最終話 とある昔話

 昔々、この地で疫病が流行り、多くの人が亡くなった。

 多くの村々が廃村となり、余所へと移る人も多かった。

 この現状をどうにかしようと一部の村人が集まり話し合った。

 話し合いの中で、一人の村人がこう言った。

「この地で一番高い山の上に薬師如来様を祀り、我々を守っていただこう」と。

 他の村人達はそれに賛成し、京の法師に作ってもらおうと考えた。

 しかし、当時の東北地方は京の人々にとって得体の知れない地域であり、そこに住む人々は差別の対象になっていた。その東北地方にある辺境の村のために薬師如来様を作ってくださる方は居るだろうか。そもそも、作ってもらう上で必要な対価を彼らは持ち合わせていなかった。

 村人達は更に悩み頭を抱えた。その時、また一人の村人がこう言った。

「では、我々で作ってしまえばいい」

 村人達は首を振った。この村には如来像を作れる職人はいない。素人が作ったものでは疫病は払えないと。

 対して、提案した村人はこう言った。

「大事なのは像ではなく、我々の祈る心である」と。

 首を振っていた村人達は顔を見合わせると、「確かにその通りかも知れない」と納得し、自分たちで如来像を作り、祀ろうと考えた。

 翌日、村人達は山の頂上にあった小さな神社のご神木を切り倒し、旅の僧が置いていった仏教の古い本を頼りにそのご神木で如来様を作った。

 出来た如来像は所々に粗が目立つものの、ご神木の白い木目が神々しさを感じさせた。村人達は喜び早速山の頂上へと祀った。

 だが、一向に疫病が止む気配は無かった。むしろ勢いを増している気さえした。

 村人達はまた頭を抱えた。一体どうすれば良いのか・・・。

「まだ、如来様の力が足りないかも知れない。霊力を持つ物、御利益のある物、呪い、祈祷、お祓いなど、色々試してみてはどうか」

 そう提案したのはまたもあの村人だった。村人達はすぐに返事はしなかったものの、それ以外に方法も思いつかなかったためその提案に乗ることにした。

 早速村人達は仏教の本や村に伝わる呪い、隣村の言い伝え、伝承を基に如来様の力を高めることに努めた。

 一心にお経を唱え、お経を書いた板で囲おう。

 山の聖霊たる熊の毛皮で包んで差し上げよう。

 鳥は神の御使いとされているから、鳥の血と羽根を献上しよう。

 猿は太陽神の使者とされているそうだから同じく血と毛皮をお供えしよう。

 数珠を持たせよう、紙垂で汚れを祓おう、木魚の音と線香の煙で鎮めよう。

 陰陽師に習い、呪い《まじない》を込めた御札を貼ろう。

 無垢な子供の生き血を捧げよう。

 村に来た旅人を生け贄にしよう。


 しばらくして、村から疫病は消え去り、山の麓にはあらゆる傷を癒やす薬の湯が湧き出でた。村人達は大喜びし、普通とは異なるなりをした薬師如来様を敬った。そして彼らは毎年師走の仏滅の日に贄を捧げて、村の繁栄を祈願するようになったという。

 しかし、旅人達の間でいつしか「旅人が喰われる村」として噂が広がり、忌み村として遠ざけられてきたとされている。

          

      1979年発刊『東北伝承見聞録(初版)』より、「⚫⚫村史伝」から抜粋
















 



あの町には絶対に行かないでください。あれは実在します。

 

 

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あれはなに? 吉太郎 @kititarou

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