なんか、ごめんな?

平 遊

足だけ幽霊

 その道は、『出る』と噂のある道だった。

 特に深夜に一人で歩いている時に出るという。

 なにが出るのか。

 それは、下半身だけの『足だけ幽霊』。

 なんでも、昔ここいらで下半身だけの遺体が見つかったとかで、『足だけ幽霊』はきっと失った上半身を探して歩いているのだろうと。

 一人で歩いていると、いつの間にかすぐ後ろからヒタヒタと追いかけてきて、追いつかれると暫くの間下半身を乗っ取られるというのだ。

 つまり、自分の意図しない方向へと体が連れて行かれてしまうらしい。


 そんな道だから、俺はそこを通るのはあまり気が進まなかったのだが、その日は他の道が丁度工事中で通行止め。家に帰るためにはその道しか無く、止むなく深夜12時過ぎにその道を通らざるを得なくなってしまった。



 ヒタヒタ……ヒタヒタ……


 しばらくすると、自分の足音以外にもう一人分の足音が聞こえてきた。

 背筋がゾッとするのを感じながらも、恐る恐る振り返ってみると、そこには噂の『足だけ幽霊』の姿が。しかも、もうすぐにでも、俺に追いつかんばかりの距離。ヤツは脇目もふらずに真っ直ぐに俺の方へと歩を進め、着実に距離を縮めてくる。


 ……ん?


 こんな危機的な状況にも関わらず、ふと疑問が頭をもたげた。

 脇目もふらずにヤツは俺との距離を詰めてくる。

 脇目も、振らずに。


「目も無いのに、よくそのスピードでそんなに真っ直ぐ歩けるよな」


 思わずつぶやいた途端、『足だけ幽霊』の足がピタリと止まった。

 不思議に思って逃げるのも忘れて見ていると、『足だけ幽霊』はなんと今までの歩みが嘘のように、フラフラと歩き始めたのだ。

 それは、まるでいきなり目隠しをされた人間が、方向が分からずに恐る恐る足を踏み出しているような。

 遂には道の脇にある塀に激突し、『足だけ幽霊』はそのまま姿を消した。


 その後、『足だけ幽霊』の目撃証言はパタリと止んだ。

 もしかしたら、あの『足だけ幽霊』は自分に目がないことを忘れていたからこそ、まるで見えているかのように歩けていたのかもしれない。それを、俺が余計な一言を言ってしまったばかりに。


「なんか……ごめんな?」


 その道を通るたびに、俺はつい呟いてしまうのだった。


【終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんか、ごめんな? 平 遊 @taira_yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ