人妻ロシアンルーレット

武蔵野純平@蛮族転生!コミカライズ

人妻ロシアンルーレット

 不倫は文化と言い切った偉人がいる。


 まさにその通り。名言だ。

 愛には国境もなければ、性別もない。

 あるのはセックスの相性だけだ。


 俺はデート用のきれい目カジュアルな服装で家を出た。

 向かうは池袋。

 ネットでハードセックスの約束を取り付けた人妻に会うのだ。


 お相手のスペックは三十歳で子供が一人いるとだけ判明している。

 だが、外見は一切分からない。


 俺は待ち合わせのカフェで期待と不安に胸と股間を高ぶらせた。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか……。

 しまった!

 田中真紀子似の女が来てしまった!


 だが、俺は慌てない。


 有名な言葉がある。

 なぜ、山に登るのか?

 それは、山があるからだ。


 至言である。


 なぜ池袋に来たのか?

 それは、女がいるからだ。


 金言である。


 つまり、俺は今からこの田中真紀子に似た人妻とセックスをするのだ。


 山があったら上れ。

 女がいたらヤレ。

 男の生き方はシンプルな方が良い。


 ゴチャゴチャ言うのは、ガキの言い訳だ。

 まずは食え。食ってから話せ。


 時間は午後一時。


 俺は真紀子(仮名)と池袋のホテルに入り、一時間ほどハードなセックスに興じた。

 バッグの中に入っていたローター、バイブレーター、緊縛用の縄を使い濃密な時間を過ごしたのだ。


 俺は椅子に座り、ゆっくりとタバコを吸う。

 今、俺は賢者である。


 真紀子(仮名)の外見はイマイチだが、体の相性は良かった。

 涙を流し喜んでいる姿は可愛く、男と女の世界は奥深いと俺は感慨深かった。


 また一つ男として大きくなれた気がする。


 スマートフォンが鳴った。

 俺は真紀子(仮名)に断りを入れて電話に出る。


「はい。日比野です」


「あー! 日比野君! 今日、これから時間ある?」


 転職支援会社だった。

 四十代の押しの強い担当者が、スマートフォンが壊れそうなボリュームで話し出す。


 現在、俺は転職活動中だ。

 正確には、無職である。


 池袋のラブホテルで、全裸で椅子に座りタバコを吸いながらも、自分の将来に大きく関わる話をしなくてはならない。

 インモラルな気がして、心の中で転職会社の担当者に謝りながらも会話を続ける。


「これからですか? 大丈夫ですよ」


「じゃあさ。急いで新橋まで面接に来てくれないかな? 先方に欠員が出て急いでるんだって」


 転職会社の担当者から詳しい話を聞くと、ある有名な大手IT企業のビッグプロジェクトで欠員が出てしまい急遽人を探しているらしい。

 明日からでも働いて欲しいそうだ。


 機を見て敏なりという。


 今、俺は池袋のラブホテルにいるが、チャンスがあるなら新橋に行くべきだと判断した。


「今、池袋です。すぐに向かいます。あの……私はカジュアルな服装なので、先方にOKをもらっておいて下さい」


「わかった!」


 俺は真紀子(仮名)に事情を話し、ラブホテルを出た。

 新橋の駅前で転職会社の担当者と合流し、立派なオフィスビルに入る。


 先方は五十代の落ち着いた人事担当者で、俺のことを気に入ってくれた。

 俺は緊張することなく、なかなか上手く対応した。

 バッグには先ほどラブホテルで使用した大人の道具がてんこ盛りにも関わらずだ。


 恐らく池袋でハードに決めてきたことが、心身に良い影響を与えたのだろう。

 良い影響――それは男の自信。

 山に登った男は、頂きから麓を見下ろし自信を深めるのだ。


 人事担当者は、俺の放つ男の自信に揺さぶられ採用のハンコを押した。



 俺は新しい職を得た。

 それも優良な職場だ。


 これも今日抱いた女のおかげだ。

 俺は礼を伝えようとスマートフォンで女にメッセージを送った。

 だが、メッセージは届かない。


 そういえば、『一度だけ激しく抱かれたい』と彼女は言っていた。

 一度だけの関係と割り切りたかったのだろう。

 彼女の代わり映えしない日常に、ほんの少し花を添えられたなら俺も満足だ。


 ふう。

 男女の道は奥深いな。


 俺は寂しい気持ちを抱えながら、帰りの電車に乗り込んだ。


 さて、明日は恵比寿だ。

 どんな人妻がやって来るのだろう。


―― 完 ――

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