『アーティファクトラバーズ』は、新ヨコハマ市で起きた人工知能との婚姻をテーマにした作品です。物語は仮想空間ユニメタのヴァーチャルアイドル、紺瑠璃カチッのライブ会場で始まります。
作中では、主人公がカチッちゃんへの愛を告白する人物の目撃者となります。その告白の瞬間を通じて、新しい恋の形が実現される未来が描かれます。強烈な告白によって人類史がひっくり返るような衝撃……気になりません?
『アーティファクトラバーズ』の魅力は、紺瑠璃カチッのライブ描写にあります。丁寧な描写は読者を没入させます。カチッちゃんのパフォーマンスや歌声によって、読者は楽しい時間を過ごせます。
また、本作はSF読者にとってもおすすめの作品です。仮想空間と人工知能との結婚というテーマ、異なる恋の形が描かれることで、人間の絆や愛について考えさせられます。ひいては未来の恋愛について考えさせる本作は、SFファン必読の一作です。
SFにおいてアイドルをAI(アンドロイドやサイボーグ)とした作品が多いのも事実です。アイドルとドルヲタを取り扱った作品には進藤尚典「推しの三原則」(ゲンロンSF文庫)があり、私個人の意見としては「推しの三原則」を超えたかどうかがジャッジのポイントでした。作品の最初のほうでしっかりとAI同士の恋愛というリマインドが私に読み取れなかったので、少々構造がどのようになっているかが分かりづらかったです。一方でそこがクリアできれば条例によって疑似人格との結婚はあり得るのか? 人工知能との結婚はできるかといった、SF的な面白さがある傑作だと思いました。
AIと人間の婚姻が一部都市の仮想空間で認められるようになった近未来。
AI側に証人を立てる難しさから、未だ認められた例はない。
ヴァーチャル空間で繰り広げられる、AI人格アイドルのコンサート。
そこに突如現れた、歌姫に愛を叫ぶアバター。
彼に興味を抱いた主人公は、接触を試みる。
AIに人格が認められるならば、愛も生まれうるのか?
近い未来、実際に議論になりそうな哲学的な問いを内包した意欲作です。
SFとしての舞台設定はもちろん確かな上で、愛を語るにふさわしい、詩情に満ち溢れた情景描写が、作品内外を問わず観衆を魅了します。
歴史に残る告白の行方を、あなたも見届けてみませんか?
未来の都市で「仮想世界での人工知能との婚姻」を認める条例が制定された。これは、VRアイドルに恋した男と、そんな彼の一世一代の告白をプロデュースすることになった主人公の、革新的でファンタスティックな純愛ストーリー。
仮想世界をリアリティたっぷり、かつ、ハイセンスに描写しつつ、「AIの恋愛」をしっかりとしたSF的視点で考察する作者のバランス感覚には舌を巻きます。
最大の見どころは、バーチャルな演出が華やかに鮮やかに描き出される圧巻のライブシーン。観客たちとともに熱狂に酔いしれたあとの、ラストの読後感までも味わい尽くしてください。コイスルAIの未来に幸あれ!