第19話 アリッサside


「ふむ。あまりよろしくないものが屋敷にいるな」


夜、寝る前にレオルさんの部屋で文字を習っていると唐突にレオルさんがそう言った。

何のことだろうかと首を傾げていれば、ローエンさんが補足してくれる。


「おそらくは精霊の類だ」

「……え?」

「吸血鬼と契約しているとはいえ、吸血鬼嫌いのあいつらが屋敷に来るとは。これもリアンさんの影響かな」

「どういうことですか?」


ペンを置いて尋ねれば本格的に説明を始めてくれるようで姿勢を直していた。


「ああ、リアンさんについて説明不足だったね。リアンさんは通常人間には見えないものが見える目を持っているんだよ。精霊や物の怪などの生物、そしてリアンさんの場合は死者も見えると予想するがね。」

「じゃあリアンが精霊を呼んだということですか?」

「いや。きっとリアンさんはあいつらに好かれているから寄ってきたんだろうな。」

「……どうなるんですか?」

「まあ大したことはない。放っておいても問題ないだろう。精霊たちは甘い言葉で人間を誘うが人間側からの同意がない限り何も出来ないんだ」

「そうなんですか…」


大丈夫だとは言われるが、不安で仕方がない。

するとレオルさんは安心させるように微笑んでくれた。


「大丈夫だよ。私もいるし、もしアリッサさんに何かあればすぐに助けに行く。」

「……はい」


部屋が思う空気に包まれた時、部屋の扉が雑にノックされる。

そんなノックをする人は1人しかいない。


「おいレオル!!開けろ!」

「…鍵かけておいて正解だったな」


ゆっくりと椅子から立ち上がったレオルさんはため息をつきながら部屋の鍵を開ける。

その瞬間に勢いよくドアが開き、部屋の中に入ってきたのはツィガさんだ。

今日はもう文字を習うどころではないだろう。

テキストを閉じて2人を見ていればこちらに気づいたレオルさんがものすごい勢いで近づいてきた。


「おいお前、クロエをどこにやった!!」

「え、なん、ですか」

「クロエがいないんだよ。またどっかに隠してるんじゃねぇだろうな」

「そんなことしていません!それより何があったのか話してください。クロエがいないって…」

「どこ探してもいないんだよ。ここからは出られねぇはずなのに」


そこまで話してツィガさんはため息をついた。

思えばこんなに取り乱しているツィガさんを見るのは初めてだった。


「ツィガ。一度落ち着け。焦っても何も良いことないぞ」

「…悪い」

「しかしこの屋敷には5人しか探知できない。クロエさんこの屋敷からいなくなっている可能性は高いな」


レオルさんは杖を通して何か見ているようだった。

もしかしたら吸血鬼特有の能力なのかもしれない。

それが気になるよりもクロエがこの屋敷にいないという事実にただただ驚くしかなかった。


「だが問題はどうやって外に出たかだな。この屋敷から人間は出られない。そこを通過するには私から許可を貰うか昔からここにいる精霊でないと…」


そこまで言って先ほどの話を思い出す。


「あの、もしかしたらクロエは妖精に誘拐されてんじゃないですか?」

「……しかしその場合だとクロエさんは自分の意思で妖精について行ったことになる」

「でもそれくらいしか考えられなくないですか?」

「確かにそうだが……」


レオルさんは考え込むようにして黙り込んでしまった。


「とりあえずローエンも呼ぼう。もしかしたら何か知っているかもしれない」

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こんな私を愛せますか? 宮野 智羽 @miyano_chiha

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