エピローグ
暑い暑いと騒ぐカエデ。
帰宅して間もなく、エアコンの温度を急激に下げるので、流石の俺も見過ごせなかった。
「おい、環境に配慮しろ。それに、今年の電力供給は乏しいんだからな」
一度は互いに想いをぶつけた身、ここまで来ると、彼女もお構いなく主張してくる。
「でもそれって、私たちだけの問題じゃないよ。電力供給だって、原子力を順次再稼働すれば
十分賄えるって。環境だってそう。火力発電所をガンガン回してる国だよ? 配慮しろと言うのなら、火力→原子力→持続可能エネルギーって段階的に発電方法を転換する動きを見せろって言いたいわよ」
「あのなあ、政治っていうのはそう簡単に話が進むわけじゃないんだぞ。君の生徒会が異質すぎるだけなんだよ。世間様はそうじゃないの! ほら、エアコンの温度上げるぞ」
えー、なんで! そう喚きながら彼女が抱きついてくる。ほのかな汗の香りが鼻孔をくすぐった。普段から意識しないように頑張っていたが、この態勢だと興奮してしまう……。
すると、俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、彼女は小悪魔的な表情を浮かべながら、夏服のブラウスの胸元あたりをたくし上げて、こんなことを言ってくる。
「それとも、私のびちゃびちゃな汗まみれ姿を堪能したい?」
「それはそう……だけど! 俺とカエデはルームメイトであって、恋人じゃないの! 今はまだ早いって」
「今じゃなかったらいいんだ? えへへ」
はいはい、そうですよ。今じゃなかったらいいですよ~。……うん。そう、そうなの。
……両片想いが両想いに昇華して四日が経過した。
今日は七月十日、日曜日。
午前中に生徒会の集まりがあったカエデだが、少しも疲れた様子も見せずに猛アタックを仕掛けてくる。生徒会長を辞任する一歩手前までいったあの事件を経て、カエデは自分の想いに従順になってくれた。俺も本当はそうしたいんだけど……理性がそれを邪魔してくる。
なぜかと言われれば、それはカエデのネジが数本外れてしまったから……かな。このままいくと、単なる同棲だけじゃ済まなくなってしまいそうなくらい、カエデは毎日本能全開で生きている。
ただし、まだ付き合ってはいない。ここに関してはお互いに考えたことで、仮に万が一、そういう行為に及んでしまって我が子を養っていくとか、そんな状況に発展したら……ほらほら、俺たち未成年だから大変なことになっちゃうでしょ?
なんだかんだ言って、その点はお互い了承していて踏み込まないと決めたので、カエデもわきまえているとは思う。……多分ね?
それに、外ではこんな感じじゃないよ? ちゃんと生徒会長してくれてるし、
えっ? お前は彼女を生徒会長の座から退けたかったんじゃないのか……って? まあ、たしかにそれはそうだったけど……その理由は、彼女に遠くへ行ってほしくなかったから、俺だけを見ていてほしかったから。それを素直に伝えると、彼女はこう返してくれた。
「ルームメイトである以上、しょーたから離れることなんてないよ。それに、私を虜にしたのはしょーただよ? ずっと見てるに決まってるじゃんっ」
ね、尊いよね。これが後々俺の彼女になって、将来はお嫁さん……って、まだ確定したわけじゃないけどさ!? 実際はどうなるか分からないよ? うん、結婚したい。
「さてと、今からお風呂入ってくるね。一緒にどう?」
「おいおい、ルールを忘れたのか? お風呂は順番に入るんだぞ」
「えー、一緒に入った方がお水も節約できるよ?」
ここに来て環境の話を掘り返すのは止めてもらっていいですかっ!
「……モラルの問題! いいから早く行け!」
「えへへ。はーい!」
こんな調子だけど、俺たちの両片想いはハッピーエンドで幕を閉じた、と言ってもよさそうかな。
……だけど、この谷千代学園には両片想いという壁で悶える生徒が未だに多く存在すると思っている。悟と萌夏だって実際にはどうなるか分からないし、未だに千晴からのアプローチも根強い。
どういう形であれ、今度は俺たちが、その人たちの背中を押せるようになったらいいなって。それがカエデの言う恋愛の自由化と学校の校風を自由にすることの成就に繋がるんじゃないかって、そう思っている。
……窓からは猛暑日の日差しが燦々と降り注いでいる。
その太陽の輝きは、カエデとお出掛けした日のことを思い出すよ。
――カエデと幸せな日々を送ることができますように。
俺の願いを叶えてくれた縁結びの神様には感謝しないとね。
両片想いのグレート・ゲーム 名暮ゆう @Yu_Nagure
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