絶恐怖 ーホラー短編集ー
浮水 雨々
クローゼット
【私の名前は翔子。大学生です。あれは高校3年生の夏休み、友達の家に遊びにいった時のことでした】
「うわー!絢香の部屋めっちゃ広いじゃん!いいなあ」
「いやぁ、そうでもないよ?」
絢香はそう言いながらも笑みが溢れていた。
新築の部屋はやはり綺麗で檜の匂いがした。
階段をゆっくり登る音が聞こえた。絢香のお母さんが白い箱とコップが並んだお盆を丁寧に持っていた。
「お母さんがケーキ用意してくれたから食べよ!」
私は絢香のお母さんにお礼を言いチーズケーキを一口食べた。
「ん、めっちゃ美味しい!どこのケーキ?」
「えっとね、確か...」
絢香が店名を言いかけた時、クローゼットから嫌の音がした。
黒板を引っ掻いた音のような嫌悪感のある音だ。
「なに、今の変な音」
「クローゼットって服しか入れてないよね?」
「うん」
小さな緊張が走り、ケーキを食べていた手が少し止まった。
私と絢香は固まった目を一瞬合わせたがすぐに会話に戻った。
「いやぁ、和葉もそれ言ってたけどうちはないわぁ」
「絢香いっつもそう言うじゃーん」
「あの先輩は顔は良いけど性格がうちに合わな...」
またさっきの音がした。会話を邪魔されているような気がした。
「何なのこの音。気持ち悪いんだけど」
「一人でいる時はこの音しないの?」
「いや、こんな音しないよ..」
流石に二回目は怖かった。気のせいと思えるほどの音じゃなかったからだ。
私と絢香は見つめ合いもう一度クローゼットの方を見た。
「流石に動物だよね」
「いやこの家新築だよ?それも二階だし」
「いや階数は関係ないでしょ」
絢香は明らかに動揺していた。
時刻は18時を回っており、掛け時計の針の音が沈黙の中を走っていた。
絢香の部屋は洋室で床はフローリングだった。そして例のクローゼットは高さ2メートルほどで横幅も3メートルほどだった。
部屋に比べると少し小さいクローゼットだった。
「開けてみる?」
「虫とかだったら翔子絶対暴れるじゃん」
「虫だったら暴れるかもだけど、虫の音じゃなくない?」
「まあ、うん..。」
こんな気味の悪い鳴き声の虫や動物は二人の頭の中の図鑑にはいなかった。
絢香は金色の取っ手に恐る恐る指をかけクローゼットを半分ほど開けた。
「なんだなにもいないじゃん」
突然ガガンボ1匹が飛び出してきた。
「キャア!..なんだガガンボか。びっくりした」
「ねぇ翔子..あれなに..」
隣にいた絢香が震えながら半分空いたクローゼットの暗闇を見ていた。
嫌な予感がしていたが私もそこを見た。
暗闇の中不気味な顔だけがはっきり見えていた。真横から出ている顔は青白く口角が上がっていて、寄り目の逆の目をしていた。
「ンセンデ..ンセンデ..」
不気味な顔はなにかを呟いていた。
「閉めてっ!早く!」
「閉まんないの!何でよ!」
「早く!やばいって!何なのよこれ!」
(ガンッ!!)
絢香はクローゼットを勢いよく閉じた。
私と絢香は勢いよく部屋を飛び出し一階のリビングに行った。
「ちょっとどうしたのよいきなり。顔色悪いわよ二人とも」
絢香のお母さんの顔を見たら一気に気持ちが落ち着いた。
私は今あった出来事を話した。
「夏だからって私を怖がらせようとしてるんでしょ。大人はそんなんでビビらないわよ」
絢香のお母さんは信じなかった。
もう夕飯時だった。食べて行ったら?と言われたが私は早くこの家から出たかったので、誘いを断り絢香の家を出た。
絢香をあの部屋に一人にするのは心苦しかった。心の中で何度も謝った。
私は自分の家に着き、すぐさま夕飯とお風呂を済ませ自分の部屋に向かった。
少し時間が経ったせいか何故かさっきの出来事を忘れかけていた。
「明日塾でテストかぁ。ちょっと勉強してから寝よ」
勉強机に向き合い参考書を開いた時だった。後ろから黒板を引っ掻いたような不気味な音が聞こえた。後ろにはクローゼットがあった。
「今の音って..」
私は全身の産毛が一気に逆立つのを感じた。
カラカラ...とクローゼットが開く音が聞こえた。
「ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!ンセンデ!」
暗闇の中ではっきりと見たことのある青白い顔が高笑いをしながら叫んでいた。
私はそこで気を失い目が覚めたら自分のベッドの上にいた。
「あ、なんだ夢か。もう勉強はいいや」
クローゼットが閉じているのを確認し、部屋を暗くした。
そして私は音楽を流しながら眠りについた。
(ギー...ギギ..ギィー!)
嫌な音が部屋に響いた。
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます