無頼漢《ブレイメエエエン》! ~人斬りと狩人と暗殺者とラッパー姫~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

人斬りと狩人と暗殺者とラッパー姫

――ときは幕末……。


「おお、これは珍妙な」


 海賊狩りを終えた人斬り老は、さらに厄介ごとができたぞと思った。

 肌が軍鶏シャモ色の少女が、壊れた積み荷の木箱から姿を表したからである。

 江戸に軍鶏かよ、と。

 

「ヘイメ~ン! へ~ルプ!」


 褐色の、南蛮人か。おおかた、海賊共がどこからか連れ去ってきたらしい。


「♪ミーはエイダ。異国の姫だ。嫁入り嫌だ。商船にコッソリ乗っていたら、いつの間にか海賊のお宝」


 どうやら、異国の部族の娘らしい。


「ここはどこだ? ユーは誰だ? メ~ン♪」


 指をさされたので、名乗る。


「……ロバだ」


 人斬りで生計を立て、かつて俊足を誇っていた。

 今や年老いて、依頼主から驢馬ロバ呼ばわり。

 本人も馬面であり、あまり目立ちたくない質なので、そのまま通していた。


 前金はもらっているから、懐は潤っている。

 しかし異国の女、しかも姫君を連れていては、少々面倒だ。


「拙者とお主は、『将軍家へのお給仕係と、その護衛』ということで、お願い仕る」

 

「お給仕? お~メイド? OKOKおけまるデ~ス」


「おけまる?」


「今日はそれくらいにしておいてやる。じゃなかった。そのとおりにします。って意味メ~ン」


 頭巾で顔を隠してもらい、街へ戻る。

 さて、どうしたものか。


「ここに住みたいデースね。国に帰っても、知らないやつにタネツケされるだけデース。ミーの歳でハラマセられるのは、珍しいそうデース」

 

 政略結婚か。

 どこの世界でも、やることは同じだな。


「エイダとやら。あんた、なにかしたいことは?」

 

「ミーの夢はミュージシャンデース」


「どのような、仕事で?」


「音楽を、特にラップを伝えるデース。それで、世界をタマノコシに乗るデス、メ~ン」


 世界を股にかける音楽、か。


「ユーもやりなよ。あんたのリズム、サイコーデース」


「ワシが音楽を、ねえ」 


 随分と大層な夢である。


 日よけのために立ち寄った神社にて、自分よりみすぼらしい出で立ちの少女と出会う。


「どうしマシたメ~ン?」

  

「おっ父ぉがクマ狩りで死んじまって、何も食べていないんだ」


 浪人はわずかばかりの飯を与え、ともに旅をしようと持ちかけた。

 これだけ若くて狩りもできるなら、食べるものには困るまい。

 試しにウサギを狩らせてみたが、見事なお手前で。


「ウチはコロ。おじいさまは、どこへ行くつもりだい?」


 ウサギをさばきながら、少女は名乗った。

 

「後ろにいる軍鶏色の少女が、音楽隊になりたいと。太鼓でも叩きながら、考えるさ」


「だったら、大坂なんてどうだい?」


「大坂か。しかし、商いなんてワシにはムリさね」


 商売などしなくても、演奏家として活動してみては、という。

 少女コロも、獲物をおびき寄せるために笛を習っていたらしい。

 

「いいね」


 また歩いていると、今度は遊女っぽい少女とぶつかった。


「アウチ! どうしマシたメ~ン?」


「かくまって!」


 遊女と一緒に、物陰に隠れる。

 

 どうやら、毒親に追われているらしい。


「あなた見た目はガールですが、ボーイデースね?」


「む? ぼおいとな?」


「男の子デース」


 エイダの話通り、少年はいわゆる男娼だという。


「いえば、ネコ役さ」


「ネコ? キャット?」


 言葉の意味がわからないのか、エイダが手を猫の形に曲げた。


「受け身側ってわけでござる」


 ロバが説明をすると、エイダは「オオーウ」とうめく。

 

「おっ母ぁったら、『タコに締め付けられながら、生け簀で踊れ』っていうんだよ。ひどくない?」


食い扶持のために、少年は春を売らされそうになったという。

 有力者の懐に飛び込んで、命を取れと。

 

「オイラはブチ。ここではないどこかへ、連れて行って」

 

 少年ブチの真剣さに根負けしたロバは、ともに音楽家となって活動しようと持ちかける。


「一応、三味線を習っていた。聞かせてやるよ」

 

 三味線を弾くブチは、まるで別人のようだった。

 歯で三味線を弾く奏者なんて、初めてだったが。


「♪嫁に行くのは親孝行? 春を売るのは親孝行? NONOそれはストップ思考。やってやるぜ、ささやかな反抗。後悔しない航海で夢を曳航。メ~ン♪」


 ブチの三味線に合わせて、エイダが歌う。

 

「しかし、世界を股にかけるといっても、船がなければ」

 

「海賊船を奪うメ~ン」


 人斬り、狩人、暗殺の専門家、ラッパー姫。


「これでは浪人どころか、無頼ブライなり」


 無法のゴロツキではないか。


「ブレイ? 無礼?」


「無頼ぞ。無法モンって意味である」


「おっけーブレイ! このメンバーなら、無敵メ~ン!」


 ラッパーが海賊退治の、なんの役に立つのか。


 岩山の崖下に、海賊船が停泊していた。

 ここが、海賊共のアジトか。

 

「YOYO! ♪役所に突き出すぜ海賊船。準備はできたか六文銭。奪ってみせろよ身代金。メ~ン♪」


 あろうことか、海賊の目の前でラップを始めた。


「てめえはこの間の! やっちまえ! 今度こそ金持ち共に、高値で売り飛ばしてやるぜ」


 怒った海賊たちが、姫に向かって突撃をしてくる。


「今どき、部族の女なんて流行りまセーン。どの女も、腕に時計の跡がありマース」

 

 カポエラという特殊なダンスで、エイダは海賊を攻撃しつつ船に乗り込む。


 その隙をついて、ロバは海賊共を切り捨てた。



「へいシューター! ほいさっ」


 エイダが、武器庫から猟銃をコロに投げつけた。

  

 猟銃を掴み、コロは遠方から狙い撃つ。


 だが、海賊の仲間がコロに斬りかかろうとした。

 

「後ろは任せな」

 

 ブチが三味線のバチで、相手の首を切る。


「くそ。こうなったら! 大将出番ですぜ!」


 海賊の頭目が、指笛を鳴らす。


 海から、大物のタコが姿を表した。


「なんと面妖な!」


「あのタコだよ。あのタコに縛られろって、おっ母ぁが!」


 ブチが、怯えだす。


「臆するでない、ブチボーイ! 今こそ縁を断ち切るデース!」


「そうだね! あんたのいうとおりだ!」



 海賊船に乗り込んで、ブチは大砲の導火線に火をつける。


「オープンファイア!」


「撃て撃て!」


 タコに向かって、エイダとブチが大砲を放つ。


 頭に直撃して、タコが昏倒した。


「今だ!」


 ロバがタコを操っている女を、一刀のもとに斬り伏せる。


 同時に、コロが海賊の頭目の眉間を撃ち抜いた。


 

 大型のタコを、海賊船にくくりつける。


「これ、何個分のタコヤキができマスかー?」


「さあな。しかし、軍資金を稼ぐには、十分じゃろうて」


「オ~ウ! ナイス! このまま海賊船を乗っ取りマ~ス。義賊になるデスよメ~ン!」


 エイダが、パチパチと拍手をする。

 

「義賊か。いいかもね」


 エイダ姫君の提案に、ブチが真っ先に乗った。


「そうね。音楽隊をやるのもいいわ。歌いながら、悪者をやっつけるの」


 コロもやる気のようだ。


 船の扱いに慣れているのか、エイダは旗を塗り替え、『無頼漢!』とデカデカと書く。


「『ブライカン』、か。我々らしい海賊名だ」


「NONONO! 『ブレイメェエエエエエン!』デスよメ~ン!」


 こうして、義賊な海賊の【無頼漢ブレイメェェェン】が誕生したメエエエン!


(えんど)

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