6 ミスター・ロボット
シルバーアーセナルで形成した
ガンとどこかにぶつかって動きが止まる。ドームの覗き窓から周囲を見る限り、遺跡の壁にぶつかって止まったようだった。
「アンジュ、何が起きたんだ……!」
痛みを我慢しつつ一応周りに聞こえないよう声を抑えてアンジュに訊ねる。ドローンはその辺を飛んでたから、外部の様子はアンジュなら分かるはずだ。
『遺跡の内部にあった自律兵器が腕を横薙ぎして君を吹き飛ばした。ゲート周りのとは別の独立したシステム、もしくはスタンドアロン型の兵器みたいだ。外からのアクセスじゃ確認できなかった』
気のせいか若干トーンの落ちた声音は申し訳なさを感じる。
『ボクの機能紹介にちょうどいいと思ってやったんだけど、生きてる兵器がまだ残ってる可能性を考慮するべきだった。ごめん』
「まぁしゃーない……まだ動く、古代の、自律兵器の、可能性を考慮できる程、この世界に馴染むにはまだ、時間がかかるってやつさ」
ドーム内で姿勢を立て直しながら答える。ドームをライオットシールドのような大楯に変形。補助脚で自立もできるようにした。立ち上がって盾の後ろに隠れつつ様子を見る。
黒い大剣を構えた銀髪の女と、自律兵器が対峙しているのが見えた。
四、五メートルほどの人型の体躯だが、頭部はなく、人間で言う胸の辺りにカメラらしきレンズが見える。角ばった胴体や手足の外装にはタンカラーの塗装。腕は三本指の手だけでなく、右側の前腕に機銃がついているのが分かる。
「やってくれたわね。これが本命?」
離れた位置でも聞こえる声量で銀髪の女が俺に言った。
「てぇーめまぁーだ疑ってんのかキレっぞいい加減にしねぇと! こっち一発喰らってたろうが!!」
痛みのせいか言葉も声も荒くなる。そんな会話に割り込むように、キャビンアテンダントのようなにこやかな女性の声が自律兵器から再生される。
『ID認証失敗、対象を敵と認定。【”三原則クソ喰らえ俺が最強”プログラム】を実行します』
ツッコむ気力は今はない。
「……ッ!」
一応敵認定されてることは分かるので、銀髪の女も自律兵器への警戒レベルをさらに上げたようだ。
自律兵器がモーターをうならせ右腕を掲げる。向ける先は銀髪の剣士。銃口が向くや否や、ドダダダと連続した轟音が森に響く。銃声って初めて生で聞いた。これ以上近づいたらうるささで耳が痛いどころじゃ済まなさそうだ。
銀髪の女はものすごい速度で横へ駆け出し射線を回避していく。
「あんなでっかい剣を持ってあの速さか」
『普通の人間よりも明らかに身体能力が高い。彼女は何か特殊な性質を持ってるみたいだね』
「アルテリアス人全員あのレベルだったら普通に生きてける気しなかったな……」
ただ横に駆けるだけでなく、自律兵器の右斜め前へと走り出して距離を詰めている。
自律兵器も銀髪の女と一定の距離を保とうとしているのか、彼女に対して横歩きしつつ円を描くように移動していく。撃ちながらのためか脚はやはり遅い。
あっという間に自律兵器は彼女に距離を詰められる。アームの制御速度じゃ銃口を向けられないのか、射撃が止まる。ぐぃんと強烈なモーター音と共に右腕を裏拳のように薙ぎ払う。
銀髪の女は難なくバックステップしてかわし、大剣を振り上げつつ前ステップして素早く攻撃に移る。
「――チッ!」
だが自律兵器の続く左フックが彼女を襲う。銀髪の女は剣を掲げて左フックを防ぎつつ、フックの進行方向に併せて跳躍することで自身にかかる衝撃を緩和。
銀髪の女の着地を狙って自律兵器は既に銃での狙いを定めていた。彼女の着地とほぼ同時にフルオート射撃。
「うわ当たった!」
すっかり観戦モードになってしまった俺は思わず声が出る。銀髪の女は掲げた大剣に身を隠すが、それでも隠れきれない脚や手に弾丸がかすめているようだった。
「……え」
手袋やレギンスは裂けていることから間違いなく被弾してるのはここからでも分かる。白い素肌は見えているのに
俺の戸惑いなど知る由もなく、銀髪の女は弾かれるように駆け出し、再び回避と接近を試み出す。
「アンジュあれどういうことだ?
『あれが所謂【加護】と呼ばれるものだよ。世界樹から放出される特殊な粒子によって形成されるバリア。【世界樹の衣】とも呼ばれたりする。強い運動エネルギーや衝撃からアルテリアスの人間を保護する力』
「それってアーマースキンみたいな……」
『そう。アーマースキンと世界樹の衣はほとんど同じような役割を果たす。短い時間で集中的にダメージを受け続けていれば、世界樹の衣による保護状態は維持されなくなる』
「……あれ、ひょっとして俺はあの加護の力使えない感じ?」
『そうだね。転生とは言ったけど、君は魂で言えば異世界の人間だから、世界樹との繋がりまでは構築できなかったんだ』
「……所々わけわかんねぇ設定あるんだな」
『当事者が設定とか言わない』
再び観戦に戻ると、丁度黒い大剣と兵器の右腕が打ち合わんとしていた。黒い軌跡を描いて振るわれる大剣は、重い金属音を鳴らしながら自律兵器のマニピュレータを斬り落とす。戦闘もできる機体なんだから日本車みたいに柔らかいはずがない。それをこうも容易く斬り裂けるんだから、俺への攻撃を加減していたのは本当らしい。
だがロボ相手にマニピュレータへのダメージは特別有効打ではないだろう。世界樹の加護がアーマースキンと同じ振る舞いなら、回避しきれない銃撃はジリジリと銀髪の女の加護を削り続けることになる。まさしくHPみたいなもんだろうか。彼女は
正直今の内にこっそり逃げてもいいんだが、そうすればいよいよ彼女に敵と認定されてしまうだろう。傍から見ればあのゲートを開けて自律兵器を外に出したのは俺ということになるから。仮に彼女が勝ったとして、もし街中とかで遭遇した時にどうなるか分かったもんじゃない。かといって死なれたら、間接的に俺が殺したことになるから、あまり良い気にはならない。
だが大人しく銀髪の女に連行される気にもならない。あんな対話もいい加減な乱暴ちゃんでは社会的な面は信用できないが、少なくとも無駄に誰かの敵になるのは避けたい。話せば分かるかどうかは分からないにしても、自律兵器の件でこれ以上自分に濡れ衣を着せたくない。
自分の意思と脚でこの世界を見て、どう生きるかを決める自由ぐらいは欲しい。
あれだけ言葉で言って伝わらないなら、行動で示してやる他ない。俺はこの世界の敵じゃないし、なるつもりもないことを。
「アンジュ、あの銀髪に敵じゃないと認めさせつつ、こっちの行動の自由を確保したい。彼女を援護してもし借りを作れれば、その状況に持っていけると考えてみたんだけど、どうかな」
『すぐに決着はつきそうにないし、可能性はあるね。それじゃ軽く作戦会議といこうか』
アーセナル・オブ・アルテリアス ひとぎん @variantstring
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