界の景観に飽きてきたのか、渚は帰るかぁと両腕を真上に伸ばして欠伸をする。

「ピアス外しても帰れなかったらどうしようね」

右耳たぶについたピアスを取る用意をしながら渚は悪い笑みを浮かべる。

「早くやれよ」

シッシと虫でも追い払うようにキールは手を振る。

「じゃあ、またくるね」

「おう」

バイバーイと手を振る渚がピアスを外し、瞬きをする間にキールの前から彼女の姿は無くなっていた。

適当に返事をした自分にため息が溢れる。

「またくんのかよ…」

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君のピアスが外れる時 ミヤ @coco_o0

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