暖かいおうちが待っている

@8217siwqn

暖かいご飯が待っているはずだ

第1話

家、それは身も心も休息できる場所である。


 暖かい家に帰りたいとは、それは体も心も暖かくしたいという意味だろう。


 人はつらいとき、悲しいとき、寒いとき自分の居場所に帰る。

 

 少なくとも自分にとってはそう感じるものである。そしてそういった場所を作りたいと考えている。




 現在の状況を説明するならばキンキンに冷えていると言える。

 暖房の付いていない教室は寒く、現在の状況は冷え切っている。


 30分にわたる教師からの説教というのは辛いものがある。

 一緒に説教されているほかの班の人たちには反省の色が見えていない。


 今回の課題は12階層のスライム(テケリリとなきそう)10体分の魔石の提出だった。


 別に対して強いわけではない。守備力や速さもそんなにないため、先手を取って攻撃すれば楽に倒せる。加えてドロップする魔石の量も多いため相手取って美味しい敵である。


 多少慣れた学生なら実際ソロでも1時間で討伐できる数だとされている。おちこぼれパーティへ与えるのに良い課題だと思う。


 結論から言うと、今回の課題は失敗した。

 

 討伐証明となる魔石の提出が出来なかったのである。


 このメンバーにとって魔石の提出という課題は致命的に向いていなかった。


 リーダーの倉上くらがみが持つ能力、オーラによってスライムが逃げ出してしまう。

 能力を切れば余裕で討伐できるのに、師匠との約束だといって能力を起動し続けていた。


 贄波にえなみは魔石の獲得が目的だというのにおなかがすいたと言って相対したスライムを全部食べてしまった。

 魔石は敵を倒した際の残りかすが凝縮されて生成するものである。かけら1つ残さず食べてしまえば何も残らない。

 あらかじめ予備の食料を持ち込めと言っているのにダンジョン前に食べてしまっていた。


 柏木かしわぎは敵を倒した後も攻撃し続けて魔石を破壊してしまった。残心は大切だといって話を聞かない。

 せめてかけらさえ残してくれれば良いのに。それすら妥協しない。


 鐸木すずきはそもそも倒せていない。魔力を使えば良いのに一切使わなかったためだ。母上との約束があると言って譲らない。

 せめて味方の魔力付与は受けてほしい。


 そして俺である。

 俺は討伐を禁止されている。頑張って自然死を狙っていたが、スライム系統は自滅しない。

 どうやって倒せと?

 

 そんなこんなで教師に怒られているわけだが、先ほどからこちらに口撃が向いている。まぁほかのメンバー馬の耳に念仏だろうしなぁ。


 かといって、リーダーであるお前がなんとかしろと言われてもなぁ。

 そもそも討伐禁止出したのお前の上の奴だよ。

 というかリーダー俺じゃなくて倉上なんだけどなぁ。

 

 そんなこんなでさらに30分説教をくらったのち、ようやく解散となった。

 参考となる方法や手段、訓練方法などしっかり言ってはいた。しかし縛りについて教師に共有されてないのかそのことに関する言及はなかった。


 戦闘力の増強が問題ではないんだけどなぁ。


 その後、メンバーは解散と同時にすぐ教室から去っていった。


 ほかの生徒たちはダンジョンに潜った後は反省会を開くってほかの学生たちは声をそろえて言っていたんだけどなぁ。


 こいつらやっぱり反省してなかったなと思っていると、脳内に声が響く。

 

「今日、裏生徒会だから遅刻しないように」

 つらい。帰りたい。


 廊下を出て窓から遠くを見る。窓から見えるのは白銀の世界。ふわふわと雪が落ちていく中、楽しそうに帰宅する他の学生が見えた。カラオケとか行くのだろうか、それとも家で遊ぶのだろうか、どちらにせようらやましい。



 早く帰りたい。寒い。



 太陽の光がなくなり夕焼けに染まる中、裏生徒会が始まった。


 裏生徒会に参加するのは各クラスの監督生徒と上級教師、そして生徒会長のみである。

 司会は、生徒会長である来條楓らいじょうかえでが行うことになっており、他の生徒会メンバーは同席していない。


 基本的に議題は課題の難易度の調整と学生のレベルについてとなる。

 説教していた教師は一般なのでこの会の存在を知らされていない。まぁ知っていてもあの先生は態度を変えることはないのだろうが。


 また監督生徒はクラスで一番バランスの良い生徒が選ばれており、必ずしも強いわけではない。人気ではなく、政治的な視点を持てるかどうかで選出されているらしい。


 裏生徒会が始まると、順々にどの課題の達成率がとか、強くなってきた生徒が誰かとか、メンバー間での交友関係がとか、教師の態度がどうかといった内容を報告していく。

 ほかの人たちも秋季と違ってつつがなく進行していった。


 そして自分の番になった。

「基本的に、クラスへ割り振る課題の達成率はいい感じである。全体を見れば80%になりますが、特定の班を除きおおむね90%になっていると思われます。」

 この特定の班、自分の班なんだよなぁと思いつつ続ける。


「目立って強くなってきた生徒は見当たりませんね。メンバー間の交友関係としても基本的に良好のように思われます。

 教師の態度も悪くないです。この教師に対する苦情として挙げられている説教の長さに関しても、内容はしっかりしていると思われます。

 長くなるのは反省していないのを感じ取ってしまっているためだと思います。感情察知系等の能力者特有のものだと考えられます。

 最近はストレスをためこんでいるのか体の調子も崩しているように感じます。適切な対処をよろしくお願いします。」

 テンプレ通りの報告を済ませて席につこうとした。


 通常であれば、ここでほかの人に出番が回っていくのだが、上級教師が一人手を挙げている。


 「どうぞ。」

 生徒会長が進行として、上級教師の一人に対して質問を許可した。

 ちっ、と心の中で舌打ちをする。

  

「特定の班に関してですが、どこが問題点となっているのでしょうか。」

 はい、いつもの質問が来ました。


「それに関しまして、こちらからも質問がございます。上級教師の方々はなぜこのメンバーを学園に入学させたのでしょうか?」

 とりあえず、疑問を疑問で返した。

 というか実際あいつらが入学できるように思えないんだよな。

 特に縛りが多い倉上と鐸木の二人は。


「それは秘密事項である。」

 はい、いつものかぁ。

 基本的にこの質問をするたびにこういう返答になるんだよなぁ。


 さらに突っ込んで尋ねようとするが、会長がこちらを見ているのが分かる。

 はい、さっさと答えてという合図ですね。


「とりあえず、今日の課題における問題点として何らかの制約が足を引っ張っているためだと思います。」

 はい、いつもの返答です。

 

 ため息をつきながら上級教師はこう聞いてくる。

「君が何とかできないのか。」


 そしてそれに対する返答もまたいつもの通りである。

「それに関しましては、私の未熟のいたすところであります。」

 反省した顔を見せながらこう返すしかない。


 また、はぁとためいきをつかれながら

「前回もそう聞いたけど、今回の変更点は何かあるの?」


 ないわけがない。

 この詰問これで6回目だぞ。


 今季は倉上のオーラを打ち消そうとしたり、贄波に飯をおごったり、柏木の攻撃を止めようと間にはいったり、鐸木に魔力をのせることで対処をしようとした。


 まぁ、倉上はだんだん出力が上がり俺の打ち消すための疑似オーラをかき消し飲み込んだ。

 それにより敵は現れなくなった。


 贄波は階層に到着した時点でおなかを鳴らし、敵と接敵前にも携帯食を与えた。手ごと食われそうになった。

 そして敵も食べた。


 柏木は敵を倒した段階でそれ以上の攻撃が加えられないように身を盾にしたが、俺事薙ぎ払った。

 俺は燃えたし、びしょぬれになった。


 鐸木は魔力付与の違和感に気づいて攻撃をやめて瞑想を始めた。

 俺は近づくスライムを遠くに投げる羽目になった。


 別に個々人が弱いというわけではないのが問題である。


「一応、今期は疑似オーラの習得と、携帯食の作成に努めてまいりました。

 彼らに対する効果としてはまぁ微妙でしたが、軍部のほうで新規の携帯食が試験的ではありますが採用の流れになりました。」


 ここ2か月の努力いづれも効果ないんだよなぁ。頑張ったんだけど。


 自分の成果については報告を受けているのか複雑そうな顔をしている。


 沈黙が会議室を包む。


 会長がその様子を見て次の人に出番を回した。

 

 その後は粛々と進んだ。とりあえず課題の難易度も問題なく、懲罰系統もなしとして解散になった。

 

 俺への質問以外は手早く進行したことに複雑に思った。

 けど、そんなことより早く家に帰りたいなぁと思った。


 まぁ、まだ帰れないのだが。


 この裏生徒会はかなりストレスをため込む。

 他人の裏を探したり、知りたくないような内容を知ったり、他人に明かせない秘密を抱え込んだりする。


 そんな彼らが吐き出す場こそ、裏生徒会後の懇親会である。

 理事会から予算が割りふられており、裏生徒会のメンバーは楽しむことが出来る。


 暗の上、上級教師がこの場を去った後、懇親会という名の愚痴大会が始まった。


 ちなみに会長は帰った。(ことになっている。)

 帰りたい。


 倉田がついに実験室爆破して後始末が悲惨だったよとか、好きだった子に彼氏ができたとか、あいつが役に立たないとか、合同演習が近いのにやる気がないとか、部活のメンバーが減ったとか、教師に対する悪口とか、生徒会へのやっかみ等々を延々と聞かされた。  


 自分は周りに悪口を言いたくないので、聞き役に回る。


 1時間は続いただろうか、ため込んでいて言えなかった生徒たちはだいぶすっきりした顔になっていた。


 いい感じにお開きの空気になったころ、またしても脳内に声が響いた。


「今日は闇生徒会の日のため、22時になったら地下室に集合しなさい。」

 はい、今日はこれで終わりではないのです。


 寒いし、愚痴は聞かされるし、問い詰められるし、説教されるし、燃やされた後水で流されるし、寒いしもう早く家に帰りたい。



 愚痴会が終わりバス停まで一緒に行き、他の人たちと別れるとまた学校にUターンする。


 校門の柵を乗り越え、運動場の倉庫に窓から侵入し、階段を下りる。


 いつものように、暗い道を抜ける。


 窓や明かりがなく、真っ暗であり、同時に暖房もないため冷え込んでいる。


 歩き続けて10分。広い空間にたどり着く。

 

 すでにほかのメンバーが待っていたようだ。

 自分が付いた途端に闇の生徒会が始まった。


 生徒会長であり、闇の生徒会序列1位の楓会長が進行を始めた。


「今期の侵入者の撃退数に対してそれぞれ報酬金を割り振る。」

 そういってほかのメンバーに金を配当する。各々、金額に一喜一憂しながら受け取っている。


 闇の生徒会は基本的にこの配当と、顔合わせが目的である。

 誰がいるのか把握させることで余分な抗争が増えないようにするのが目的らしい。


 早く帰りたいなぁと思いながら、何も貰うことなく配当が配られるのを見ていた。


 すると闇の生徒会序列2位の英虎ひでとらが突っかかってきた。

「おいおい、一人も倒してないのか最下位さんはよぉ。」

 いつも通りのけんか腰である。


 倒したはずなんだけど貰えてないってことはアレ関係だったんだろうなと思いながら、適当に聞き流していた。


「いい加減、こいつをはずしてもいいんじゃぁないかぁ。」

 英虎はそう言ってくる。

 その目は明らかに、挑発している。


 だがその言葉を受けて素晴らしきアイデアが沸き上がってきた。


 ほかのメンバーも賛同して口々に言ってくる。

「雑魚はこの場に必要ねぇよ。」

 はい、いつものことです。だが、


「そうねぇ、やっぱり必要ないと思うの。」

 これだけ反対者がいるのなら、不信任決議で外されうことも可能なのではないか。

 詳しい脱退条件がどうだったかと考えていると、テンションが上がってきた。


「こいつ程度なら生徒会メンバーを入れたほうが良いと思う。」

 そうだよ、後任を見つければ不信任できるんだ。

 考えろ、だれか強いやつを思い浮かべろ。

 

 副生徒会長・・・だめだ魔力付与した鐸木より弱い。

 書記・・・だめだ同じく鐸木より弱い。

 会計・・・こいつも駄目だ。鐸木より弱い。

 風紀委員長・・・こいつも駄目だ。鐸木より強いが柏木より弱い。

 部活連・・・どいつもこいつも贄波よりも弱い。

 

 誰かいないのか強いやつ、少なくとも倉上より強いやつ。

 考えろ早く、考えろ。


「今回はこれで解散。」

 思考を遮ぎるように会長はそう言った。

 畜生が、ほかのメンバーへの提案の機会もなくなった。

 

 こいつら以外俺を外したがらないというのに。


 会長の言葉には逆らわないのか闇の生徒会執行委員は黙って解散し、粛々と出口へ向かった。


 いいなぁ、自分も帰りたいなぁ。

 

 そう思いながら自分も帰ろうとすると、

 

「いやぁ君は帰らないでくれよ。これから闇の会合の時間だよ。

 大丈夫、彼らは君を模した式神を見て一目散に帰ったと思っているはずだよ。」


 やはり呼び止められた。

 畜生め。


 会長と俺、そして理事長のみがその場に残っている状況だ。


 帰りたかった。


 そんなじくじくした感情とは裏腹に、照明が付き白い光に包まれた。


 闇の生徒会改め、闇の会合の始まりである。


 本当に帰りたい。

 長時間拘束されるんだよなぁ。闇の会合。もう21時だよ。


「今期も仕事お疲れさま、楓君もいろいろありがとね。」

 理事長がフランクな口調で声色変えずにしゃべりかける。いつになっても変な感じである。


「ありがとうございます。」

 対する会長の返答はいつも通り堅い。


「君もありがとね。」

 こっちにも話しかけてくる。正直巻き込まないで欲しかった。というか有難迷惑だ。


 だが、今季は会長の実家の件もある。もしかしたら早く帰れるかもしれない。


「ああ、大丈夫だよ。楓君も知ってるから。」


 はい、2時間は帰れないのが確定しました。

 そっかぁ報告だけで済まないかぁ。天井を見上げる。


 視点を戻すとふたりともこっちを見ていた。

 はい俺からですよね、そうですよね。


「御三家から8人、外国から15人、解放戦線から3人、安城家から1人の調査員を捕獲いたしました。」

 試料をカバンの中から取り出して手渡しながら、二人にも改めて検挙した内容を報告する。

 

 闇会合で扱うのは表沙汰にできず、政治的に厄介な調査員であり闇生徒会で扱えない人員への対処である。

 そのため闇生徒会で対処可能な調査員等は基本的にこの場で扱われないはずである。

 

 だからこそ、闇生徒会で安城家の報告による報奨金の獲得が出来ていないのが気にかかる。


「安城家の調査員なら闇生徒会で報告して良かったのでは?

 それと、俺を闇生徒会から外しませんか?」

 疑問を二人に投げかける。安城家は別に軍への圧力がかけられるわけではない。

 ゆえに、闇生徒会経由で報告していいはずだ。


 ついでに本音も言った。


 あわよくば抜けたい。そんな淡い願望を込めて話したのだが、


「それは無理だね。楓君や秀虎君、そして君を除けば、他の闇生徒会のメンバーは上級教師と同じくらいの力しかないからね。」

 心の中で舌打ちをする。


「こうやって闇生徒会とは別に活動しており、闇生徒会で報告できる成果を上げていないのですが。」

 一応聞くが、


「君も分かってると思うが、闇生徒会は教師の中でも特級教師しか知らないものだ。そしてその特級教師の風見君と荷見君には君の実力を知られているのだよ。彼らが外すことを容認すると思うかね。」

 そっけなく理事長に返される。


 まぁ予想通りだ。特級教師である彼らは実力主義の教師というわけではないが、実力を正しく評価することに固執している。


 そんな彼らが自分を外す選択はしないだろう。

 あの話を聞かない教師経由はやはり無理だろうし、ほかの生徒への接触も不審に映るか。

 

 冬季は少なくとも続行確定かぁ。

 はぁ。


「分かりました。本題に入りましょう。」

 しょうがないので諦めて会合を再開する。

 

 さっさと終わらせたい。

 そして家に帰りたい。

 

「安城家に何かありましたか?」

 そう尋ねた。


 すると会長が口を開いた。

「安城家だけではないですよ、水城家、久城家、達城家からも刺客が来ていました。」


 他に三つの家からも刺客が来ていたことに驚く。というかさらっと倒して確保してるようだ。

 会長だけではだめかなぁ。


 それにしても城系の家が4つかぁ、当主だれか死んだとかあったっけなぁと思考に耽っていると


「それだけじゃない、本家である金城家からも刺客が来ているのだよ。」

 理事長は衝撃的な一言をさらっと放ってきた。


 分家が当主争いのために行動することはこれまでにもあったことは知っていたが、あの本家が動くような出来事に心当たりはない。


 金城家は御三家ではないが有力な家だ。


 基本的に国を守るために行動する家とされている。

 歴史的にもそうだが、特にここ80年で起きた変化に際し、かなりの貢献を行ってきたことで有名だ。

 そして自分が知る限り本家は潔癖すぎるほど誠実な家だ。


 それも調査員ではなく、刺客。何かが起きているのは確定らしい。


 会長は知っていたのだろうか。彼女は御三家の一つ来條家の長女だ。

 その金城家はかなり遠いが祖先が同一だと聞く。


 ちらりと会長の顔を見ると、驚いていることが分かった。

 珍しい。


「目的はなんなのでしょうか。」

 生徒会長としてか、それとも御三家としてか、いづれにせよ彼女はいつもより興奮気味に理事長に問いかけた。


 そしてすぐに後理事長は答えた。

「贄波君の暗殺だよ。」

 

 贄波 華故にえなみ かこ

 彼女は自分と同じ班のメンバーである。

 

 やはり彼女は厄ネタだったようだ。


 上級教師が秘密事項として知っているくらいだ。

 何かしらの面倒な秘密持ちだとは思っていた。


「それでどう対処して欲しいのでしょうか?」

 会長が再び尋ねた。


 理事長は相変わらず声色を一切変えることなく、

「この件に関しては私は関与しないよ。すべて流れに任せるよ。」

 謎なことを言ってきた。


 関与しない。これはなぜ暗殺しようとしているのか知ってるな。

 流れに任せる。これも珍しい。

 いつもは後処理はやっておくよとか言うのに。


「この件に関してはお終いだよ。いつものアレやろうか。城は除いてね。」

 理事長にこう言われては引き下がれない。

 そして理事長は書類を置いてゆっくりと外へと歩き出した。



 沈黙のち、会長と目を見合わせた。


 はい、いつもの分担で始めろってことですね。

 まっ、まぁ城を除けば少なくなる筈さ。


 期待してリストを見ると、三枚くらいリストがあった。

 やったぁ少ないと、心の中で歓喜しながら分担するためよく見た。


 確かに3枚だった。

 だけど、


 フォント9のサイズで。

 両面にびっしりと記述されていた。

 


 帰りたい。



 そんなことも考えながら振り分ける。

 外国に関しては会長が、それ以外は自分が担当することになっている。


 捕まえた人の身元に関して、それぞれの家に連絡、場合によっては恫喝を行うのだ。

 そうして莫大な金銭を獲得する。


 つまり資金調達である。


 闇生徒会の報酬金や建物の修理費をふんだくるのである。

 うまくいかなければどうするのかだって、そりゃ繰り返すんだよ。畜生め。


 毎度思うんだけど、これ会合じゃないのでは。


 そう思いながら会長のほうを見るが、一切動揺が見えない。

 話しかけずらいなぁ。

 そう思って見ていると、彼女は俺のほうをじっと見てきた。

 

 仕事しろってことですね。

 内心でため息をつきながら通話機器を開く。


 そしてお互い、声色変更魔法と口調を変えながら非通知で通話を始めた。


 向こうがかかるまで繰り返しかけ、かからない場合はハッキングを行うなどして会話を行う。そして要求を呑むまで繰り返す。

 御三家は早い。というよりも想定しているのだろう。

 問題はほかの家や組織である。


 会話が始まってから、どろどろとした本音を言わない会話、こちらに対する脅し、回線を通した呪いが飛び交う。

 

 なかでも解放戦線はだいぶ頭が固いようで、時間がかかった。


 要件を伝えるなり、通話機器を介して呪いが飛んでくるし、機器ごと壊して音信不通になるし、特注の式神も壊されるし、最終的に寒い中じっくり対面で話さざるを得なかった。

 そして得られる金額はほかの連中よりも安かった。


 何たる無駄骨。寒いので本当に早く帰って寝たい。


 ほかの戦線にも対面で話をつけ、地下室に帰ると会長がすごい数の式神を操っていた。

 

 相変わらずぶっ飛んでんなぁこの会長。

 頑張っても3体くらいしか維持できないのに、どういう頭してんだこの人。


 通常式神系統は距離に応じて魔力量が増え、正確に動かすにはいかに練るかが重要とさえて言う。

 そして数が増えるたびに負担は増大するのである。

 

 自販機で買ってきた冷たくなった熱い缶コーヒーを飲みながら会長を観察していると、こちらに対して顔を向けてきた。

 沈黙が包む。


 はい、続けます。缶コーヒーを机の上において他の家に通話をかけ始めた。


 そんなこんなで請求が終わった。

 終了したのが深夜の2時である。


 良い子はとっくに寝る時間ですよ。チクショー。

 はは、良い子じゃないってか。


 いやまぁ、脅してる時点であれなのは確かだけどさぁ。

 

「終わりましたので、帰っていい感じでしょうか?」

 興奮する声音をできるだけ抑えて会長に聞くと、大丈夫と返答された。


 ひゃっほうけえれるぅ~。

 ウキウキの気分で部屋を出ようとすると会長から声を掛けられた。

「彼女の件、気を付けてね。」


 一瞬、体が止まった。

 えっ、俺に何かすることあるのか。



 聞かなかった。そういうことに決めた。


 振り切るように速足で地下室から出る。


 地下室から出ると外は吹雪いていた。


 まじかぁと思いながらも、早く帰りたい一心で走り出した。

 

 何も見えない中、今日のことが思いだされる。

 燃やされた、びしょぬれにされた、手を思い切り噛まれた、星座で説教された、寒かった、どうしようもないことでさらに詰問された、ほかの生徒から愚痴を聞かされた、寒かった、闇生徒会のメンバーからは侮辱された、理事長からは深夜労働させられた、寒かった。


 なんで俺こんな目に合ってるのだろうか。

 

 明るいことを考えよう。

 久しぶりの休日、家でゆっくりしようじゃぁないか。


 家に着いたら、とりあえずアツアツのシャワー浴びよう。


 そしてふかふかのベットで暖かい状態で寝てしまおう。


 起きたら朝ごはんにパンケーキを食べよう。

 確か高級はちみつもあるし、ホイップクリームも残っている。

 焼きたてふかふかの甘さ控えめパンケーキに甘いはちみつとホイップクリームをかけよう。

 ブレンドコーヒーもきっと合うだろう。


 朝のうちに家の清掃も終わらせて、昼はラーメンを食べに行こう。

 ついでに図書館へ行って古いアニメでも借りよう。

 そういえばあのカードゲームの発売日明日か、特典も取りにいかないと。

 カードと言えば、明後日大会なんだよなぁ、オフライン勢として勝負しにいかないと。

 というか作ったデッキの中に禁止のカード入ってるんだよなぁ。代用できるカードあったっけ。

 いや、あれって確かエースのカードも駄目じゃね。

 明日カード倉庫行ってデッキ組みなおすか。


「はぁ。」

 ため息がこぼれる。


 いかん、もっと楽しいことで自分を満たさないと。


 そうだ部屋の暖房をガンガンに入れてアイスクリームをたべよう。

 夜は焼き鳥作って、日本酒飲みながら借りたアニメでも見よう。

 風呂にして入浴剤を入れよう。


 そんなことを思いながら30分近く走っていると、自宅近くに到着した。

 

 何はともあれ、帰ってきたんだ。

 暖かい家に。

 

 

 そう帰ってきた、自分の家の前に。

 真っ赤に燃え上がっている自宅のまえについた。


 消防士が慌ただしく消防している中、叫んだ。


「暖かい家ってのは、物理的に燃えてほしいわけじゃねーんだよぉぉぉぉぉ。

 畜生がーーー‼」


 家は暖かい。朝にはなくなっているかもしれないが。


 どうやら今日は厄日のようだ。日付線超えてるんだけどね。

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