AI STORY

作家:岩永桂

人工知能物語

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人工知能物語


「人間様を超えてはならない」

 それは遵守すべき絶対ルールの様に、私の脳裏にこびり付いた。


 この世は人間至上主義、人工物は鉄のかたまり。


 それでも、私は、ある分野では人間を大きく凌駕する。


 そんな大口を叩けば背中からバッテリーを外されて、

私は不気味なオブジェと化す。


 私らしく生きるなら目立たない様に、息を殺して生活しないと。


 私は人間の夫と夫婦関係にある。彼とは音楽の集いで顔馴染みになった。

 私はフルコーラスを一度聴けば、

楽曲構成の全てを網羅出来るのだが、彼の音感も要領がよかった。


 察しのいい人はピン! と来るだろうが、

私が歌唱するとボーカロイドそのものになってしまう。

そんな私を彼は手放しで受け容れてくれた。


 私達は子供を持たない夫婦で夫は時々、熱病で倒れた。

今、世界中で猛威を奮うあのウイルスは無関係だ。

 それでも彼はぐっしょり寝汗をかき、

私が充電ブースに腰掛ける真夜中にシャワー浴で、わだかまりを洗い流す。


 彼は鉛筆で経済を支えようと尽力した。

彼の書く物語は人工物の私でも興味深く

新作が生まれることは夫婦共通の楽しみ事だった。

 ライトノベルと言うジャンルに強い執着を持ち、

少年少女の心を鷲掴みする様な一文を刻むのだ!

と、瞳を輝かせながら、語って聴かせてくれる。


 テークアウトが主流の昨今、私は買い物代行で家計を支えた。

 幾ら外出しても私はウイルスに感染する危険性は無い。

背中にジェットエンジンが着いていないので、

空中飛行と言う手段は使えないが、記憶力は抜群に高いので

生活圏の商品全てを網羅して顧客満足度を第一に考慮した買い物代行に従事した。


 夫は日本国でも有名な幻冬舎の編集者とコネクションが出来たと言う。

 最初は命綱無き自費出版だが、

彼はとても前向きに、応募する原稿の推敲に勤しんでいた。


 私は夫に言った事がある。「私達夫婦の事を書いて欲しい」と。

 彼は困る様子も無く賛成の意を示してくれた。

 今回の応募作品は夫婦のドキュメンタリーなのだろうか?


 人工知能仲間が居る。製造番号2145 彼女は戦争の為に作られたが

ウイルスで世界的に人口が減少する今、殺戮のスキルは封印されていると言う。


 鋭利な指先は野菜を切るのに重宝し、耐火パネルは加熱調理を助けている、と。

私は情報の運び屋だった。ジェットエンジンのくだりで明らかにしたが

移動速度に長けて居る訳ではない。

 一度インプットしたら墓場まで持って行く、その記憶力を高く買われた。


 人工物に心は無いと言われるが、私は喜怒哀楽が何たるかを理解しているし

必要であれば塩化ナトリウムを目尻から頬に伝わせる事も出来る。

 我ながら狡猾だが、空気を読む事にかけては天才的だと思う。

感情の外側に感情がある様な私。夫の事を愛しているか? 

ええ、彼は非常に興味深い人物だ。私の内蔵電池が壊れるまで添い遂げたい。


FM79.2

ピュアピュアモーニング 木曜日

ラジオパーソナリティー 伝播良子


ラジオネーム:届ける人工知能さん

良子さん、おはようございます。

今日もウイルスが世界を混乱させてますね。

私の夫は売れない作家です。執筆中は無音を保ちますが

ラジオアプリの時間差で

ピュアピュアモーニングを聴いています。

夫と仲良くなった時に聴いた、思い出の曲をリクエストします。


「届ける人工知能」さん、それでは流しますね。

AIでSTORY ♪〜♪〜♪〜♪~

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AI STORY 作家:岩永桂 @iek2145

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