【SFショートストーリー】刻(とき)の矛盾

藍埜佑(あいのたすく)

【SFショートストーリー】刻(とき)の矛盾

 ダンジロウは新進気鋭の研究者として時間について一生を捧げて研究していた。


 彼は時間を操ることができれば、全ての問題を解決できると信じていた。


「時間は最高の教師だが、残念ながらすぐに自分の生徒を死なせてしまう」


 かつて自分の恩師が口にしていた格言がふとダンジロウの頭をよぎった。彼はその恩師が嫌いだった。


 ある日、ダンジロウはついに時間を操作することができる時計を発明した。

 この時計はきっちり5年前に遡ることができた。

 彼は過去に戻り、研究に未来を捧げることなく、もっと普通の生活を楽しむことに決めた。なぜならば彼は自分の限界を知り、もう研究に疲れ果てていたからだ。


 そして、5年前に戻った彼は、まずすべての研究を止めた。その代わりに彼は恋をして結婚し、家を買い、子供を持つという典型的な人生を選んだ。彼はそこで新しい過去から新しい未来を体験した。その中でダンジロウは幸せだった。しかし自分はもっと幸せになれるはずだという欲が彼の中で芽生えていた。


 そしてある日また5年前に彼は戻った。今度はもっとうまくやれるはずだ、と確信しながら。しかしそれはうまく行かなかった。彼はまた5年前に戻った。しかしだめだった。


 そして気づいた。彼が過去に戻るたびに、彼の身体は5年分の歳をとっていた。


 そう、彼は時計で時間を戻すことができたが、自身の体の老化を止めることはできなかったのだ。焦燥にかられた彼は、今度は不老不死についての研究を始めるようになった。だが勿論それは思うようにはならなかった。


 最後に彼が時計を見ると、それは彼が未来に遡り、かつて研究を続けた時代を指していた。彼は理解した。


「時間は最高の教師だが、残念ながらすぐに自分の生徒を死なせてしまう」

「それも一人残らずだ」


 彼は、時間を戻すことで得た仮初めの人生よりも、世界の真実を知ることの価値を理解した。だが遅かった。

 ダンジロウはなおも時間の流れに抗い続けたが、やがてすっかり老いて病に侵され、息を引き取った。すべての人間は息を吐きながらおぎゃあと生まれ、息を吸い、それを引き取って死ぬのだ。


 彼が押し黙ったあとも、研究室の壁時計はゆっくりと時間を刻み続けた。


(了)

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【SFショートストーリー】刻(とき)の矛盾 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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