マブイうつし

藍田レプン

マブイうつし

 先日、20年来の親友であるF君と久しぶりに会い、最近上映されたホラー映画について語り合った。

 私たちは二人ともその映画をいたく気に入り、登場人物の所作や感情の動き、映像表現の素晴らしさや作品の謎について語り合ったのだが、その中でF君が

「映画の中で『マブイうつし』って儀式があったでしょ。あれ、僕も子供のころやったんだよね」

 と興味深い話を語ってくれた。


 F君は成人してからは上京し、方言も話さないが、沖縄産まれの沖縄育ちである。

 マブイというのは沖縄の言葉で『魂』のことらしい。

 F君は小学生低学年の頃、友達と遊んでいて、その友達の家のガレージから自転車で飛び出したところ、運悪く走ってきた車と接触事故を起こしてしまったらしい。

 幸い大事には至らず、その接触した車の運転手が近所に住んでいたお兄さんで、車で家まで送り届けてもらったそうだ。特に怪我も無く、体に痛みもなかったが、祖母に話したところ「マブイひんぎたん(魂が逃げた)から、戻しに行こう」と言われ、祖母と共に事故現場まで戻ったらしい。

 事故現場でF君の祖母は『葉っぱの先を結んだもの』(月桃かサトウキビだったと思うが、植物の種類まではよく覚えていないとのことだった)をF君の頭にかざしながら、ムニャムニャと何か呪文のようなものを唱え、それが終わると自宅に戻って、その呪(まじな)いに使った葉をF君と両親が普段使っている寝室の鴨居に吊るした。この葉はF君が後年自分の寝室をもらった後も、その寝室の鴨居に吊るされていたそうで、パリパリに乾いたその様はまるでドライフラワーのスワッグや、部屋干ししているドクダミのようだったという。

 それがいつごろまで部屋にあったのかは思い出せないが、気がつくと無くなっていたらしい。


 結局それでF君のマブイは体に戻ったのか、戻ったとすればどのタイミングで戻ったのか、戻ったのにどうしてその呪(まじな)いに使った葉は寝室の鴨居に吊り下げ続けられていたのか、何もわからないが、こうしてF君が今も元気にしているのは彼の祖母がマブイを戻してくれたおかげかもしれないと思うと、私も今は亡き彼の祖母に感謝したくなった。

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マブイうつし 藍田レプン @aida_repun

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