第29話 結ばれるふたり

 委員長を家まで送って、翔太とサラマンダーとも別れ、ようやくうちに帰ってきた。


「ほんと疲れた……。原因のほとんど俺の親起因だけど」


 ため息混じりに言うと、ましろが小さく笑った。


「本当にお疲れさまなのじゃ、旦那さま」


 ましろがソファに座った俺の肩を揉んでくれる。ふわりといい匂いがした。


「ありがとうな、ましろ」


「どういたしまして、なのじゃ」


 ましろが愛らしい笑みを見せる。俺はふと思って、彼女を抱き上げて膝の上に座らせる。


「旦那さま……?」


「ましろ、好きだ」


 ふぇ……? と、ましろはぎょっとして頬を染める。


「ど、どうしたのじゃ? 旦那さま……! わ、わしも好きじゃぞ!? 愛してるのじゃ!」


「俺も愛してるよ」


 戸惑いを浮かべるましろの頭を撫でながら、俺は言った。


「ちゃんと言っておいたほうがいいと思ってさ。今まで――いや一日しか経ってないんだけど――とにかく、ちゃんと自分の気持ちははっきり伝えておくべきだと思ったんだよ。ばあちゃんにも『不満は日頃の鬱憤がたまって爆発するもんだ』って警告されたばっかりだしな」


 これ聞きたい言葉じゃなかったか? と訊くと、ましろはぶんぶんと首を横に振る。


「最高にうれしいのじゃ旦那さま! 毎日言ってくれていいのじゃぞ?」


 表情もそうだが、ましろのしっぽが左右に激しく動いている。とてもうれしそうだ。


「毎日言うよ」


 俺は笑って答えた。


「じゃあ、こっちもしてほしいのじゃ!」


 んー、とましろは俺に顔を近づけて目をつぶる。


〔こ、これは……! つまり、しろと?〕


 正直、まだ気恥ずかしさはあった。だが、ましろが望むなら――俺は少しばかりためらったが、すぐに唇を合わせた。


「えへへ……旦那さま、結構大胆なのじゃ!」


「いや、ましろが――まぁ、俺もしたかったけど」


 ふたりして、笑い合った。


「じゃあ今日からベッドも一緒なのじゃ!」


「それはさすがに早すぎじゃねーかな!?」


「別にわしらは浮世から離れた存在なのじゃから――」


 ハッと気づいたように、ましろは首をかしげる。


「いや、浮世でも気の早い者はそんな感じではないのかのう? 最近の十代は進んでいるとかなんとか……」


「さすがに再会翌日は少数派だと思うけどな……。でもまぁ」


 別にましろが望むなら、いいのか?


「わかったよ。じゃあ、一緒に寝ちゃおうか?」


「おっ!? 旦那さま、やっぱり意外なくらい大胆なのじゃ! グイグイ来てくれるの、わしとしてもうれしいのじゃ!」


「どう見てもグイグイ来てるのましろのほうだけどなー」


 俺が苦笑いして答えると、ましろは恥ずかしそうにファンシーなデザインのステッキを取り出した。


 俺は苦笑いのまま凍りついた。


「ましろさん……? なんでそれ持ってらっしゃるんです?」


「わしは捨ててなかったから――」


「いやそれ俺用に作られたデザインのやつじゃねーかな!? なんかものすごく見覚えある形してるんだけどぉ!?」


 ましろはバツが悪そうに笑って、ふたつのステッキを両手に持った。


「転移したあと、なぜかわしの手に旦那さまの変身アイテムが握られておったのじゃ。うん……さすがは旦那さまの母御じゃな! 恐るべき早業じゃ!」


 ましろは恥ずかしそうに顔を赤らめて、


「で……旦那さま、これ――」


「ダメです」


「即答なのじゃ!」


「それだけはやらねーよ絶対に! むしろ初夜がそれでいいのか!? 初手TSなの!? TSっていうかさ――!」


「さすがに初夜はダメじゃが! でも、これ、そのぅ……あるとプレイの幅がものすごく広まりそうな予感がするのじゃ!」


「ダメです」


「頑ななのじゃ!」


「当然だよ! っていうか、あンの馬鹿おふくろ……! ほんと変な爪痕残しやがって……!」


 なんちゅう母親だよ! こんな母親普通いるか!?


「むぅ、仕方ないのじゃ。ひとまず引き下がるとしよう」


「『ひとまず』じゃなくて永遠に引き下がっててくれ……頼むから」


 俺は吐息混じりに答えた。


 ましろの意外な嗜好にちょっと驚いてしまうが……こういうのは個々人でだいぶ好みが分かれるからなぁ。でも嫌だぞ、いろんな意味で。特に母親の思惑に乗るのがすごく嫌だ。


「まぁわしも旦那さまに無理強いする気はないから、そこは安心してほしいのう」


 ましろは、はしゃいだ様子でうれしそうに俺を抱きしめる。


「わしは、旦那さまと無事に結ばれただけで満足じゃ」


「まだ満足しないでくれ。これからもっと幸せにするから」


 俺たちは、もう一度キスをした。(了)



――――――――――――――――


【以下、あとがきを兼ねたお礼と宣伝です】


 最後までお読みくださり、ありがとうございます。


 主人公とヒロインが最後に結ばれる物語、として十万字くらいの分量のラブコメを考えていました。実際は十一万字オーバーでちょっと予定より多くなってしまいましたが、物語そのものはきちんと完結できたので満足です。


 第1話にも書きましたが、本作はカクヨムコン9の参加作品です。というよりカクヨムコン9用に急遽プロットを作って書いた作品でした。


 カクヨムコン9自体はすでに〆切を過ぎ、またこれを公開した時点で読者選考期間も過ぎちゃってますが、それはそれとしてフォローや♡、★をもらえると作者がとても喜びますので、お気に召したらどうぞ。


 また、本作に関連するものとして、『僕の生きる世界』という短篇も書いています。本作にも登場した赤崎翔太を主人公にしたもので、サラマンダーと修一も登場します。本作と違ってシリアスな短篇ですが、よければどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/16818023212747134639


 このほか、以下の三作品もカクヨムコン9の参加作です。よければこちらもどうぞ。『覇竜のハーレム』以外は完結済みです。


『覇竜のハーレム 最弱種のミニチュア・ドラゴン、最強の暴虐竜となる』

https://kakuyomu.jp/works/16817330668222069123


『聖なる乙女の××』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654963568063


『【短篇】追放ざまぁされる無能パーティのリーダーに転生してしまったんだが、なんで追放直後に記憶が戻るんですかね……』

https://kakuyomu.jp/works/16818023212799964983

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狐耳少女の嫁入り ケモミミ少女に熱烈アプローチされるが、俺は鉄の意志で耐える(耐えられない) 笠原久 @m4bkay

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